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十四を数える

奥井晴弥

21,115 字

政治哲学ファンタジー

"「指の数」が世界を分かつ。効率と美学、割り切れない均衡を巡る三世代の物語。"

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第十章 成長

ほどなくして、オットーは宰相になった。
各地に赴き農地の、食糧の、十二による改革を、統制を、説いて回った。
民は、涙を流しながら、頷いていた。
あの「指削ぎへの忌避」は、もうそこにはなかった。

アウグストは十二を使った流通統制で、飢えによる犠牲を最小限に留めた。
その勢いをかって農地の改革を一気呵成に進めていった。十二の区割りに変わった畑は翌年から収穫を増やした。水路は統一され、灌漑は効率化された。

それから数年。十二の区割りは首都から近郊へ、地方都市へと広がっていた。
だが、オットーは知っていた。畑と畑の間にあった草地が消えたことを。
誰のものでもなかった土地が、誰かのものになったことを。
余白が消え、境界が引かれ、割り切れるようになったことを。
そして、それらを進めたのは紛れもない、自分自身であることを。

オットーの政治は、二つの顔を持っていた。
内政は十二の論理を中心に置いた。それをアウグストが支えた。制度は整い、帳簿は正確に動いた。ガリエンに劣らない効率を手に入れ、国は豊かになった。
外交は十四だった。どの国とも同盟を結ばず、どの国とも敵対しない。割り切れない均衡の網は、オットーの手で保たれ続けた。
クレメンスの二つの顔を、オットーは継承していた。クレメンスが議場と執務室で使い分けていたものを、オットーは内政と外交で使い分けていた。

旱魃の年に生まれた皇太子フリードリヒは、十二の風景の中で育った。
整然と区画された農地。効率的な水路。十二個入りの箱が並ぶ市場。この国の豊かさは十二が作ったものだと、誰もが言った。フリードリヒもそう信じた。
オットーは、時折フリードリヒに十四の話をした。かつて畑の区割りは十四だったこと。境界が曖昧で、誰のものでもない草地があったこと。
フリードリヒは聡明な子供だった。聞いた。理解した。だが、それが何を意味するのかは、わからなかった。草地の余白を知らない身体に、余白の意味は届かなかった。

フリードリヒの教育には、アウグストが関わっていた。
オットーが外交で不在の間、内政の実務を見せることが教育になるとオットーは考えた。帳簿の読み方、制度の仕組み、数字の扱い方。アウグストはそれを淡々と、正確に教えた。
フリードリヒはアウグストに懐いた。アウグストの話は明快だった。問いには必ず答えがあった。数字は割り切れた。
オットーの話は違った。問いに対して、問いが返ってくる。答えのようで答えでないことを言う。フリードリヒにはそれが、もどかしかった。

フリードリヒが十歳になった年、オットーはアウグストを皇太子の補佐役として、正式に任じた。
今、何が必要か。フリードリヒには実務を学ばせなければならない。国を治める技術。数字を読む力。制度を動かす経験。アウグストほどの適任はいない。
オットーはそう信じていた。

ある日、フリードリヒが外交の報告を読んで首を傾げた。
何が決まったのか、理解できないと言う。
アウグストは説明した。
「殿下。この条約は、わざと曖昧になっているのです。宰相のやり方です。決めないことで均衡を保つ、という考え方です」
フリードリヒは納得がいかない、という顔で言った。
「均衡を保ちたいなら、均衡のとれた形に決めればいいのではないか」
アウグストは答えに詰まった。論理としては、正しかった。
「殿下は聡明でいらっしゃいますね」
それしか言えなかった。

オットーは外交に忙しかった。
均衡の網は、維持するだけでも膨大な労力を要した。条約の更新、協定の微調整、使節との舞踏会。どの糸も、放置すれば緩む。
その間、アウグストの明快さの中でフリードリヒは育っていった。

──それは、御前会議の席だった。
体調を崩した国王の代役として参席した十二歳のフリードリヒが、
「なぜ裁きと統治を切り分けてはいけないのだ」と問うた。
オットーは説明ができなかった。
「私にはわからぬ。なぜ皆、このように割り切れぬことを好むのだ」
その一言に、オットーは気づいた。

速すぎた。そして、遅かった。

アウグストは少年の成長に、目を細めていた。

── 第11章 了 ──

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