第一章 目
男は彼を見た。
男の視線は粘つくように彼に絡みつき、彼の体に痕をつけた。
……腰……手……首……口、
それぞれで男は安息を得たように視線を止めた。
視線がゆっくりと頬を撫で、彼の瞳をとらえた時、男は自分の中で何かが疼くのを感じた。
「ああ、彼も私を見ているに違いない。」
男は火照った顔で彼を見返した。
彼しか映していない男の目とは裏腹に、彼の瞳は何も映してはいなかった。
男の視線は彼の肌を舐めるように滑る。
男はまるで自分の舌がそこにあるかのような錯覚を覚えた。
視線が首筋に触れた瞬間、男の口内に、汗の名残のような微かな塩味が広がった。
男はごくりと生唾を飲み込み、鞄を持つ手に力が入った。
視線はさらに肩、腕、そして長い指先、さらには白いワイシャツのその中へと注ぎ込まれた。
見えないはずの胸板を想像しながら、男は、肺の奥まで息を満たそうとした。
決して見ることのない、彼の肌の奥を想像しながら、男は手のひらににじむ汗に気づいた。
滑らかな彼の肌に、男の視線の痕がゆっくりと弧を描く。
男は自分の指先が彼の体に触れていると錯覚するように、親指を鞄の柄に這わせた。
居住まいを正し、深く息を吸い、ゆっくりと息を吐く。
それに合わせて親指が鞄の柄をゆっくりと撫でていく。
わき腹から腰へと視線が沈んだ。
――男の指が柄の上で凍りついた。
鞄の柄を握る手に再び力が入る。
男の喉奥から、風に紛れるような声がこぼれ、静かに目を閉じた。
呼吸が早くなる。
呼吸が乱れはじめ、下腹部にじんわりと熱がにじみ、熱を帯びた疼きが男を支配した。
彼は歯を食いしばり、さらに鞄の柄を握りしめる……。
静かに目を開けると、まだ幼さの名残を滲ませた無防備な表情の彼が、空模様をうかがうように窓の外を見ていた。
静かに牙を剥く、己への恐怖に、すうっと氷の刃のような感覚が背骨に走った。
自分の内奥に潜んでいた狂気と対峙し、男は深淵のふちに引き寄せられた……。
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