← 作品ページへ戻る

セカンドシーズンー好きな人を、真っ直ぐに。ー

連載中(書きかけ)

波方 真季

147,729 字

青春恋愛小説

"「推し」への恋が、モノクロだった世界に彩りを与える。臆病な少女が踏み出す、眩しすぎる「セカンドシーズン」の物語。"

星野陽向(ほしのひなた)は、先天性発達障害〈ADHD〉を抱えて生きてきた。 クラスメイトに迷惑をかける事が多く、そんな理由で学校で虐めを受けるようになった陽向は、小中学校時代を透明人間のように過ごしてきた。 現実から逃げ込んだ先は、小説・マンガ・アニメの世界。 陽向はずっと、オタク陰キャとして二次元の世界の殻に閉じこもっていた。 けれど高校入学後── これまでの自分の人生がひっくり返るような、運命の出会いが訪れる。 図書室で出会った少年は、まるで二次元の世界から飛び出してきたような美しい少年。 雷のような衝撃を受け、人生で初めての三次元の恋が始まった。 恋なんて無縁だったはずの陽向の初恋を面白がった隣家の幼なじみ・黒川朔也。 さらに朔也の恋人である最強ギャル・朱里も巻き込み、陽向は半ば強制的に“垢抜け”させられていく。 オタク陰キャの透明人間だった日常は、恋をきっかけに全崩壊。 友情、嫉妬、自己否定、憧れ、劣等感、そして初めての自信。 恋は、彼女を世界の真ん中へと容赦なく押し出していく。 空気が読めない、忘れ物やなくし物の連続、落ち着きがない、ド直球のマシンガントーク炸裂の陽向の高校生活は、怒涛の出来事に飲み込まれていく── 現役高校生達が、等身大の“好きだ”を全力で駆け抜ける、究極のキラキラ青春群像ラブストーリー!

← 右から左へスクロール

第19話 帰さねぇぞ、夏

「やべー…あっち〜…」

体育館の床から立ち上る熱気に、綾真は思わず天井を仰いだ。
空調は確かに入っている。
それでも、八月上旬の太陽に炙られた空気は、簡単には冷えない。

「いくら体育館冷房あっても…この暑さじゃ効きも悪ぃよな…」

「うわ!やらかしたわー」

「なに?」

「水筒、家の玄関置いてきたわ」

「わー詰んでんなお前」

「ちょっくら自販機行ってくっかー…まだ時間ある?」

「練習始まるまであと10分あるから…余裕じゃね?」

「あーだりぃー外出たくねぇー」

「さっさと行けよ」

軽く背中を押されて、綾真はいやいや体育館を出た。

外に出た瞬間、真夏の空気が一気に身体にのしかかる。
照り返すアスファルト。
容赦なく降り注ぐ日差し。
息を吸うだけで、肺の奥が焼けるようだった。

午後三時半から始まるバスケ部の練習。
その前の、ほんの短いインターバル。

(マジで溶ける……)

校舎脇の自販機の前に立ち、硬貨を入れる。
ボタンを押すと、ガコンという無機質な音が響いた。
取り出し口に手を伸ばし、ペットボトルを掴む。
そして──何気なく顔を上げた、その瞬間だった。

正門の方から、ひとりの生徒が歩いてくるのが目に入った。

その瞬間、綾真の心臓は飛び出した。

見間違えるはずがない。
あの歩き方。
少しだけ内股気味で、日差しを避けるように視線を細める癖。

星野……陽向だ!!!!!

「星野ーーー!!」

気づいたら、綾真は大きな声を張り上げていた。
自分でも驚くくらい、反射的だった。

思いきり手を振る。

「あー!綾真だー!」

向こうも気づいて、フリフリと手を振り返してくる。
そして、駆け寄ってくる。
夏休み中の学校。
この時間、この場所で。

そんな奇跡の偶然、あるか?

「部活ー?」

「そ。星野はなんで?生徒会?」

「ううん、図書室!暑い中部活大変だねー」

「いやまじであっちーよ…こんな中動いたら死ぬ」

「それなー熱中症気をつけて、部活頑張ってね!」

太陽の光をそのまま切り取ったみたいな笑顔。
夏の眩しさに負けないくらい、目がきらきらしていて。
汗も、熱も、全部どうでもよくなる。

「お、おう…」

……天使かよ。

たった数秒。
暑さで根こそぎ持っていかれていた綾真のやる気ボルテージは一気にMAX100まで回復した。

「じゃーねー」

陽向はそう言って、軽やかに手を振る。
胸の奥が、じわじわと焦げるように熱くなる。

このまま別れたら。
次に会えるのは、いつだ?

下手したら……

新学期まで会えない。

「……あ…!」

気づけば、声が出ていた。

「ん?」

振り返る、陽向。

「あ…えっと……すぐ帰る?」

言ってから、心臓がドクン、ドクン、と鳴っている。
つい呼び止めてしまった自分に自分で驚く。

「いや、暫く居ると思うけど……特に決めてない!」

逃げるな。
今ここで言わなかったら、絶対後悔する。

「そうなんだ!あー…それならさ…」

怯むな。
一か八か、言うだけ言って、駄目なら駄目で、それまでだ!!

「練習17:30に終わるから…もしそれまで居るなら……」

一瞬、言葉が詰まる。
でも、もう引き返せなかった。

「俺、映画に備えて戦術大戦のアニメ今1話から見直してて、熱量上がってるから語りたいんだけど、聞いてくんね?」

言った。
一気に言った。
心臓が、喉まで飛び出しそうだった。

次の瞬間。

「まじ!?わかった!!聞くわ!!練習終わるの待ってるわ!!」

(っしゃああああああ!!)

心の中で、ガッツポーズ。

「ま、まじ!?じゃあ、後で玄関で待ってて!」

「おけ。後でね!」

「じゃ、後で」

陽向に笑顔で手を振られながら、練習に送り出される綾真。
ペットボトルを握りしめて、体育館へ駆け戻る。

やべー!!

今ならジャンプシュートめっちゃ飛べそう!!

胸の奥で、小さな夏が、確かに始まっていた。

────────。

太陽は西へ傾き、図書室の窓から差し込む光は、昼間の白さを失って柔らかな橙色に変わっていた。
書架の影が床に長く伸び、時間がゆっくり沈んでいく。

「星野さん、まだ居る?」

静かな声が、空気を揺らす。
陽向は本から顔を上げ、ぱっと笑った。

「今日、17時半に練習終わるバスケ部の友達待つ約束になってるので!先輩、気にせず先に帰ってください!」

あまりにも自然で、あまりにも屈託のない言い方だった。

「…バスケ部……」

俊輔は、ほんの一瞬、言葉をなぞるように心の中で繰り返す。

(今日は木曜日だから……男子バスケの練習日だ)

思考は勝手に繋がっていく。
バスケ部の男子。
胸の奥に、説明のつかないざわつきが生まれた。

「そうなんだ」

俊輔は、なるべくいつも通りの声を保った。

「じゃあ……僕も17時半になったら帰ろうかな」

その言葉に、陽向が驚いたように目を瞬かせる。

「え……そんな!付き合っていただくの、申し訳ないですよ!」

慌てて両手を振る姿は相変わらず全力で正直で、その反応ひとつひとつが、俊輔の胸をくすぐる。

「ううん」

俊輔は小さく笑って、視線を窓の外へ向けた。

「僕が……もう少し居たいだけだから」

夕陽が、彼の横顔を淡く照らす。
その言葉には、理由も説明も付いていない。

けれど──

陽向の胸は、はっきりキュンと鳴った。

「やばー!食らったー!」

自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

「ふふ…だから、そういう事は心の中で言うんだよ」

先輩が、“居たいから居る”。
ただそれだけの理由で、自分と同じ時間を選んでいる。
それだけで、世界が少し特別になる。

「…すいません、つい!」

陽向は、少しだけ声を落として笑った。

「面白いからいいよ」

その一音に、確かな温度があった。

二人はそれ以上言葉を交わさず、それぞれ本へ視線を戻す。
けれど、もうさっきまでの“静けさ”とは違っていた。

ページをめくる音。
時計の針が進む音。
外から聞こえる、遠い体育館の笛の音。

────────。

「じゃ!お先!」

「えっ!おい綾真、早ぇな!」

「お疲れー」

バスケ部の練習を終えた綾真は、まだ熱の残る体育館を振り返りもせずに飛び出した。
練習着のまま、汗で重くなったシャツが背中に張りつく。
シューズを乱暴にバッグへ突っ込みながら、頭の中にあるのはひとつだけ。

昇降口。

そこに、いた。

夏休み中だというのに、きちんと制服を着て、スクールバッグを肩に掛け、壁にもたれながらスマホを覗いている。
夕方の光がガラス越しに反射して、彼女の輪郭を柔らかく縁取っていた。

胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。

会えると分かっていたはずなのに。
待っていると聞いていたはずなのに。
それでも実際に姿を見つけた瞬間、心臓は裏切るみたいに跳ねた。
綾真は深く息を吸い、平静を装う。

悟られるな。
いつも通りだ。

「お疲れー!」

近づくと、陽向が顔を上げて笑う。

「お待たせ」

「うん、遅ぇよ」

「最後コーチの話が無駄に長かったわ」

「それだるいね」

何でもない会話。
何でもない調子。

でも、こうして並んで歩き出すだけで、世界の温度が少し変わる。

正門へ向かう道。
夕焼けが校舎を染め、影が長く伸びる。
部活帰りの生徒の声が遠ざかり、周囲の音が少しずつ薄れていく。

肩と肩が、触れそうで触れない距離。

意識した瞬間、余計に分かってしまう。
彼女の歩幅。
隣にいる感覚。

「腹減ったなー。どっか飯食いにいかね?」

なるべく軽く。
あくまで自然に。
思いついたみたいな顔で。

けれど胸の内では、心臓が暴れていた。

(頼む……)

「いいよー。なに食いたいの?」

即答。
胸の奥で、何かがはっきりと音を立てて動いた。

絶対、爪痕残さないと。

飯だけ食って流れのまま別れて。
また次に会える保証もなくて。
今日が“いい日だったな”で終わってしまう。
それが、無性に嫌だった。

だから。
考えるより先に、口が動いた。

「星野、今日何時までいけんの?」

自分でも驚くくらい、自然な声だった。
探るようでもなく、詰めるでもなく、
ただ確認するだけみたいなトーン。

陽向は、少しだけ首を傾げてから、あっさり答える。

「いや?別に特に。」

返事が軽い。
軽すぎて、逆に怖い。

——こいつ、ほんとに無防備すぎる。

もっと一緒にいたいっていう、自分でも言えない欲が、勝手に口を使っただけだ。

「結構語りたいから、割とゆっくり出来るところが良くね?」

「んーファミレスとか?」

陽向は、歩きながらスクールバッグを持ち替えて、何でもない顔で綾真を見た。

「……だな」

たったそれだけの会話なのに、綾真の胸は変に忙しい。
このまま駅前まで歩いて、店に入って、向かいに座って、何でもない話をして——

そう想像しただけで、喉の奥が熱くなった。

(……これ…ガチで…)

胸の奥で、何かがゆっくりと形になる。
“友達”の線を、どうしても越えたがってもがいてる感情が。

綾真は、歩く速度を落とさないまま、もう一度だけ確かめるみたいに言った。

「家とか……大丈夫なの?」

陽向はきょとんとして、すぐ頷く。

「まぁ、ママにご飯いらないってLINEすれば別に。」

——別に、じゃねぇよ。
そんな事言われたら……

帰さねぇぞ。

言えるわけがない。
この一言で、胸の中がどれだけ騒いだかなんて。

── 第19章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

作品ページへ戻る

コメント

まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。

しおりを挟みました