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とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記

100,374 字

異世界転移、夫婦コメディ、家族ファンタジー

"大正ロマンと異世界サバイバルが織りなす、新婚夫婦の愛と笑いの冒険譚!"

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第十七話 お分かりですよね はい、分かっております

千草は、叫んだあと、我に返ったように表情が元に戻った

目の前には、怯えて抱き合う二人
祥吾と、その胸に抱きかかえられている屋敷神

それを見るなり、千草は平伏した

「申し訳ございません、旦那様
 お恥ずかしい醜態をお目にかけ
 誠に面目次第もございません」

「なんじゃ、わしにではないのか」
不満顔の屋敷神
対して、屋敷神を邪険に机へ降ろした祥吾はご満悦だ

「千草の気持ちはわかるぞ
 すべての元凶は、こいつのせいだ
 こいつが、すべて悪い」
そう言いつつ、祥吾の腰は引けている

「何を言うか、わしがおればこそ
 おぬしたちは助かったのだぞ」

「そうだな、命は助かった
 それは認めよう
 だが、その結果が今の状態だ
 神様なら、最後まで責任を取ってもらわねば」

「責任とは?」
「元の場所に戻してもらおう」

「そ、それは——」
屋敷神は、その後の言葉が出ない

「そもそも、ここはどこなのだ?
 日本ではないことは、推察できるが」

「あのぉ…… 旦那様」
千草が遠慮がちに、話に割り込んでくる

「なんだ、千草」
「旦那様は、ここが地球上であると思っておられるのですか?」
「えっ?」
意外な問いに、祥吾が絶句する

「まだ、森を調べておりませんので
 確かなことは言えませんが、
 川縁の植物、遭遇した獣、そして、夜空の星座等から見まして
 ここが、地球でないのは、ほぼ、確かではないかと思われます」
「植物、獣、星座?」

祥吾は、ここが地球ではないという指摘より、
千草の、それを導いた、観察と思考に驚いた
ぎこちなく首を回して祥吾は、千草を見た

祥吾を見て息を呑む千草
その目を、不安定に揺らし、
すがるような表情で、祥吾を見つめる

祥吾が口を開く
千草は、ぎゅっと目を閉じ、体を縮めた

「すごいな、千草
 やはり、父上は学者だったのだな」
「えっ」
驚いたように千草は、目を開け祥吾を見た

「疑っていたわけではないのだが……
 いや、少し疑っていたな、千草が父上から教えられたことが
 軍人や武道家のように思えてな」

唖然としたように、祥吾を見つめ続けていた千草は、
突然両手で顔を覆い、しゃがみ込んだ

その肩が小さく震えている

「ど、どうしたのだ、千草」
驚いて駆け寄ろうとする祥吾に、あきれたような声が飛ぶ

「まったく、的外れなことを
 奥方もあきれて笑いをこらえきれなんだようじゃな」
「えっ、俺は笑われているのか?」
「そうじゃ、まったく、おぬしは本当に……」
 
そう言う屋敷神の声と表情は、しかし、優しく穏やかだった

「さっき、奥方が言うた『ここが、地球でない』というのは
 わしもそう思っとる」
「どうして?」
「ここの地脈が、わしの知る地脈と、異なっておるからじゃ
 こんな地脈は、今まで見たことがない」
「そうなのか……」
そこで、祥吾は思い出した
「そういえば、最初、龍が襲ってきてたな。キノコは七色だし
 卵も七色だった」
その頃自分も同じ事を考えていたのに、
その後の平穏(?)な日常にすっかり忘れていた

事の重大さが、今更のように胸に迫ってくる
 
「まあ、そう深刻になるでない
 『腹が減っては戦はできぬ』というであろう
 まずは腹ごしらえじゃ」
「神様も腹が減るのか?」
「細かい奴じゃのう
 奥方、もうよいかの?」

呼ばれた千草が顔を上げる
その顔は、いつもの笑顔だ
なのに、祥吾はまぶしく感じ、めずらしく湿り気を帯びた目を
じっと見つめてしまった

「はい、旦那様、失礼いたしました」
「い、いや、気にしてない
 疾風やタマのせいで
 笑われるのはなれてしまったからな」
自分で言って、空しくなった祥吾は
「はは……」と
自嘲的な笑いを漏らした

だが、千草は、それには反応せず
「それでは、昼餉の用意をして参りますので
 旦那様は、お部屋でお待ち下さい」
「はい……」
しょんぼりと屋敷神といっしょに部屋へ向かおうとする祥吾

「お待ち下さい、屋敷神様、
 少しお話したいことがございます
 よろしいでしょうか」
「わしは、かまわんよ」
「俺は……」
「旦那様は、お部屋でお待ち下さい」
「はい……」
さらにしょんぼりして部屋へ向かう祥吾

部屋へ向かったはずの祥吾だったが、忘れ物に気づいて廊下を引き返した。

「お心遣い、有り難うございました」

開いた障子から千草の声が聞こえ、思わず祥吾は立ち止まった

「なに、年寄りのお節介じゃ
 気にせずともよい
 ただ、お節介ついでに言うが
 奥方は、もっと自分を出してもよいと思うがの」

続いて屋敷神が聞こえた
後ろめたさを感じつつ、祥吾はその場にとどまった

「分からないのです。自分の気持ちも、旦那様の気持ちも
 どうなっていくのか怖くて」

その声に、何故か先ほどの湿り気を帯びた目を思い出す

「ふむ、『惚れた腫れたは当人同士の勝手』というからの
 これ以上口を出すのは野暮であろうな」

「それに」
屋敷神は、クックと小さく笑ってから言った

「あやつを、からかうのはおもしろかろうて」

その途端周りの空気が一変した
祥吾は思わず障子の隙間から中を覗いた

「屋敷神様」

今まで聞いたことのない千草の低く冷たい声

「屋敷神様、お分かりでしょうね」
「な、何がだの?」
「結界の件でございます」
「ああ、そなたが、あやつを危ないめ——」

屋敷神の言葉が途中で止まり、空気がさらに冷たくなった
ぐっと屋敷神を掴む千草の手の力が強まるのを祥吾は確かに見た

「『敵に隙を見せるな。隙を見せたときは』
「み、みせたときは?」
「『敵をつぶ—— いえ、隙をふさげ』と
 父の教えですわ」
「い、いま、つぶすと言わなんだか?」
「いえ、気のせいですわ」

(つ、潰すと言った! 確実に言ったぞ千草……!)

「わ、わしは——」
「お分かりでしょうね」
「はい、わかっております」
そこに、もはや神様はいなかった

 
第十八話 疾風、それは食べ物ではありません! それってなんじゃ、わし、神様じゃぞ-!

昼餉の頃には、祥吾はすっかり元気を取り戻していた
かわりに、落ち込んでいたのが屋敷神だ
部屋の隅っこで柱に向かって小さくなっている

「おーい、神爺、どうしたんだ 食べんのか?」
祥吾の声にも反応がない

「屋敷神様、こちらに専用のお膳をご用意いたしました
 お召し上がりください」
だが、千草の声には、ビクッと体を震わせ、瞬時に振り返る
「こ、これは、かたじけない——」
言いかけたが、目の前のお膳を見て、言葉に詰まる
「お、奥方、このお膳は?」
「はい、神棚のお膳でございます」
「いや、こんなに小さいのは、さすがに」
千草は、小首をかしげる
「お体が、小柄でしたので、それにあわせたのですが」

「まさか、俺たち並みの量がいるのか?」
祥吾が、驚いて聞く
「いや、まあ、わしは、食べるのではなく、
 その精気を取り込むのじゃから、別に形には……
 けど、やっぱり、皆と同じの方が……」
ブツブツつぶやきながら、千草を見る
「わかりましたわ
 少々お待ちください」
にっこりと笑いながら、神棚のお膳をもって
台所に引き返す千草

「奥方は、優しいのう
 誰かさんとは、大違いじゃ」
「ふん、子どもみたいに甘えおって
 神爺でなく、神坊にしてやろうか」
「やくな、やくな」
「だ、誰が、お前などに」

西園寺家の昼餉は賑やかに過ぎていく

「さて、それでは、外の様子を調べに行くとするか」
外に出た祥吾は、そう言って気合いを入れるが、
ふと、千草の方を見て、
「おい、神爺、どうしてお前は、そこにいる?」

神爺は、千草が胸の下に組んでいる両手のひらに
ちょこんと座っていた
「気にするな」
「いや、気になるだろ!」
抗議する祥吾の周りで、いつの間にかタマ(鶏)たちが、
同じように、ケココケーと騒ぎ立てる
「みろ、タマたちも怒っているではないか」
「神としては、当然の居場所ではないか」
偉そうにふんぞり返る、その頭を
突然、疾風がカパッと咥えて持ち上げる

唖然とする祥吾
突然のことに何が起こったのか分からず
意味のない叫び声を上げる神爺
そこに千草の穏やかに諭す声がする

「疾風、それは食べ物ではありません
 はきだしなさい」

「それってなんじゃ!
 わし、神様じゃぞー!」

── 第12章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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