第十一章 孤立
フリードリヒが即位したのは、十八歳の年だった。
聡明で、明快で、迷いがなかった。前国王の崩御の悲しみはあったが、臣下たちはこの若い国王に期待した。
フリードリヒは若さが不利であることも心得ていた。
口髭を生やし、威厳のある形に整え、その不利を補った。
国は変わっていた。
オットーが宰相になってから十数年。農地は十二の区割りで整備され、収穫は安定した。市場は活況を呈し、ガリエンとの通商は対等になっていた。もはや瓶詰めに怯える国ではなかった。
フリードリヒは豊かさの中で育った。この豊かさを作ったのは十二だと知っていた。そして思っていた。なぜ外交だけが、いまだに古い十四の論理で動いているのか。
フリードリヒは外交の報告を読むたびに苛立った。
ベームとの協定の更新。条件の微調整。曖昧な文言の維持。何も決まっていないように見えた。
「なぜ、このような曖昧な協定を残すのだ」
フリードリヒはオットーに問うた。
「ベームとは友好的ではないか。ガリエンとも、敵対はしていない。呑み込まれることもない。ならばベームと正式に同盟を結び、ガリエンとも対等に結べば、すべてが安定するではないか」
オットーは答えた。
「我が国が同盟を結ばず曖昧な状態を保つことで、東方の大国ロースクが我が国を攻める理由を封じているのです」
「ならばロースクとも均衡が崩れないような条約を、明確に結べばいいだろう」
なぜ割り切れる形に決めないのか。フリードリヒはそう言う。
オットーは、あの日の御前会議を思い出していた。
アウグストは、フリードリヒとオットーの間にいた。
内政の実務家として、フリードリヒの信頼を得ていた。同時に、オットーの盟友でもあった。
ある日、フリードリヒが問うた。
「アウグスト。率直に聞く。オットーの外交は、古いのではないか」
アウグストは少し間を置いた。
「陛下。宰相の外交は、間違いなくこの国を守ってまいりました。ただ、時代は変わっております」
否定はしなかった。否定する材料を、アウグストは持たなかった。
十数年、あるいは三十年以上、隣で帳簿を支え、数字を揃え、盟友と呼び合った。
その間、外交上の問題は何一つ起きていない。
だが、それがオットーの外交の成果なのか、そうではないのか、ついに見えなかった。
見えなかった。見えないものを、若い国王に説明することはできなかった。
見えないものを見えるように語ることは、アウグストの流儀ではなかった。
フリードリヒには構想があった。
この国は十二で豊かになった。ならば外交も十二でやればいい。明確な同盟、明確な条約、明確な敵と味方。曖昧さを排し、効率的な外交を行う。
それはフリードリヒにとって、自然な発想だった。内政で成功した方法を外交にも適用する。
オットーの「割り切れない均衡」が何を守っているのか、フリードリヒには見えなかった。見えないものは、ないのと同じだった。
オットーは気づいていた。
フリードリヒの苛立ち。アウグストの沈黙。閣議の空気の変化。かつてクレメンスに感じた「老い」を、今フリードリヒが自分に感じている。
あの日のアウグストの言葉が蘇った。「宰相は、老いたのだ」
いや、自分はクレメンスが老いたと思ってはいなかった。
アウグストに、思わされた。そう決められた。
アウグストに悪意はなかった。正しいと思った。だから、彼を信じた。
今、フリードリヒが同じことを思っている。
──あるいは、思わされている。
オットーは初めて、師の孤独を理解した。
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