第1章
全ての生物は生きるために進化した。
適応し、淘汰され、繁殖し、より長く生きることを求め続けた。
その中で人間だけは、死に意味を見出そうとした。死後の世界。極楽。天国。輪廻転生。
数え切れないほどの答えを作った。
しかし、この世界では違う。死は解明されている。
私のキャラクターの為に用意した世界では、肉体が飽和した後、墓の中で死者は夢を見る。
幼い頃に寝付けずに終わった夢、目覚ましに睡眠を奪われた夢、不安で不安で眠れない夜の夢。
生きている間に身損ねた全ての夢、人々はそれを走馬灯と呼称する。
だから墓守がいる。
夢を終える者を守るために。死体漁りから。墓荒らしから。そして、生者の未練から。
どれだけ会いたくても。どれだけ話したくても。
墓を暴けば夢は途切れる。
夢を失った死者は眠れない。
眠れなくなった者は幽霊になる。
だから墓守がいる。
今夜もまた、一人。ランタンを提げて墓地を歩いていた。
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墓参り
ランタンの灯が墓石を照らす。
白い光が名を刻んだ石を撫で、湿った土の上へ細長い影を落としていた。
夜風が吹く。草が揺れる。誰かの夢を起こさぬように、少年は静かに墓地を巡る。
それが仕事だった。そして今夜もまた、仕事の邪魔をする者がいる。
「こんばんは。いい夜だね」
墓石の上に腰掛けた女が、手を振った。少年はため息をつく。
「そこ、人が入ってますよ」
「知ってるよぉ」
「なら降りてください」
「嫌だ」
酒瓶を抱えた女は楽しそうに笑う。
こちらを伺う生意気な目つき、天邪鬼な言動。まるで子供だ。
墓守はランタンを掲げた。
「また来たんですか」
「また来たよ」
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墓暴き
酔華は墓石の上で土瓶を鳴らした、店の在庫を尽くして尚酒はちゃぷりと鳴る。
「ここは涼しくていいね、帰る頃には湯水も氷になりそうだ。」
墓守はランタンを少しだけ絞る。風も湿気もないが炎は揺れている。
「またあれやってんですか、一気飲みと変わりませんよ。」
「いいのいいの、あれが二日酔いに一番効く」
「迎え酒という奴ですか、どうも僕には理解できません。」
「酒はほどほどにね?そうじゃないと火傷じゃすまないよ?」酔華は瓶の口を墓守へ向ける。
自分の姿が見えないのか、その目線に彼は一抹の反抗心を覚えた。
「あなたの近くにいると、ランタンの減りが早くなる。」
「そんなにじゃないでしょ、、、。じゃないよね?」
「どうでしょう。私は人間の未成年なんで分かりかねます。」
墓守は無表情のまま言った。淡白な対応に心配なのか酔華の声が弱くなる。
「そんな、、初夜に盃を交わした仲じゃないか。」酔華は胸元へ手を当てて嘆く仕草を見せた。
「なんともインモラルな言い方で。あと急にその顔やめてください」墓守は即座に返す。
「ウブな君にもこの顔の味がわかってきたか。いくらの店主を堕としたと思って?」
「僕だったらその脳天に雷を落としてやりますよ」墓守はランタンを持ち上げる。
「きゃっ、火傷しちゃーう!」酔華はわざとらしくも肩を竦める。
その合間には、嫌に色気付いた肌が肩掛けの上着からも確認できた。
「火傷で済むんですね」
「あなたが言ったんでしょう?」
「火傷はあなたですよ。」数刻の沈黙のち、瓶を見下ろす。
「そうだっけ?」
「そうです。」
夜風が颯爽と吹き、高い葦の草が揺れる。
墓石の群を抜けた風が二人の間を通り過ぎた。
「,,,,覚えてないなぁ」
「でしょうね」
分かりきった事のように彼の顔は呆れ惚けていた。
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肝試し
「もう僕行きますね、これでも墓守なんで。」
「おー肝試し!夏の青春!」
「着いてくるんですか?あまり気分のいい物でもありませんが。」
「だからいいんじゃない。そういうイベントよ。」
ランタンの絞りを戻し、二人はゆったりと歩き出す。
彼女の大柄は月夜に照らされると、一見妖怪に見えるかもしれない。
「これ、私たちの方が幽霊っぽくない?」
「今年はまだ出ていませんし、有り得る話ですね。座っていてくれません?」
「墓石に座るのはダメなんじゃなかったの?」
「ダメですけど、結構驚いたんですよ。私」
「へぇええー。。。へぇー、、、」
彼女の顔が途端に愉悦と曲がり始める。
頬に当てた指はその未来を仄めかしている。
「がおー!」
酔華は両手を広げ、墓守の行手を阻むように乗り出した。薄黄の長い髪が肩から垂れる。
月明かりを背負った大柄な影は、確かに夜道で出会えば悲鳴の一つでもあげてしまいそうだ。
「もう驚きませんよ、あと前が見えません。」
「えぇー。もう少しくらい驚いてよー」
「初回はしました」
「見たかったなぁ、君が驚いた顔。」
「妖怪め」
「肝試しに妖怪は付き物でしょう?」
「こんな酒臭い妖怪なんて、墓守の僕が認めません。」
「あら手厳しいお師匠様。もう一回脅かしちゃダメ?」
「それ以上妖怪の真似事をするなら、祟られてしまいますよ。」
墓守は酔華の演出で擦れた制服を貼り直し、灯火の手持ちを強く握った。
「困るなぁ、屋街の美女が失われるなんて。」
「自覚してるんですね、意外でもないですけど」
「これほどの褒め下手なんているのね」
「やかましいですよ、淑女は慎ましくいなさい。」
「了解です。お師匠様ー」
酔華は両手を後ろで組み、墓守の後ろをついて歩く。わざと足音を合わせるように。
「また変な真似事を、、、」
「弟子入りしたんだから当然でしょう?」
「入門を認めた覚えはありません。」
酔華は肩を落とした。もっとも、声に落胆の色はほとんどない。
一人が管理するには少々広すぎるような集合地、淡く照らされる墓石の中で一つに彼は足を止めた。
「、、、知り合いでも見つけた?すまないが供物はないよ、」
「いえ、何でも。ただの清掃です。」
「君がちゃんと墓守しているの初めて見たかも」
「あなた、いつも僕よりも先に来ているからわからないんでしょう」
酔華は酒瓶の口を唇へ当てかけて止めた。
「ごめんねぇ、店主がいつも早めに閉めちゃうからさ」
「心中お察ししますよ、さぁ行きましょ」
「もういいのか。水でも汲んでやれば?」
「起こしちゃ申し訳ないので」
「それもそうか」
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