第1章 壁の町
僕は、高い壁に囲まれた町で生まれた。
大きな石の壁が、町をぐるりとかこんでいる。石の隙間から、冷たい風がふきこむことがある。そのたびに、大人たちは窓をしめる。「外の風は、よくないものをはこんでくる」と言いながら。
誰も外には出られない。大人たちは言う。「外はあぶない。中にいれば安心だ」って。
でも夜になると、僕は窓から空を見て思う。壁のむこうには、何があるんだろう? 星は、壁の内側も外側も関係なく、同じように光っている。壁なんて知らないみたいに。
学校の先生は言う。「外のことは、考えなくていい」
僕は、その意味がわからない。考えなくていい、って、誰が決めたんだろう。先生だろうか。先生の先生だろうか。それとも、もっとずっと昔の誰かだろうか。
僕の胸の中にも、壁がある。
誰かに何かを言おうとすると、言葉がそこで止まる。出てこない。言いたいことがあるのに、口が動かない。授業中、手をあげたいのに、あげられない。友達に「いやだ」と言いたいのに、笑ってうなずいてしまう。
外の壁と、中の壁。
どっちが先にあったんだろう。
ある夜、僕は壁の上に、人かげを見つけた。月の光を後ろから浴びて、その影は少しだけ光っているように見えた。
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