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沈花繚乱

56,592 字

幻想青春群像劇

"境内の木々は知っている。散ってもまた咲く、君たちの物語を。"

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第二十二章

決裏願合 美奈子篇四
夏祭りの夜だった。境内には提灯が並び、屋台の匂いが漂っていた。
美奈子は浴衣を着ていた。翔太を、鳥居の前で待った。
「久しぶり」翔太が来た。
「久しぶり」
しばらく、二人とも何も言わなかった。花火の音が、遠くで鳴った。
「東京、行くんだよな」翔太が言った。
「うん」
「俺も、行く」
「知ってる」
また、沈黙が来た。屋台の明かりが、二人の顔を照らしていた。
「翔太」美奈子は言った。「もう、会わない方がいいと思う」
翔太は、聞き返した。「え!」

翔太には、意味が分からなかった。
「俺、なんかした?」
「してない」
「じゃあ、なんで」
美奈子は、花火の方を見た。答えなかった。
「振られてるってこと、これ?」
「振ってない。会わないだけ」
「同じことだろ」
美奈子は、また笑った。今度は、少し悲しそうだった。
「何もしてないから、そうおもうの」
続けて
「翔太は、まだ決められないでしょう。何も」
「それとこれと、関係ある?」
「ある。私がいたら、決められないままだと思う」
翔太は、黙った。
「だから、いなくなる」美奈子は言った。「これは、翔太のため」
「勝手に決めるなよ」
「勝手でいい」
花火が、大きく上がった。二人とも、しばらく空を見上げていた。
「分かった」翔太は、ようやく言った。「じゃあ、俺も、決める。今、ここで」
「何を」
「東京へ行く」

美奈子は、少し翔太を見つめた。
「今、どのくらい勉強してる?」
「平日、四時間くらい。休日は、八時間くらい」
「今から、その時間で間に合うの」
「ネットで見た。それくらいで受かった人がいるって」
美奈子は、少し首を振った。「また、人の意見だよ」
「じゃあ、どうすればいい」
「知らない。それは、翔太が自分で調べて、自分で決めること」
翔太は、黙ったまま、地面を見ていた。
「厳しい、って分かってて、それでも東京って、言い続けるの?」
「言い続ける」
「なんで」
「決めたから」翔太は言った。「間に合うかどうかは、まだ分からない。でも、決めたことは、変えない」
美奈子は、しばらく翔太を見ていた。
「私、翔太が受かるかどうか、心配してるんじゃない」
「じゃあ、何」
「翔太が、ちゃんと自分で見て、自分で決めてるかどうか。それだけ、確かめたかった」
花火が、また上がった。
「会わない、はまだ、取り消さない」美奈子は言った。「でも、今日、話せてよかった」
翔太は、何も言えなかった。
 

── 第19章 了 ──

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