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literalconnotation ─ なみだの魔法円から現れたのはあたしでした。

連載中(書きかけ)

有城 砂卯

49,005 字

異世界ファンタジー、心理ドラマ

"浮気夫への絶望が、私を異世界へと誘った。これは、もう一人の私を巡る、涙と魔法の物語。"

目次(12 章・いまは第 10 章)
  1. ・0/prólogo≠sorto:始まりは宿運ではない
  2. ・1/sorto≠fatale:宿運は呪縛ではない
  3. ・2/fatale≠lot:呪縛は運否天賦ではない
  4. ・3/lot≠fatum:運否天賦は不可避ではない
  5. ・4=EX/Detour≒Invisible rays
  6. ・5/fatum≠destino:不可避は目的地ではない
  7. ・6/destino≠Fügung:目的地は因果ではない
  8. ・7/Fügung≠qadar:因果は量れない
  9. primus=1:interior ∉ façade─内側にある建前
  10. secundus=2:exterior ∈ truth─外側にある本音
  11. EX≒tertius=3:vertical ⊥ coordinate─垂れる座標
  12. quartus=4:weight ∝ center─重い真ん中
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secundus=2:exterior ∈ truth─外側にある本音

「うおっ!」

 ん。
 あたしは今、相変わらずヴィザーゴさんにだっこされて、さらにチャルマさんをだっこした状態で、空中散歩をしている。

「あきら!おやま!」
 ん。
 おやまだねー。
 昨夜見た三角は、やっぱこれかー。
「アキラ?楽しくないの?」
 チャルマさん落としそうで、楽しめませんて。
「それは仕方ないよねえ。アキラの望みだもの」
 そうですとも!

 食事を終え、片付けを手伝った後、チャルマさんの『宝物』とやらを見に行くことになった。
 あたしにはもれなくヴィザーゴさんが付いてくるので、
「大事な娘をビエスと出かけさせられるか」
 と、カヴァリーロさんも一緒だ。
 ま、行くのは館の裏庭なんだけどね。

「あきら、みてみて!おっきい、てふさんのこども!……あれ?ととぉ。てふさん、こわれてゆ」
 意気揚々と木の隙間を覗き込んだチャルマさんが、振り返ったときには泣きそうになっていた。
 チャルマさんの小さな手のひらには、大切に掬った枯れ葉の塊。
 そこから覗く鶏卵みたいな大きさの割れた繭。
 羽化したんだな。
 てか、でかくないか。

「夜に羽化して、飛んでったな。これだけ大きければ朝でも間に合うかと思ったんだけど。チャルマごめん」
「とと、てふさんになるの、きょうってゆった」
 カヴァリーロさんは困り果ててる。
 チャルマさんは、羽化するのを随分と楽しみにしてたようで、しゅんとしている。

 でもこれ、てふさんじゃなくて蛾じゃね?
 蝶も蛾も、パピヨンなんだっけ?
「Actias aliena……月蛾だねぇ」
 ありえる?って、月に関係あったっけ?
「アリエナ、だね。アルテミスだった時もあるけど」
 そもそも、アリエナが分かんないんだけど、アルテミスなら月か。
 説明してくれる気は……無さそうですね。
 
 なんてことがあって、あまりにも悄気ているチャルマさんを元気付けたいと思案してたら、昨夜の空中散歩を思い出したわけだ。
 あれ、してくれないかな。
「僕はアキラしか抱えないよ」
 と、なんともな返事が返ってきた。
「あと、カヴァリーロも持たないから」
 持てばいいじゃん。
「あの大男を?僕が抱えるの?」
 腐女子も萌えない、素敵な絵面だと思いますよ。

 そんなこんなで、あたしはカヴァリーロさんのサッシュでしっかりと括り付けられたチャルマさんを前に抱えて、ヴィザーゴさんにだっこされた。
 力持ちだな、ヴィザーゴさん。
「こういうのはヴェーロの筈なのに」
 って、珍しくぶつくさ言ってる。
 珍しいとか言うほど、知らないけど。
 
 ……それにしても。
 カヴァリーロさんが、やけにあっさりとチャルマさんを預けてくれたのが不思議だけれども、あれですかね。
 泣く子と地頭には勝てないってやつなのかしらね?
 チャルマさんは泣いてないけど。
 泣いてないだけに、小さい子が泣くのを堪えてるのは心が痛むよね。

 ぶつぶつと言ってるのが、呪文なのか、文句なのか。
 ヴィザーゴさんと目が合って、額をこつん。
 ……なんか嫌な予感がする。
 にやっと、底意地の悪そうな笑顔を見せて、
「オンキリキリオンキリキリ」
 ヴィザーゴさん、遊んでやがる。

「うわっ、うわあ!」
 ゆっくりと視点が高くなると、チャルマさんがはしゃぎだした。
 見上げていたカヴァリーロさんを、すっかり見下ろしてる。
「ビエス!チャルマは落とすなよっ!」
 あたしは落としてもいいんですかね。
 なんてね。
 や、親心ですよ。
 わかります。
 
「落としても治してあげるよ?」
 いや、そういうことじゃない。
「そういうことじゃないっ!」
 ほら。
 カヴァリーロさんの手が届かなくなったのを嘲笑うように高度が上がる。

「ひああっ!」
 段々と、カヴァリーロさんの声も届かなくなって、村を囲っていた木々を足下に見る。
 
 昨夜は暗くて気にならなかったけど、あれですね。
 明るいと、高い。
 高所恐怖症ではなかったはずだけど、それは足場があっての話だ。
 眼下ばかりを気にしていると、
「おやま!」
 ヴィザーゴさんの肩越しに、チャルマさんの視線の先を追うと、そこには霊峰富士がそびえていた。

 んー……。 
「チャルマさん、あのおやまの名前はわかる?」
「おやま!」
 はい、そうですね。
 チャルマさんは昨日からそう言ってますよ。
 
「おそらまでこなくても、みずうみにいけばみえますよ?」
 おそらく、いや、きっと、富士五湖というやつだろう。どれがどれだか知らないけど、芦ノ湖は富士五湖ではなかった筈、だよね?
 樹海にあるなら……なんだっけ?
 本栖湖あたりかね?
 
 まあね。
 昨夜、三角の影を見た時から、薄々そうじゃないかと勘繰ってはいましたよ?
 しっかし、改めてみると、でかいなー。
 うちのマンションからも見えていたけど、スマホくらいの大きさだったもんね。
 
「もっと、驚くかと思ったのに」
 驚きすぎて、二の句が継げないのですよ。
「二の句?」
 日本国語の授業は勘弁したい。
 
 あ。
「んと……スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス?」
 ってあたしが言うとヴィザーゴさんは盛大に吹き出した。
 
「すぱかりふらえく……ありごーしゃす?」
 辿々しいチャルマさん、いとうるわし。
「びっくりした、ってこと」
「アキラの頭の中は蟋蟀だらけだねえ」
 なんのこっちゃ?
 
「チャルマさん。これはねぇ、誰でも言うこと聞いて、よくしてくれる魔法の呪文だから、覚えとくといいよ」
「あい!すーぱーかりふらふらごーしゃす!」
 まあ、それでもヴィザーゴさんが動くとは思えないけど。
 保険ですよ。
 保険になるのかな?

「よぉし!飛べ、ヴィザーゴさんっ!」
「差し詰めアキラは、悪魔使いだねえ」
「アキラ!あくまつかいっ!」
「人聞き悪いなあ。て、いうか。ヴィザーゴさんもそんなに悪魔ぶらなくてもいいんじゃない?」
「そうかな?」
「そうだよ」
 善とか、悪とか、見方ヒト次第じゃん?
 
「きゃあ!とりさん、こんにった!」
 チャルマさんは空中散歩をお気に召したようで良かったです。

────

「とと!かか!おやま、どぉーんで、とりさん、ばぁさぁ!なの!すーぱーかりかりしゃすなの!」
 オノマトペは偉大だなぁ。
 てか、チャルマさん、略しすぎです。
 言わんとすることは分からなくはないけど、いつの間にか裏庭に出てきていたフィリーノさんと、待っていたカヴァリーロさんが、呆気にとられてますよ。

 あたしたちが空から降りると、カヴァリーロさんとフィリーノさんが駆け寄って来て、括り紐代わりのサッシュを解いて、チャルマさんを抱き締めた。
 まあ、心配だよね。
 いろんな意味で。

「その、ビエス。ありがとう」
 それでも、カヴァリーロさんは屈託もなく言う。
「僕は君の謝辞に価することはしてないよ。アキラだ」
 ヴィザーゴさんはそう言って、あたしを抱き上げる。
 
 お礼ぐらい受け取ってあげなよ。照れ屋さんなのかな?
 すると、カヴァリーロさんはあたしに向かって、きちんと目を合わせて、
「ありがとう」
 と言った。
 律儀なヒトだなあ。

「どういたしまして。チャルマさんがご機嫌になってくれて、あたしも嬉しいです」
 と、返すとカヴァリーロさんがひどく驚いてる。
 なんか変なこと言ったかな?
 
「ああ、話せない訳じゃなかったんだね。ビエスの子だというのに、随分しっかりしたお子さんだ」
 挨拶はしたような気もするけど……してないか。
 ヴィザーゴさんに意識を持ってかれてましたね。

「でしょう。僕が作ったんだ」
 まだ言うか。

 館に戻ると、チャルマさんはお昼寝タイム。
 興奮したのか、電池が切れたように寝入ってました。
 
 お腹が空いてるわけではないけど、ここではお昼はないみたい。
 平安時代とかそうだっけ?
 たくみの物食ふこそって、枕草子で間食すんのか、へえー、な話だった気がする。
 いと怪しけれ。
 ふふ。
 
 お部屋で不毛とも思える漫才を、ヴィザーゴさんと繰り広げていたら、あたしにもとろとろと睡魔が訪れた。
 空腹はないのに、面白いね。

「チャルマ!」
 あわただしくドアを開けたフィリーノさんの声で目が覚めた。
 窓の外はほんのり赤い。
 きょろきょろと部屋の中を見回すフィリーノさんの後ろから、カヴァリーロさんもやって来た。
「ビエス!チャルマはいるか?!」
「いないよ」
 や、そうだけど、そっけないな。
 
「チャルマさん、いないの?」
「ああ、昼寝をしてるもんだとばかり思ったのに、館の中に姿が見えない」
「え?外?」
「かもねえ……」
 顔を見合わせたフィリーノさんとカヴァリーロさんは、玄関へと駈けていった。

「あたしたちも探しに行こうよ」
「なんで?僕らには関係ないことだよ。今日は兎が食べられるかな」
「探しに行こう!」
「どうして?」
「心配だからに決まってるでしょう!」
「心配?なんで?」
 くっそ!
「心配だから!」

 激高するあたしをよそに、ヴィザーゴさんはふっと空くうを見つめた。
 集中するかのように瞼を閉じ、光を集める。
 魔法発動かな?
 何をする気だ?
 
「……ああ、そうだね。探そうか。あの子はメティイーストの子だった」
 何を今更?
「僕たちの大事なalimentumだったよ」
 ??
「さあ、行こうか」
 ヴィザーゴさんは、論を俟つことなくあたしを抱えて、迷いなく窓を出た。
 マント、いつ羽織りました?
 てか、玄関から出ましょうよ。
 

  
 
 
 
 
 

 

── 第10章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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