第11話 離別
朝になった。今日は旅立ちの日。トアさんとはお別れの日だ。ついにこの時が来た。僕がドラト軍に誘拐されて、セルトが滅びて、父さんと母さんの居場所が分からなくなってから約3、4年。全てはこれからのため。色んなことをしてきた。トアさんとお別れするのは寂しいけど、行くしかない。荷物をまとめて朝食を食べに行く。
「お、リン君。おはよう。」
「おはようございます!トアさん!」
「リン君、ついに今日だね。」
「はい!頑張って父さんと母さんを見つけて...そして...」
「ん?どうしたんだい?」
「いえ!なんでもないです!」
あの声の話をしてもトアさんはわからない。けど、僕はあの声の正体を、そして僕のこと自身も知らなくちゃいけない。失った生前の記憶。死者であるという感覚のみ残る身体。なのに死んでいない。もう一度生まれ、生きている。ゴールは僕の死んだ理由、そしてあの声の正体。始めよう。旅を。
朝食を食べ終えて、僕は荷物を取りに部屋に戻る。トアさんに教えてもらって用意した旅の道具。必需品。そして、父さんと母さんにもらった魔杖。これからどんな関門が待ち受けているか分からない。いざとなったらすぐに対処できるようにしておこう。よし。準備は整った。
部屋を出る。出口に向かう。トアさんがいた。
「リン君、準備はできたかい?」
「はい!ばっちりです!」
「よかった。それじゃあ最後に僕からプレゼントだ。」
そう言って僕に一本の剣を手渡す。
「これは…?」
「剣だよ。リン君は魔術の方が得意だけど剣もあったら便利だ。君のお父さんが熱心に教えてたんじゃないかな?」
「な、なぜそれを?」
「仲間だからだよ。テオさんは。考えることは手に取るようにわかるさ。」
「そうですか…トアさん!」
「なんだい?」
「父さんのこと、見つけたらトアさんのところに連れて会いに行きます!」
「...ありがとう。だけどリン君の目的を達成してからでいいよ。生きてたら多分何処かで出会えるから。」
「それもそうですね!剣、ありがとうございます!では、行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃい。また、いつか。」
「はい!また会いましょう!絶対に父さん達のこと、見つけてきますから!」
「うん、頑張ってね。」
手を振る。前に進みながら後ろを見て手を振る。トアさんも小さく手を振っている。トアさんには…トアさんには見えてないと思う。そう思いたい。恥ずかしいし。涙が頬を伝う。目からボロボロこぼれ落ちる。止まらない。止められない。袖でいくら拭っても止まらない。楽しかった。まだ一緒に居たかった。そう思えばそう思うほどにまた涙が溢れ出る。それほどに。トアさんと過ごすことが。ありがとう、トアさん!助けてくれて!色んなことを教えてくれて!たくさんのものを与えてくれて!誘拐されて死にかけの身寄りのない僕と過ごしてくれて!絶対にまた、会いに行くから!トアさんが小さくなっていく。離れていく。あぁ、だんだん、だんだん見えなくなっていく。一人だ。ここからは一人だ。悲しい。寂しい。楽しく話す相手もいない。
「振り返るな。前を向いて歩け。自分の未来のために!」
トアさんがそんなことを言ってる気がした。普段の姿とは合わないような口調で。うん。そうだ。引きずってなんかいられない。僕にはやらなくちゃいけないことがたくさんある。少したりとも余裕はない。急ごう。あの声の言う準備もしなければいけない。まっすぐ進めばドラトの首都だ。前を向いた。もう振り返らない。目の前には美しい青空と草原。道がずっと遠くまで続いている。涙はまだ流れ続けている。9歳。僕の旅は、ここから始まる。
「ーーくん、そろそろ出るよ。」
「待って!まだ、ーーちゃんとお別れしてない!」
「そんな時間はないの!もう行くよ!」
掴まれて引っ張られる。
「あぁ!ちょっと!待って…待ってよ!まだ、まだ離れたくないよ!」
「こら。文句言わないの。行かなきゃいけないんだから。」
何かの動く音。
「うぅ…どうして…まだ、まだやり残したことがたくさん…」
離れていく。僕たちの家から。抗えない。子どもだから。僕は親に付き従うしかない。嫌だった。まだ一緒に居たかった人がいた。何となく僕の中に残ってる悲しい記憶。少しだけ思い出した気がした。
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