第9章 声の正体
僕は、世界のまんなかへ向かった。
何日も歩いた。砂の道をこえ、枯れた森をぬけ、誰もいない平原を横切った。
そこには、天までとどく高い塔があった。白い石でできた塔。まぶしすぎる光があった。近づくと、光は塔そのものから出ているのだとわかった。
でも——中は、からっぽだった。
光は、からっぽの中を反射しているだけだった。なかみのない光。
僕は、たくさんのドアを開けつづけた。どの部屋にも、鏡があった。鏡の中の自分が、僕を見返していた。
一つめの鏡では、僕は怯えた顔をしていた。
二つめの鏡では、泣いていた。
三つめでは、笑っていた。
四つめでは、何も表情のない顔をしていた。
最後のドアを開けたとき、僕はわかった。
「壁の声」は、どこにもいなかった。
この塔に、誰もいなかった。声の主なんて、初めからいなかった。
壁をつくったのも、声をつくったのも、「英雄を待て」と言ったのも——全部、人だった。怖がった人が、怖いままつくった世界だった。怖いから壁をつくり、壁をつくったからもっと怖くなり、怖いから声をつくり、声をつくったから動けなくなった。
そして——最後の鏡の中の自分の胸にも、壁があった。
外の壁をつくったのは、昔の人だ。
でも、中の壁をつくったのは、僕だ。
誰かに「やめろ」と言えなかった僕が、「どうせ無理だ」と思った僕が、自分の言葉を飲み込みつづけた僕が、石を一つずつ積み上げて、つくった壁だ。
外の壁は、人が壊せる。
じゃあ、中の壁は?
鏡の中の僕が、口を動かした。音は聞こえない。でも、口の形でわかった。
「歌え」
と、言っていた。
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