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Momoー罪と贖罪の桃太郎譚ー

ryo.m

18,028 字

ダークファンタジー、ブラックコメディ、寓話

"暴力の因果を断ち切り、システムを超越する、魂の贖罪と家族の物語。"

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第五章

白銀の議事堂。十人委員会の前で、桃太郎は静かに自分の胸元から金色のバッジを外し、委員長の前の机に置いた。 「二人の曇りは、晴れませんでした。僕の作ったシステムは、二人の心を救えませんでした」 「ならば規律通り二人を地獄へ永久拘留とする。桃太郎、お前は最高執行官として、その職務を全うせよ」 委員長の言葉に、桃太郎はふっと優しく微笑んだ。 「いいえ。僕は最高執行官を辞めます」 どよめく議事堂に向かって、桃太郎は力強く宣言した。 「僕の作った還流システムは、大多数を救える完璧なロジックです。だけど――完璧なロジックだからこそ、そこからこぼれ落ちる人間がいる。このシステムは、彼ら三獣と老治安官が完璧に引き継ぎます。けれど、システムでは救えない、自分を許せないほど優しい人たちが、最後に残ってしまう。だったら、そのシステムの手が届かない、残された少数の手を救うのが、僕の本当の仕事です」 桃太郎は真っ直ぐに前を向いた。 「委員長。あなたたちが上から『システム』を動かすなら、僕は下で、『溢れ落ちたその一人の手を、地獄の底まで追いかけていって握り続ける不純物(ノイズ)』になります。二人が天国へ戻れないなら、僕が地獄へ行きます。治安維持隊の服を脱いで、ただの息子として、地獄の底で、二人が自分を許せるその日まで、何年でも、何十年でも、隣で一緒に迷い続けます」
老補佐官が、持っていた帽子を脱ぎ、桃太郎の背中に向かって誰よりも深く敬礼を送った。その敬礼は、議事堂の数千人の兵士たちへと次々に伝染していく。委員長は静かに目を閉じ、少年の歩む道に最大級の祝福の沈黙を捧げた。

結章
地獄の最底層――そこに設けられた、更生特区の最深部。冷たい風が吹き荒れる暗闇の中。 「父さん! 母さん!」 聞き慣れた元気な声が響き、薄藍色の治安維持隊の服を脱ぎ捨て、あの頃の少年の姿に戻った桃太郎が走ってきた。周りでは犬・猿・雉が嬉しそうに跳ね回っている。 「桃太郎……!? お前、なんでここに……」 桃太郎は二人の前に膝をつき、地獄の泥で汚れるのも構わず、両手を強く握りしめた。 「最高責任者なんて、もう僕には必要ないんだ。僕は、世界でたった二人しかいない、僕の父さんと母さんの息子でいたいんだ」 「バカだねぇ……本当にお前は、大バカな子だよ……」おばあさんの目から、堰を切ったように涙があふれ出した。 「うん、バカでいいよ。二人が自分を許せなくて天国へ行けないなら、僕がこの地獄の底を、僕たちの新しい天国にする。ここでまた一から、みんなで『誰も傷つけないお茶の間』を作ろう」
すぐにすべてが解決するわけじゃない。深い傷は今も二人の中に沈んでいる。けれど、桃太郎の涙の温かさに触れて、凍りついていた二人の肩の力がほんの少しだけ抜けた。長い、長い救済の旅の始まりだった。
◇ それから、長い年月が流れた。 更生特区の最も深い場所。亡者たちから「桃太郎の家」と呼ばれるようになった、小さくて歪な木造りの家。 夕暮れ時、煙突からは温かいスープの湯気が優しく立ち上り、中からはおじいさんの少し不器用な笑い声と、おばあさんが食器を並べる静かな音が漏れ聞こえてくる。
家の扉を叩く音がした。新しく地獄へ落ちてきて、自分の罪の重さに怯え、ただ膝を抱えて泣いていた一人の若い魂が、おずおずと中を覗き込む。 制服を脱ぎ捨て、目元に少し年輪を刻んだ男が、あの頃と全く変わらない優しい笑顔で温かいお茶を差し出した。足元では、年老いた犬と猿と雉が静かに尾を振っている。 「寒かったでしょ。さあ、中へ入って。……まずはゆっくり、君の話を聞かせてほしいな」
理不尽で、冷たくて、泥にまみれた地獄の世界。けれど、その小さな家の窓から溢れる橙色の光だけは、どんな巨大なシステムも、どんな神の規律も決して消すことのできない、どこまでも温かい、彼らだけの「めでたしめでたし」の光景として、地獄の底を静かに、永遠に照らし続けていた。
(完)

── 了 ──

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