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literalconnotation ─ なみだの魔法円から現れたのはあたしでした。

連載中(書きかけ)

有城 砂卯

49,005 字

異世界ファンタジー、心理ドラマ

"浮気夫への絶望が、私を異世界へと誘った。これは、もう一人の私を巡る、涙と魔法の物語。"

目次(12 章・いまは第 12 章)
  1. ・0/prólogo≠sorto:始まりは宿運ではない
  2. ・1/sorto≠fatale:宿運は呪縛ではない
  3. ・2/fatale≠lot:呪縛は運否天賦ではない
  4. ・3/lot≠fatum:運否天賦は不可避ではない
  5. ・4=EX/Detour≒Invisible rays
  6. ・5/fatum≠destino:不可避は目的地ではない
  7. ・6/destino≠Fügung:目的地は因果ではない
  8. ・7/Fügung≠qadar:因果は量れない
  9. primus=1:interior ∉ façade─内側にある建前
  10. secundus=2:exterior ∈ truth─外側にある本音
  11. EX≒tertius=3:vertical ⊥ coordinate─垂れる座標
  12. quartus=4:weight ∝ center─重い真ん中
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quartus=4:weight ∝ center─重い真ん中

 ヴィザーゴさんの飛行って、ほんと安定してると思う。
 飛行機だって、もうちょい揺れる。
 いったいどんな仕組みなんだろうね?
 とは思うけど、物理も数学も致命的なあたしには、きっと聞いてもわからない。
 あ。

 声に出たかもしれない。
 けど、ヴィザーゴさんは、いつもみたいに目を合わせることもなく、あたしはその綺麗な横顔を覗き込むばかりだ。
 怒ってるのかな?
 んー。
 行きたがってなかったもんねー悪いことをした。

「そうじゃないよ。どうしたの」
 顔は相変わらずそっぽを向いてるけど、声はかけてくれる。
「僕を見たいの?」
 と、漸く目を合わせてくれたけど、どうしたもんだろう?
「……ふぅ、アキラたちは難しいね」

「降ろしてくれたら、あたし一人で行くよ?」
「無理だよ」
 即答かよ。
 土地勘が無いってことかな?
 まあ、樹海でうっかり迷子にでもなったら、地図もコンパスもないあたしには荷が重い。
 あれ?樹海でコンパスは使えないんだっけ?
 いや、それは都市伝説だった、筈だ。

「…………くっ、ぷっはは」
 いつもの笑い声。
「全く、アキラには敵わないな。そうじゃなくて、アキラ今、裸足。さっきまで寝ていたでしょう。靴を履いてない」
 そっちかよ。
「黙って僕に抱かれてなさい」
 ……その、物言い。
 絶対わざとでしょ。

 一旦、すーっと上がって、すぐに降下。
 高く上がる必要あった?くらいの距離……の、ような気がする。
 目の前には池……じゃない!湖だ!
 湖面には富士山が映っていて。
 へぇー。
 これが逆さ富士ってやつかー。
 
 ではあるけど。
 振り返って、樹海の方を見てみて、さほど移動してなかった筈の方向に、村がない。
 こうも全く見えないもの?
 と、思うと村から見るより繁みも深く感じるし、緑も濃く見えるし、芳香剤みたいな森の香り。
 こんなだったっけか?
 そんなに覚えてるわけでもないけど。

「見えないよねーだって無いもの」
 どういうこと?
 さっきまで仏頂面だったヴィザーゴさんは、ご機嫌になってるし。
 チャルマさん五歳児かな?君は。
「僕が五歳児なら、アキラ遊んでくれる?」
 はいっ?どういうこと?
「いい子ならね!」
 って、返しといた。

 ガサッって、葉擦れの音がする。
「あーあきらぁ」
 ち、チャルマさん?
 チャルマさんは、肩に獣を担いだヴェーロさんにだっこされて満面の笑み。
 そっか、ヴェーロさんと一緒だったのか。
 もしやヴィザーゴさん、知ってた?

「ん、小さいけどいいんじゃない?」
 って、口にしながら、ヴィザーゴさんがヴェーロさんに近寄る。
 けど……黙っちゃった。
 何だろう?

 なんか、身の置き場の無いあたしは、チャルマさんに視線を落とす。
 いや、目線はヴェーロさんにだっこされてるチャルマさんの方が高いのだけど。
 繁みから出てきた時は笑顔だったのに、チャルマさんは困った顔をしてる。
 どうしたんだろう?
「チャルマさん、どうしたの?」
「あきらぁ……」
 ん、ヴィザーゴさんの翻訳機能は、ちゃんと仕事をしているようだ。
 
「あのね、チャルマね、あきらのおみみのやつ、ふたつにしたかったの」
 おみみ?耳か。
 この片耳ピアスのことかな?
 ヴィザーゴさんは真珠って言ってたっけ?
 あたしは実物は見ていなくて、触っただけの感触だと丸くないからか、真珠のイメージがない。
 て、いうか、ここ湖だよね。
 真珠って海にあるんじゃないの?
 
「でも一人は危ないよ。フィリーノさんたち心配してたよ」
 あわわ。
 チャルマさん、泣きそうだ。
「いつもはね、ととがだっこしてくれるから、すぐにつくの。でもね。きょうはいっぱいいっぱいかかったの」
 そうだろうねえ。
 カヴァリーロさん、足長いもんねー

「でね、あきらのおみみのやつ、さがしたんだけど、いっつもなくて。だからね。おひさんがおやまにちかくって、そしたら、おそらがあかくなるから、おそらがあかくなるまえにかえろうとして、そしたら、やぎさんがいたの!」
 ヴェーロさんと会ったわけですね。
 そりゃあ、心強い。
 てか、ここまでは一人できたのか。
 それはそれでおっかないな。
 
「でね、やぎさんともいっかいここにきたら、あったの!みつけたの!これ、あきらにあげゆ!」
 へ?
 さっきまでの困り顔から一転、チャルマさんスマイル。
 困ってたんじゃなくて、言い淀んでたのか。

 見れば、チャルマさんのちっちゃい手のひらに乗ってるのは、1センチに満たない、歪な石。
 歪ではあるんだけど、なんか綺麗で。
 銀色をしていて、でも水に油が浮いてるみたいな不思議な光を放つ。
 こんなのがあたしの耳についてるのか。
 
「……玉虫色とか言うんじゃない?」
 いつの間にかヴィザーゴさんの額は、あたしの頭に引っ付いていた。
 ん、確かにそんな名前の色があった気がする。
 カメムシの色だっけ?
「カメ……甲虫じゃない?」
 耳馴染みはないけど、カブトムシとは違うのか?
 ったく、博識だなヴィザーゴさん。
 
「ところで、ヴェーロさんは何を担いでるの?」
「馴鹿だよ……もっと、大きいのを期待してたんだけど、季節柄仕方ないか」
 馴鹿とな?
 真っ赤なお鼻のルドルフさんですか?
 まあ、冬のイメージではあるけど。
「やぎさんねえ、すごいんだよー。ばさーって、しゅたっで、どぉーんなの!」
 大阪のオバチャンかな?
「アキラの靴代だよ」
 マジっすか?!

「さあて、戻りますか」
 一仕事終えたみたいにヴィザーゴさんが言った。
 終えたのか?
 ヴィザーゴさん、何をした?
 あ、あたしをここまで運んでくれたか。
「酷いなあ」
 すみません。
 
「さ、兎、兎」
 ヴィザーゴさんって、見た目によらず食いしん坊なのかね?
「……Επίκουροςじゃないかな?」
 食通と何が違うのか説明……は、いいか。
 
「アキラのそういう潔さは、全く魅力的だねえ」
 虚仮にされてるのかな?
「まさか、心からの賛辞だよ」
 当てになりませんがな。
 ヴィザーゴさんは笑いを堪えもせずに、歩み出すと、湖を背にして、ピタリと止まった。
 
 どうした?
 ちょっとだけ考えるような素振りをして、ヴェーロさんを見ると、ニヤリと笑った。
 常にクールなヴェーロさんが、すっごいでっかい溜め息吐いてませんか!
 何?何が始まるの?!

 すうっと、あたしを抱えてない方の腕を、木々に覆われた樹海に差し出すと、指で空気を混ぜるように動かした。
 空気が、水飴を練るみたいに、ヴィザーゴさんの指先で波紋を作る。
「えーとぉ……じゅげむじゅげむごこうのすりきれ」
 …………
 絶対、揶揄ってるよね!

 水飴の波紋が凪いで、空気に静寂が戻ると、駆け寄ってくるフィリーノさんとカヴァリーロさんが現れている。

 『道』がある。
 道、って言っても、チャルマさんに月蛾の繭を見せて貰った、獣道をちょっと均しただけの、道。
 あたしたちがついさっき、玄関のように出入りした窓もある。
 ホントに近いじゃん。
 
 空気が軽くなった気がする。
 周りの緑も、若干薄い。
 
 気のせいかな?
「どうだろうねぇ」
 意地悪だな。
「くくっ、アキラが分かるのが面白いじゃない?」
 命に関わらなければそれでいいですけどね。
「ちゃんと直してあげるよ」
 直す、なんですね、治すじゃなくて。

「フィリーノ、兎は出来た?」
「出来てるわよ。それよりまず、……ありがとう」
「なんのこと?僕は何もしてないよ、ね?アキラ」
 さっきのお返しだな。
「こうして探してくれて、見つけてるじゃないか。こっちの山羊……さんも、本当にありがとう」
 山羊頭って言おうとしたよね?カヴァリーロさん。
 寸でのところで言い直した。
 ばればれだけど。
 
「いつものように、山羊頭で構わないのに。ヴェーロは気にしないよ」
「ああ、そうだ。ヴェーロ、ありがとう」
 カヴァリーロさんは、ヴェーロさんの名前を忘れていたのかな?
 わざわざ言い直して、ヴェーロさんからチャルマさんを受け取った。
 名残惜しそうにヴェーロさんの顔を見たチャルマさんは、カヴァリーロさんの腕に収まる。

 怪我はない?と、チャルマさんの体調を慮るカヴァリーロさんたち。
 そこに、激昂や叱咤はなく、ただ、チャルマさんを心配している。
「“善良”って、いいよねぇ」
 と、カヴァリーロさんたちを見つめるヴィザーゴさん。
 アクマが善良に拘る訳ってなんだろう?
 
 視線が、あたしに移る。
「――見惚れた?」
 …………冗談かな?本気ではないよね?
 洒脱な返しを考えていたら、
「……ふぅ、Drolleryだよ」
 冗談ですか。

 そうして、フィリーノさんたちのお宅に戻ると、裏庭にわらわらと人が集まっていた。
 チャルマさん捜索隊かしら?と思ったけど、皆さんやけにさっぱりした顔をしておられる。
 それに、何より。
 ほんのりと湿った衣類。 
 皆さんお揃いで、Tシャツとは違う、弥生時代を彷彿とさせる……あ!貫頭衣って言うんだっけ?
 見たことない生地だけど、そもそもあたし、そんなに生地に詳しくない。
 
「チャルマ嬢ちゃん、見つかったかね」
 と、声をかけてきたのは昨日の靴屋さんだ。
「シュベンデオ。心配かけたね。湖まで行ってたみたいだ」
 カヴァリーロさんに抱かれたチャルマさんが、得意気だ。
 
「なあに、俺たちは留守番ついでに風呂をもらったまでだ」
 昨日は紳士然として、黙々と作業をしていた靴屋さんだけど、お風呂上がりも手伝ってか饒舌だ。
 
「チャルマ嬢ちゃん、冒険はいいが、出掛けるときはちゃんと声をかけなきゃだぞ。ビエスさん、娘さんの靴は明後日には出来るからな!」
 忙しいな。
 
 捲し立てるように、連絡事項を告げると、靴屋さんはヴェーロさんの獲物に釘付けになっていた。
「ビ、ビエスさん、あれ」
「ああ、靴の代金には足りますか」
「充分だとも!さあ!捌くぞ!」
 
 おーっ!って、わらわらいた人たちは、いつの間にか道具を持ってきている。
 手際いいな。
 でも、お風呂上がりですよね?
 獣を捌くって、いいんですか?
 
 どわっ!血!スプラッタっ!
 ……ここで、倒れたりできたら、可愛げもあろうものを。

「ねぇ?ヴィザーゴさん」
「ん?」
「あたしって、可愛げがないよね」
「それは、見目のこと?」
「ううん」
「……庇護されたいのなら必須だけど、アキラは立てるじゃない」
「そうなのかな」

 あたしは、なんだかバツが悪くなって、ヴィザーゴさんの顔から視線を逸らした。
 したら、もろに解体が目に入ってしまって……
 吐けないし、
 昏倒も、失神も出来ず、
 気持ち悪さだけを持ち越して、
 ヴィザーゴさんの胸に、ぎゅっとしがみついてしまった。

「La vivo estas por esti ĝuata」
 踊る阿呆に見る阿呆って歌う、阿波踊りの映像が脳裏に浮かんだ。
 当然、ヴィザーゴさんの笑いスイッチは押したよね。 
 
  

 
 
 
 
 
 

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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