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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

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第9章 声の正体

僕は、世界のまんなかへ向かった。

何日も歩いた。砂の道をこえ、枯れた森をぬけ、誰もいない平原を横切った。

そこには、天までとどく高い塔があった。白い石でできた塔。まぶしすぎる光があった。近づくと、光は塔そのものから出ているのだとわかった。

でも——中は、からっぽだった。

光は、からっぽの中を反射しているだけだった。なかみのない光。

僕は、たくさんのドアを開けつづけた。どの部屋にも、鏡があった。鏡の中の自分が、僕を見返していた。

一つめの鏡では、僕は怯えた顔をしていた。
二つめの鏡では、泣いていた。
三つめでは、笑っていた。
四つめでは、何も表情のない顔をしていた。

最後のドアを開けたとき、僕はわかった。

「壁の声」は、どこにもいなかった。

この塔に、誰もいなかった。声の主なんて、初めからいなかった。

壁をつくったのも、声をつくったのも、「英雄を待て」と言ったのも——全部、人だった。怖がった人が、怖いままつくった世界だった。怖いから壁をつくり、壁をつくったからもっと怖くなり、怖いから声をつくり、声をつくったから動けなくなった。

そして——最後の鏡の中の自分の胸にも、壁があった。

外の壁をつくったのは、昔の人だ。

でも、中の壁をつくったのは、僕だ。

誰かに「やめろ」と言えなかった僕が、「どうせ無理だ」と思った僕が、自分の言葉を飲み込みつづけた僕が、石を一つずつ積み上げて、つくった壁だ。

外の壁は、人が壊せる。

じゃあ、中の壁は?

鏡の中の僕が、口を動かした。音は聞こえない。でも、口の形でわかった。

「歌え」

と、言っていた。

── 第10章 了 ──

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