第十章 1992年・12月:花祭
12月。凍てつくような夜の空気の中で太鼓の音が山を震わせ、笛の音に合わせて掛け声が響く。この土地に伝わる神事「花祭」で、大輔は今年「三つ舞」を舞う。教わったとおりに、足を運び、採り物を振る。
(一、二、三、決められたリズムと型をなぞる時間。この時間は、わりと好きだ)
閉校の日が一日、また一日と近づく中、この神事の稽古と喧騒はひととき、大輔からあの戸惑いを忘れさせた。
(何百年も前から、この村ではこうして地を踏んで固めて鎮めてきたって聞いた。豊作とか、みんなが元気でいられるようにとか、たくさんの人の気持ちがこのリズムと型になっているんだ、って)
村に引き継がれる「鬼さま」の面。それは重く、力強い。上を見上げれば、幾重にも重なり合う湯蓋の飾りが幾何学的で多層的な美しさを放っている。
(ずっと変わらないお面にも、毎年同じように作られる飾りにも、きっと、たくさんの人の気持ちがこめられている……)
大輔は舞を続けながら、あの戸惑いが不意に浮かんでくるのを感じていた。
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。