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重工のメカロニカ

連載中(書きかけ)

赤間世穹

69,848 字

ハードSF・異種族コンタクト

"元素の鼓動と科学の業が交差する、美しくも残酷な鉱石の星のクロニクル。"

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第1番:ここに眠る

 会議室では金と白金が対面していた。手元には大きめのタブレットがあり、そこにはアルカリが調査したハロゲンの光を吸収し、視界がぼやけた薄暗いエリアMと、その空気の中、異様な存在感を放つ謎の構成物の写真が映し出されていた。
 「前にも似たようなものを見たことがなかったか?」
 金はふとそんなことを言った。謎の構成物は導師ドクターが乗ってきた乗り物であり、鉄が素手で打ち破ったもののかなり頑丈な作りをしていることから高度な文明の発明だということは判明している。そしてそれは、同じエリアMに以前から存在している物体と似ていたのだ。
 金はかなり研究に身を入れていて、セリウムと熱い議論を交わすほどの熱中ぶりだ。科学班のランタノイドによる解明は進んでいるとはいえ、あの乗り物や異種の目的が全く検討がつかない。様々な憶測を立てるが、この手の話になれば必ず議論が繰り返し交わされるほど何十年も判明していない事実だ。
 画像を眺めながら言う金に、白金は再び細部まで目を通した。氷の地面に突き刺さるそれは損傷があったり焼け焦げた部分があったりしているがそれほど致命的なものには見えない。内部で何かしらが起こり、制御が不可能となってしまったのだろうかと推察できた。天上を泳ぐ為のものだろう推進板のようなものが複数ついているが、いずれも衝撃であまり活躍を期待出来そうにない状態になっている。細部まで見てもあまり記憶に刺激が起きない。知らないのか、覚えていないのか。白金は少し首を傾げてうーんと唸ると、
 「あるかもしれない、が、俺には記憶はないな」
 「前の写真があったかもしれない、それを見てみよう」
 金はすかさずタブレットを慣れた手つきで操作し、「あった」と言うと画面を開いて白金に見せた。宙に映し出されたそれを少し前のめりになって細部まで目を通した。瓜二つとまではいかないが、導師が乗ってきたものと似ている乗り物の姿があった。それは事故的な写真ではなく、研究所跡地の隣に停止させたものであり、この写真を撮った時期は異種が“いなくなった”直後だったと記憶している為、写真では比較的新しく、状態も美しいまま残っているようだ。この乗り物があの残骸の本来の姿というならば、科学班と技術班の力で直すことは可能なのではないかと白金は考えた。しかし、導師が着ていた衣類はこの星ではかなり心許ないもので、貧弱さに拍車をかけるだけと言えた。ということはこの乗り物自体も発達した文明の残したものだとしてもまだ未熟なものだったのではないか、そんな思考がよぎると、「私と同じことを考えているだろう?」と金は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
 「ただ、導師の話を聞いてから全て判断しよう。直せるかどうかも判らないからな」
 「そうだね」
 「ああ、もういっそのこと分解して中身を全て曝け出して暴いてみたい! きっとランタノイドは賛成するだろうね」
 「なんならセリウムが一番張り切りそうだ」と白金は苦笑した。
 「さて、とりあえず彼の元へ行こうか」
 会議室を出た金と白金は導師の元へ向かった。

 導師は鉄やリチウムとナトリウムによって拠点を案内してもらっていた。ナトリウムは勝手に動き回らないようにリチウムによって抱きかかえられ不服そうだが、鉄が意気揚々と紹介する度に便乗して追加の情報をくれるナトリウムの様子はまるで子供のようだった。
 「──で、先生たちのエリアの隣のスクールは不定期で開かれてるな。まー暇な時しか出来ないからなぁ」
 「スクールって?」
 「あのね! せんせーたちがいろいろおしえてくれるの! えっとねー、メタン水のたまりば、とか?」
 ナトリウムは元気良く前のめりになって答えた。思い出しながら例えを出したようだが、ここには水溜まりの概念があったのかと言う事に興味が湧いた。
 「えっと、“”っていうエリアがあってね。それの話をした時にメタンとかの名前が出たからそれで覚えたのかも」
 リチウムが答えると、鉄は苦虫を噛み潰したような顔をし、「覚えらんないよなぁー、なぁソーダ?」とナトリウムに問いかけた。
 「うん、わかんない!」
 元気良くそれを肯定する様子は本当の兄弟のようで微笑ましい。鉄とナトリウムは座学が苦手なようだ。
 氷物質超臨界相、聞き慣れない言葉だが何となく分かった。氷を指す言葉は天文学で出てくることがある。天王星や海王星などの話では必ず触れられるもの、更に超臨界相という言葉から“氷物質超臨界相”は天王星型惑星や衛生などにある内部海系の可能性が浮かび上がった。思わず身震いをしてしまうほどかなり面白い話が聞けた。到達など不可能と思っていた惑星に運良く不時着できてしまったということ。更にここの文明はかなり進んでいる。人間的な建造物は全く無いし文化的な面もみられないが、科学はかなり進んでいる。それは導師を治療した技術や身に付けているものからも想像出来る。この星は面白い。まだ解明の余地がある。もっと知りたい。
 高速で回転される導師の頭の中ではそんなことを考えていたその時、「正しくは酸化水素・テトラヒドリド炭素・窒素水素化物混合超臨界流体だ」と聞こえてきた。
 「他のものたちにそれは伝わらないとあれほど言ってるだろう、オーラム」と続いて呆れて苦笑する声。
 金と白金だ。金はかなり学者的な発言をするが、何者なのだろう。
 「白金先生が簡単な言い方を教えてくれたんだよ」とリチウムは言うが、金は「いいや、こういった名称や事象は正確に伝えるべきだ」と意見は曲げなかった。かなり頑固だ。
 「まあそんなことよりも、君に聞きたいことがあって来た」そう言って切り替えると金は真っ直ぐ導師を見下ろした。初めて顔を合わせた時よりも威圧感を感じる。頭二つ分ほどの差があるからだろうか、それとも何か別の理由だろうか。導師にはわからなかった。
 「君は何者だ?」
 淡白な一言だがずしりと重い。これが威厳と言うやつだろうか。だが、自分でも何者かどうかは、よく分からない。
 脳を高速回転させ、答えを絞り出す。
 「……正直、自分でも分からない。でも、さっきの超臨界流体の話はすぐに理解出来た。あれは天文学の中の、天王星型惑星などの話で出てくる言葉だったと思う」
 率直に伝えるべきだと思った。こう言えば、きっと彼は納得するし、興味を持つだろうと。案の定、金は嬉しそうに「ほう」と声を漏らした。
 「それについて詳しく談義したい。が、今はまだそのときでは無いな、次に聞きたいことがある」
 そう言うと金はタブレットを取り出し、ある写真を見せてきた。地面に突き刺さった“宇宙船”だった。見覚えがあるが思い出せない。
 「これに見覚えは?」
 「見覚えは、ある」
 「ほう。記憶は無い、と?」
 「無い、かな」
 そう答えると金は見せる手を引っ込め、写真を見つめながら黙り込んだ。
 「今は何でもいい、これについて知っていることを教えてくれ」
 金はそう言ってもう一度画面を導師に見せた。それは先程見せた写真では無く、もう一つの“船”の写真だった。状態はかなり良い方で、つい最近まで動いていたのではないかという程だった。先人がいたのか、と導師は少し落胆した。
 写真をじっと見据えていると、脳内にノイズが走ったような気がした。ずきりと痛む頭を無視し、再び頭を高速回転させて思い返す。
 船の形状は当時の最新式で、鳥や魚を模したデザインと軽量化された外殻や、必須のプログラムAIの最適化、延命の為の荷物もかなり軽量化された上、食事や水分などもただの作業よりも楽しめるようになっていた。「」での仕事はかなり過酷だ。人間として快適に仕事ができるよう、より良い進化を遂げている。地球の未来に希望を与える素晴らしい船は、しか打ち上げられなかった。その意味がわかるのはきっとごく僅かだろう。一度きりの船は次第に風化された。そして、第二の全く別の船が打ち上げられた。そしてその第二の船については憶えがない。そこまでは記憶していた。しかし、あの船の乗船者は関わりが薄く全く記憶にない。
 とはいえ、金たちが知りたいことは──
 「これは宇宙船……“パンドラ”」
 パンドラ、同業者たちは皆、あれをそう呼んでいた。過去の残骸災厄を超えた先の未来希望の素晴らしい発明だ、と。

── 第2章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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