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十四を数える

奥井晴弥

21,115 字

政治哲学ファンタジー

"「指の数」が世界を分かつ。効率と美学、割り切れない均衡を巡る三世代の物語。"

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第十二章 (終章)両の手

フリードリヒは即位から二年で、外交に手をつけ始めた。
最初は小さなことだった。使節への指示に、オットーを通さず直接口を出した。条約の文言に「明確にせよ」と朱を入れた。
オットーは黙認した。若い国王が自分の色を出したがるのは自然なことだ。

フリードリヒがベームとの正式な同盟を命じようとしたとき、オットーは反対した。
「ベームとの関係は、曖昧であることに意味があります。同盟を結べば、ロースクが動きます」
「ロースクとも結ぶ。すべてを明確にすれば、すべてが安定する」
「すべてを明確にすれば、矛盾が露わになります。矛盾が露わになれば、どちらかを選ばなければならなくなります」
「選べばいい。我が国にはその力がある」
オットーは黙った。この国を豊かにしたのは自分の政策だ。
その豊かさが、今、外交を殺そうとしている。

アウグストがフリードリヒの耳元で言ったのか、フリードリヒがアウグストに問うたのか。後にオットーはそれを確かめることができなかった。
ただ結果だけがあった。
フリードリヒはオットーに言った。
「オットーよ。お前の外交方針は、朕の構想と相容れない」

閣議でフリードリヒが宣言した。
「外交の方針を改める。曖昧な協定を整理し、明確な同盟関係を構築する」
オットーは席に座っていた。反論の言葉はあった。だが言わなかった。
アウグストがオットーを見ていた。
十二年前、同じ目でクレメンスを見ていた自分を、オットーは思い出した。
いや、違う。同じ目ではない。
あの人は老いたと、古くなったと、自分は思っていなかった。思っていなかったはずだ。

オットーが宰相の職を辞した翌日、アウグストがオットーを訪ねた。
「すまなかった」
オットーはアウグストを見た。この男の「すまなかった」は本心だ。
クレメンスの不信任決議の時も、アウグストは同じことを言っただろうか。
いや、あのときは祝いの言葉だった。「次は君が宰相だ」そう言われた。
「君は間違っていない。謝るな」
オットーはそう言った。アウグストは間違っていない。フリードリヒも間違っていない。
誰も間違っていない。ただ、割り切れないものは、消えていく。

次の日、オットーは馬車に乗った。
行き先を告げると、御者は静かに頷き、馬車を走らせ始めた。
出がけに、オットーは門番に一言だけ告げた。門は閉めなくてよい、と。門番は怪訝そうな顔をしたが、頷いた。

馬車は首都を出た。十二の区画が整然と並ぶ風景。
自分が作った風景。退屈で、効率的で、豊かな風景。

やがてそれが崩れ、古い様式が混じり始める。
十四の区割りが残る土地。まだ、残っていた。
オットーはただ、窓の外を眺める。
そしてその両の手で、繰り返し、十四を数えた。

── 了 ──

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