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平凡な俺の日常

斎王暁圭

104,916 字

息子夫婦の離婚と元嫁の死――その裏には、家族の中で積み重なった歪んだ想いがあった。妻は息子に執着し、主人公はそれを止められなかった。やがてすべてを失い、残されたのは後悔と介護の日々。息子と孫も家を離れ、夫婦二人の生活が始まる。過去と向き合いながら、それでも共に生き直そうとする姿を描く、静かな再生の物語。

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第十五章 新たな始まり~平穏な日常を目指して~

「おはよう」
 と、いつものように声をかけて出勤する。
「おはよう。大変だったねー?」
「おはようございます。」
 仁恵と平井さんが挨拶してくれた。
「びっくりしたけど、疲れてみんな忘れたよ」
「甘えていいのよ~?」
「職場でよしてくれって…。」
 パチンと両手を合わせて、平井さんがこっちを拝んだ。
「あ、ごめんー。」
 仁恵が平井さんに謝る。確かに、居心地悪いよな。
「あっ!石田さーん‼待ってました、お話聞かせてください。是非‼」
 物凄いテンションで相沢が言い寄ってきた。ウザい。両手で振り払う。
「こんなこと聞くなよ。職場だぞ‼」
「やー、フツーは一生無縁な経験ですよ?聞きたいですって‼」
 相沢が食い下がってくる。ホントにウザいな。
 男二人でやり合っていると、専務が出勤してきた。
「あー、ウザい、ムサイ!やめろよ」
 なぜか臭そうに手を顔の前で振っている。――ムサイよな、相沢。
「専務も聞きたくないですか?」
「そりゃ聞きたいけど、もうすぐ仕事始まるぞ」
 よし、専務に納めてもらえそうだ!
「専務、おはようございます。私事で大変なご迷惑をおかけしました。」
「面白いから許す!」
「でしょでしょー?」
 また相沢がしゃしゃり出てきた。
「話したくありませんし、思い出すのも怖いんです。」
「そうかー。今度、お前、仁恵に癒してもらえよ」
 専務の言葉に撃沈し、しずしずと仕事に取り掛かった。

 週末。
 随分と気が早いようだが仁恵たち親子と四人で引っ越し先の物件を見に出かけた。俺と真白の二人暮らしが先にスタートするのだから正直、部屋の広さには悩んだが。
 いつかはこの四人で暮らしていくんだろう――そう思うと、胸の奥がほわほわしてきた。
 生温かい青春である。クサいな。年甲斐もない。
 真白と裕貴君も仲良く部屋を見て回っている。
 まだ先のことはわからないが、新しい家族を持つのもいいかもしれない。しみじみとそう思う。真白にも家庭の温かさを教えたい。きっと、仁恵も似たことを考えているだろう。裕貴君も真白に寄り添ってくれる。今後、兄妹になる相手として。

 結局、土日の二日間で物件を見て回ったが、候補を挙げるだけで終わった。
 表面上は、受験を控えた真白の転校をどうしようか、とエリアを再検討することにしたから。内実は、自転車通勤している俺に、車の問題があった。家の車は互いに仕事で使うこともある父と共用だからだ。――母が精神的に参ってしまって、通院に車が必要になったのもある。
 一先ず、と俺と真白は家の近くに2DKのアパートを借り、ひと月と経たぬうちに引っ越した。小姑をなんとかしたがっていたらしい仁恵の両親が、「近所の目があるから」と、俺たちの同居に反対したことも一因だ。
 それでも季節が冬から春に移り変わり、子どもたちが夏休みに入ったタイミングで、俺たちは新居に移った。真白が受験勉強に集中できるように、仁恵が(朝食以外の)家事を負担することと、裕貴君が真白の勉強を見てくれることになった。
 朝食は、引き続き俺の担当だ。隣で仁恵が弁当を作ってくれている。ここは効率重視で同時作業になった。
 それと、俺は、実家暮らしで貯めた金で1BOX車を買った。手頃な新古車が見つかって良かった。
 俺が先に出勤し、遅れて家を片付けた仁恵が家を出る。もったいない気もするが、あと半年で卒業する真白が転校しなくていいように、俺が学校まで送っていく。帰りは少し歩いてもらうことにはなるが、裕貴君が途中で合流するので、下校は任せることになっている。
 このあたりは二学期が始まってからの話だが。

 実家の母も、少しずつではあるが、快方に向かっているらしい。
 父と母、二人きりの生活は、実は人生で初めての経験だ。「夫婦水入らずで快適だ」とは父の言葉である。言葉少なで寡黙な父が少し嬉しそうにしていたのが、息子としては嬉しい。

 大人たちの夏休みが終わる前。俺たちは籍を入れた。

── 第15章 了 ──

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