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セカンドシーズンー好きな人を、真っ直ぐに。ー

連載中(書きかけ)

波方 真季

147,729 字

青春恋愛小説

"「推し」への恋が、モノクロだった世界に彩りを与える。臆病な少女が踏み出す、眩しすぎる「セカンドシーズン」の物語。"

星野陽向(ほしのひなた)は、先天性発達障害〈ADHD〉を抱えて生きてきた。 クラスメイトに迷惑をかける事が多く、そんな理由で学校で虐めを受けるようになった陽向は、小中学校時代を透明人間のように過ごしてきた。 現実から逃げ込んだ先は、小説・マンガ・アニメの世界。 陽向はずっと、オタク陰キャとして二次元の世界の殻に閉じこもっていた。 けれど高校入学後── これまでの自分の人生がひっくり返るような、運命の出会いが訪れる。 図書室で出会った少年は、まるで二次元の世界から飛び出してきたような美しい少年。 雷のような衝撃を受け、人生で初めての三次元の恋が始まった。 恋なんて無縁だったはずの陽向の初恋を面白がった隣家の幼なじみ・黒川朔也。 さらに朔也の恋人である最強ギャル・朱里も巻き込み、陽向は半ば強制的に“垢抜け”させられていく。 オタク陰キャの透明人間だった日常は、恋をきっかけに全崩壊。 友情、嫉妬、自己否定、憧れ、劣等感、そして初めての自信。 恋は、彼女を世界の真ん中へと容赦なく押し出していく。 空気が読めない、忘れ物やなくし物の連続、落ち着きがない、ド直球のマシンガントーク炸裂の陽向の高校生活は、怒涛の出来事に飲み込まれていく── 現役高校生達が、等身大の“好きだ”を全力で駆け抜ける、究極のキラキラ青春群像ラブストーリー!

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第11話 いざ、生徒会役員総選挙

そして──

遂に、決戦の日を迎えた。

逃げ場のない「本番」

生徒会役員総選挙。

体育館の扉が開いた瞬間、陽向の胸に、ひやりとした空気が流れ込んだ。

いつもは部活の掛け声や笑い声で満ちている場所が、今日はまるで別物だった。
整然と並べられたパイプ椅子。
舞台正面に掲げられた白い横断幕。
体育館の床は、朝の光を反射して妙に白く、天井の照明はすべて点灯しているのに、どこか落ち着かない明るさだった。

ざわざわ。
ざわざわ。

全校生徒が集まる音。
椅子が引かれる音。
制服が擦れる音。
誰かの笑い声。
ひそひそと交わされる噂話。

舞台袖。
立候補者たちは、名前順に並ばされていた。
目の前には、すでに何度か朝の挨拶で見かけた先輩たち。
姿勢も、表情も、落ち着いている。

手のひらを見ると、汗で、少し湿っている。
制服のスカートを、ぎゅっと握りしめる。

(無理無理無理……)

逃げたい。
帰りたい。
今すぐここから消えたい。
そう思うのに、足だけは、しっかり床に根を下ろしている。

「ほら」

小さな声。
隣に立つ朔也が、陽向の背中を、軽く叩いた。

「ここまで来たんだから、今さら逃げんなよ」

その声は、からかいでも命令でもなく、ただ、当たり前の事実を告げているみたいだった。

陽向は、何も言えずに、小さく頷く。
視線が、ふと、客席へ落ちる。

体育館の中央。
最前列にはズラリと現生徒会役員の錚々たる面子。

そこに──いた。

藤崎俊輔。

舞台を見上げるその横顔は、いつも図書室で見つめる表情と変わらず穏やかで、それなのに、今日はやけに遠く感じた。

見たら、心が揺れる。
揺れたら、立てなくなる。

そう思ったはずなのに目は勝手に、もう一度だけ俊輔を捉えてしまう。

その瞬間。

《次の候補者、星野陽向さん、お願いします。》

司会の声が、マイク越しに体育館に響く。
その名前は、あまりにもはっきりと、あまりにも容赦なく。

世界が、静まった気がした。

足が、前に出る。
一歩。
また一歩。
階段を上る音が、やけに大きく響く。
舞台の中央。
マイクスタンドの前。
照明が、一斉にこちらを向いた。
眩しい。
客席が、暗く、遠くなる。
数百人分の視線が、一斉に陽向に集まる。
喉が、からからだ。

それでも。

陽向は、マイクの前に立った。

両足で、しっかりと、舞台を踏みしめて。
逃げなかった。

そして──深く、息を吸った。

《1年2組、星野陽向です。この度、生徒会役員に立候補させていただきました。》

マイクを通した自分の声が、思っていたよりもはっきりと体育館に響いた。
その瞬間、体育館の空気がすっと引き締まり、静寂が降りる。

全校生徒の視線が、一斉にこちらへ集まる。
数百人分の視線。
逃げ場のない光。

こんなにも大勢の人に同時に見られる経験なんて、今まで一度もなかった。
心臓が、耳の奥でどくどくと音を立てる。
足の裏が、床に縫い止められたみたいに動かない。

《正直に言うと…ここに立つことは、私にとって、とても勇気のいることでした。》

一瞬、息を吸う。
胸いっぱいに空気を詰め込んで、逃げたい気持ちを押し殺す。

陽向は、ぎゅっと指先に力を込めて、腹を括った。

《私は、ずっと自分に自信がありませんでした。人前に出るのが苦手で、自分の意見を言うのも怖くて、”どうせ私なんて”と、いつも一歩引いた場所にいました。》

言葉を口にするたび、胸の奥に溜め込んできた過去が、ひとつずつ解けていく気がした。
誰にも見せなかった弱さ。
認めたくなかった自分。

それを、今ここで、全校生徒の前で晒している。

《でも、本校に入学してから、私は初めて気づいたんです。誰かに支えられ、誰かに励まされ、誰かに背中を押してもらうことで、人は少しずつ、前に進めるんだということに。》

一瞬の間。
体育館の天井が、やけに高く感じられる。

そして、その後。
声に、ほんの少しだけ、芯が宿った。

《今、学校生活の中で、不安や孤独、悩みを抱えている人は、決して少なくないと思います。誰にも言えない気持ちを抱えたまま、毎日を過ごしている人も、きっといると思います。》

その言葉は、派手ではない。
けれど確かに、全校生徒の胸の奥へ、静かに届いていく。

大人でも、子供でもない。
自分が何者なのか分からなくなる、思春期という曖昧な時間。
この体育館にいる誰もが、大小の違いはあれど、同じような不安を抱えている。

陽向の視線が、まっすぐ前を向く。

《私は生徒会役員として、そんな心の声を拾える存在になりたいです。辛くても、寂しくても、泣きたくても、一人ぼっちで抱え込まなくていい。ここに居ていいんだと。そう思える場所を作りたい。》

ずっと、透明人間になりたかった。

誰の目にも触れず、誰にも迷惑をかけず、“私”という存在そのものが消えてしまえばいいと思っていた。

《意見箱の設置や、生徒会役員主導による心の相談窓口。大人に話しずらいような心の内側に、“同じ生徒”という同等の立場だからこそ寄り添える。生徒会を、みなさんのそんな心の拠り所にしたいと思います。》

でも。

朔也が私を無理矢理引きずり出して、背中を押してくれた。
朱里ちゃんが私を変えてくれて、別の世界へ連れて行ってくれた。
咲が私を受け入れてくれて、笑って隣に居てくれた。
蒼太が私を正してくれて、間違っている時にちゃんと叱ってくれた。

《生徒会役員に当選した暁には、私は決して、誰の事も置いて行きません。》

ずっと、一人だった。

誰にも必要とされないまま、誰の記憶にも残らないまま、静かに消えていくんだと思っていた。

教室の隅で息を潜めながら、“居ないもの”として過ごしてきた時間を、忘れたことはない。

だからこそ。

陽向は、震える指先を強く握り締める。

《全校生徒、誰一人として、独りぼっちにはさせません。》

静まり返った体育館の中。
陽向は、真正面から全校生徒を見渡した。

その瞳には、もう怯えだけではない、確かな熱が宿っていた。

《私はまだまだ未熟です。だから、私自身も……生徒会役員の活動を通して──》

全ては、あの日から始まった。

藤崎先輩と、出会ってしまったから。

陽向は、無意識に視線を落とす。
正面、最前列。

俊輔のいる場所。

俊輔は、いつものように穏やかな表情で、まっすぐこちらを見ていた。
その瞳は優しくて、胸がきゅっと締め付けられる。

それでも。

陽向は、真っ直ぐに俊輔を見つめる。

《近づきたいんです。》

その言葉が落ちた瞬間、体育館の空気が、かすかに揺れた。

俊輔の瞬きが、一瞬遅れた。

陽向の視線が、確かに自分を捉えた。
その一直線の想いに撃たれた瞬間、俊輔の脳裏に、先日の図書室の光景がフラッシュバックする。

(近づけないんです!!死ぬんです!!キュン死するんですっっっ!!)

あの必死な声。
あの真っ赤な顔。

《今よりもっと、好きになれる、理想の自分に。》

その言葉は、誰に向けたものなのか。
俊輔は、一瞬だけ分からなくなった。

最後に、深く一礼。

《どうか、星野陽向を、よろしくお願いします。》

静寂の中で、陽向はゆっくりと顔を上げる。
胸の奥で、小さく何かが震えていた。

ワッ──

一瞬の静寂を破るように、
拍手が、爆発した。

最初は、まばらだった音。
誰かが、戸惑いながら手を叩き。
それに釣られるように、隣の誰かが叩き。

気づけば、それは波になって、体育館の端から端まで、一気に広がっていった。

パチパチパチパチ──
パチパチパチパチ──

天井に反響した拍手の音が、まるで体育館そのものが応えているみたいに、何重にも重なって降ってくる。

「……っしゃ!!」

舞台袖。
朔也は、思わず拳を強く握りしめてガッツポーズした。

肩越しに見える客席。
ざわめき混じりの拍手。

──来た。

間違いなく、来た。

「……やっただろ、ひな……」

誰にも聞こえない声で、そう呟く。
胸の奥が、じんわりと熱くなっていく。
無意識に手が震え、安堵の溜め息が漏れ出た。

不安で、怖がりで、それでも前に出たあいつが、今、こんなにも多くの心を動かしている。

自分が背中を押した、なんて言葉じゃ足りない。
これはもう、あいつ自身の力だった。

パチパチパチパチ──

その音の渦の中。

俊輔は、静かに手を叩いていた。
一つ一つ、噛みしめるように。

「……刺さったな…………」

誰にも届かないほど小さな声で、独り言のように呟いた俊輔。

言葉が、まっすぐこちらに飛んできた。
視線が、確かに自分を捉えた。

──近づきたいんです。

その一言が、胸の奥に、静かに沈んでいく。

拍手をしながら、俊輔はほんの一瞬だけ、視線を舞台上に戻す。

壇上に立つ陽向。
深く一礼をした顔を上げ、舞台袖へと履けていく。
小さな身体が、少し震えているようにも見えた。

拍手は、まだ止まない。

それぞれの思惑を乗せた音が、体育館いっぱいに、鳴り続けていた。

────────。

翌日、昼休み。

一年二組の教室は、いつもより少しだけソワソワしていた。
昼食の匂いと笑い声が混ざるはずの時間なのに、どこか落ち着かない。
誰もが、無意識に時計を気にして、天井のスピーカーを意識している。

「咲は絶対当選してると思うよ!陽向の演説めっちゃ最強だったし、その後の朔也の推薦者スピーチも、女子から黄色い声ちょー上がってたもん!」

咲が身振り手振りで興奮気味に言うと、机を挟んだ向かい側から、すぐに突っ込みが飛ぶ。

「そりゃだって、選挙期間の朝の挨拶運動で、正門で可愛い女の子見つけたら片っ端から口説いて、最後の方なんて“キャー、黒川くーん絶対投票するねー♡”なんて言われちゃってさ。鼻の下伸ばして…不純な票集めにも程がある!」

「なにを偉そうに…お前だって生徒会に立候補したの、不純な動機じゃねーかよ」

「まぁ……確かに……そうだけど……」

陽向は、言い返せずに視線を逸らす。
“生徒会役員になって先輩をリアコにしようぜ大作戦!”なんて今思えば、朔也に流されたとは言え、あまりにも軽くて、勢いだけのきっかけだった。
公約も、志も、全部後から追いついてきたものだ。
最初から立派だったわけじゃない。

「まぁいいじゃねぇか」

不意に、蒼太が柔らかい声で割って入る。

「きっかけはどうあれ、1年生であんな立派な演説を陽向が出来たって事、俺は充分尊敬できるし、本当に凄いと思う」

その言葉は、まっすぐで、余計な飾りがなかった。

「蒼太……本当いい奴〜………」

胸の奥が、じんわり熱くなる。
陽向は思わず目を伏せて、滲みそうになる涙を誤魔化した。

その瞬間だった。

キーーン──……

校内放送特有の、耳に残るハウリング音が教室を貫く。

《ピンポンパンポーン》

ざわついていた空気が、嘘みたいに静まり返った。
弁当を持つ手が止まり、箸が宙で止まる。
誰もが、息を詰めてスピーカーを見上げる。

《生徒の皆さんにお知らせします。》

放送委員の、少し緊張した声。
体育館とは違う、日常の中に突然差し込まれる“非日常”。

《昨日行われました、生徒会役員総選挙の結果をお知らせします。》

「来たーーー!!!」

「……し……死ぬ………」

胸の奥の悲鳴が、やけに大きく聞こえた。

一人、また一人と、当選者の名前が読み上げられてく。

心臓の音が、やけにうるさい。

《続いて、書記の結果です。》

陽向は、ぎゅっと両手を胸の前で握りしめた。
祈るみたいに、目を閉じる。

バクバク……
バクバク……

耳鳴りがする。
世界が、スピーカーの音だけになる。

《書記に当選しましたのは……》

時間が引き伸ばされたみたいに感じた、その刹那──

《一年二組、星野陽向さんです。》

わあぁぁぁ──

教室が、一気に爆発した。

「イエェェェーーーーーー!!!!」

朔也が、勢いよく椅子の上に立ち上がり、天井に向かって両手の人差し指を突き上げる。

「陽向ー!おめでとー!!」

「やるじゃーん!凄いよ陽向ー!」

クラスメイトたちが、雪崩のように押し寄せてくる。
次々に交わされるハイタッチ。
肩を叩かれ、背中を押され、名前を呼ばれる。

言葉のひとつひとつが、胸に落ちてくる。

《当選された皆さん、おめでとうございます。なお、当選者は後日、生徒会室にて説明がありますので、掲示をご確認ください。以上、生徒会役員総選挙の結果発表でした。》

《ピンポンパンポーン》

放送が終わっても、教室の熱は冷めなかった。

陽向は、その中心で、ただ立ち尽くしていた。
胸の奥が、微かに震えている。

こんな自分に。
こんなにもたくさんの人が、喜んでくれるなんて。

怖さは、まだ消えていない。
不安も、きっとこれから何度も顔を出す。

それでも。

昨日、あの舞台に立つ前の自分とは、確かに違う。
足がすくんで、逃げ出したくて、それでも一歩踏み出した自分。

——進んだ。

ほんの一歩かもしれない。
それでも確かに、自分は前に進んだんだと。

陽向は、胸の奥で、そっとそう確信していた。

── 第11章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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