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気持ちは嬉しいけど迷惑です!

連載中(書きかけ)

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22,987 字

オフィスラブコメディ

"冴えない天才と、迷惑な恋心。オフィスは今日も戦場です!"

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 第1話 サエない人

 2008年4月。
 春の朝日が都会の立ち並ぶビルを照らし出している。
 車道には車が列をなし、歩道では人々が、長い塊となって同じ方向に歩いていた。
 駅を降り立った永本萌華は、ひとつ深呼吸をすると両腕を上げて背伸びし、肩にかけたバッグの紐の位置を正す。
 先程までの、満員電車の息苦しさを振り払うかのように、力強く一歩を踏み出した。

 やがて、一棟の高くそびえるビルの前で立ち止まり、ゆっくりと見上げた。

 TAIZO.CO 台蔵組

 と書かれたロゴをそっと見つめる。
 一部上場企業、日本で知らない人はいない。
 すべての都道府県に支店や営業所があり、国内のみならず各国にも実績がある。
 近代的建造物、文化財建築、都市開発、道路、橋梁、港湾施設。
 すべての建設業を網羅する、スーパーゼネコン。
 その本社の前に、萌華は立っていた。

「……きっと、凄いエリートの人たちが、夜遅くまで、猛烈に働いてるんだろうなあ……」
「とんでもない所に派遣されちゃった」
「……なんとか、ついて行かなきゃ!」

 口元を結んだ萌華は、決意も新たに社員通用口に向かい、真新しい入館許可証を取り出した。
 社員専用の自動改札が並ぶ。
 そこに許可証を挿入しようとすると、少し騒がしいことに気づく。
 ガードマンと一人の男が何やら揉めているようだった。
 萌華は思わず立ち止まり、その様子をそっと観察する。

「……また?あなた今月何回目なんですか?守原さん」

 守原と呼ばれた男は、茶色の皺が目立つスーツを肩にかけた鞄の紐でずらし、無精髭もそのままのどこか、いや、かなりだらしない風貌で、ガードマンに懇願している。

「……夕べ、名刺入れに入れなきゃって、引き出しから出して」
「机に置きっぱなしにしたんですよ」
「持ってくる気はあったんです」
「本当ですよ」

 ガードマンは呆れたようにため息。

「だったらなんで?わざわざ帰ってから引き出しに入れるんですか?」
「名刺入れに入れっぱなしで良いでしょう?」

「それは……写真の写りを確認したくて……」

「一回見たらいいでしょう?変わりゃしないんだから」

 守原と呼ばれた男は、しょんぼりと肩を落とす。
 ガードマンが詰所の受話器を取りだした。

「毎度毎度、覚えちゃいますけど規則なんでね」
「所属の部署は?」

「設計部……建築意匠課、空間デザイン担当」

「名前は?」

「守原……省伍……です」

「年齢は?」

「……34歳」

 ガードマンが内線スイッチを押して、会話を始めた。

「おはようございます、警備です」

 すると、間髪入れずに返答があったようだ。

「はい、わかりました、失礼します」

 受話器を置き、省伍を見る。

「『確かに守原省伍34歳は設計部建築意匠課に在籍する社員です』だけお聞きしました」
「何も言う前から」

 省伍は恥ずかしそうに頭をかいた。

「それじゃあ、以後気をつけて下さいよ」
「本当、何回目だろうまったく……」

 ぺこぺこと頭を下げながら入社していくその背中を、萌華は呆然と見送るだけだった。

「……こんな大手にも……あんな冴えない人いるんだ……」

 ポツリと呟くと、ガードマンに一礼して、入館証を機械に差し入れた。

 満員のエレベーター。
 5階に到着すると、人の塊の隙間を縫うように這い出してフロアに出る。
 目の前の白い扉には「積算部」と書かれていた。
 ノックをしても、返ってこない。
 萌華は首を傾げて、恐る恐る扉を開くと、そこには左右に長い廊下があり、その向こうにまた、「建築積算課」「資材積算課」「土木積算課」など複数の扉が並んでいた。

「……この最初の扉、意味ある?」

 そう思いながら、自分の派遣先である建築積算課の扉をノックすると、ワイシャツにネクタイの男性が扉を開いてくれた。

「……あなたは?」

「私、本日から『ITTEスタッフ』より派遣されました、永本萌華です」
「よろしくお願いいたします」

 丁寧に頭を下げると、男性は笑顔に変わる。

「お話は伺っております、では、課長のところにご案内しますね。」

 整然と机の並ぶオフィス。
 その全てにデスクトップパソコンが並び、社員たちがそれぞれの席で、肩や首を回したり、談笑していたり、携帯をいじったり、難しい顔で資料に目を通している者もいた。
 男性はみなネクタイ、女性は私服である。
 みな、社員証を首にかけていた。
 そして、萌華が現れて頭を下げると、どこか色めき立つ男性社員達。

「あの人が……へえ」
「……なんか、今日集中できるかな?」

 女性陣も口元を上げる。
 が、心なしか目は笑っていなかった気がした。

「ちょっと気合いれすぎじゃない?」
「朝出る前、どれくらい時間かけたんだろうね」

 そんな声が聞こえたような気がするが、萌華の耳には入らない。
 やがて課長、安川のデスクに到着すると、安川はにやにやと、開いた携帯に文字を打ち込んでいた。

「課長、今日から派遣の永本さん、出社されました」

 安川がニヤついたまま顔を上げると、その顔がさらに満面の笑顔に変わる。

「いや〜君が永本君、初めまして」

「永本萌華です」
「よろしくお願いします」

 立ち上がった安川が、手を差し出すと萌華が両手で握り返した。

「う〜ん、やわらかい手」

「……は?」

 思わず連れてきてくれた男性を見ると、困ったような苦笑を浮かべた。
 女性陣の牽制するような態度が、一瞬で同情に変わる。

「……あれは、セクハラよね」

「どうだろう……個人の感想って言ったらそれまでだし」

 上機嫌の安川が、自分の机に置いていた萌華の社員証の写真と本人をにやにやと見比べた。

「会えるのを楽しみにしてたんだよね」
「いや〜、実物は写真より、なまらめんこいね」

「は……はあ、ありがとう、ございます」

 女性陣の小声がひそひそと止まらない。

「……あれは、アウトでしょう?」

「う〜ん、褒めてるっちゃ褒めてるからなあ」

「そもそも課長、北海道だっけ?」

「確か、土浦だよね」

 安川が社員証の紐を輪のように広げると、萌華が受け取ろうと手を伸ばす。
 するとにやけた顔のまま、首を振る。

「頭、下げて」

「はい?」

 ひそひそ話が、もはや普通の会話になってくる。

「洗礼の儀式ね」

「みんな通る道よね」

 安川の手が上がる。

「私が、かけてあげるから」
「メダル授与みたいに、丁度北京でしょ?今年」

 顔を引き攣らせて男性をみると、すっと視線を外された。

「ほら、頭、下げなさい」

「は……はい」

 観念した萌華が頭を下げると、紐を首に通す安川。
 紐がかぶさった髪の毛に手を伸ばそうとした瞬間。

「直接の接触はアウトです!!」

 オフィスの女性陣全員のピッタリと揃った声がこだまする。

「……な、何?やだなあ、ちょっと直してあげようかと」
「ま、まあ、できるか、自分で」
「と、とにかくよろしくね」

「……よろしくお願いします」

 どこか含みを持った挨拶をした萌華は、そのままオフィスの社員達に向き直り、深々と一礼をする。

「本日よりお世話になります」
「永本萌華です!」
「よろしくお願いします!」

 オフィスには拍手が起こった。
 女性陣の拍手には、より一層の力がこもる。
 午前9時、始業時間を知らせる社歌の伴奏が流れ始めると、萌華が思わず顔を上げた。

(この歌、CMの……村谷古司さんの歌)

♪台蔵組社歌「つくる、あした」

つくる つくる この街を
橋に 街に 夢を架け

見上げる空に クレーンの歌
今日も元気に 仕事はじめ

  ああ ここにある
  あなたの街 あなたの明日
  ああ この手で
  明日を つくってゆく

汗を流して 積み上げて
誰かの笑顔 守るため

小さな街も 大きな街も
みんなの想いを かたちにする

  ああ ここにある
  あなたの街 あなたの明日
  ああ この手で
  明日を つくってゆく

つくる つくる この街を
今日も 明日も つくってゆく

 萌華は、目を閉じて聴き入っていた。

(朝から……流れるんだ)
「私も……つくっていけますように」

 こうして、永本萌華の明日をつくる挑戦が、始まったのだった!

 気持ちは嬉しいけど迷惑です!

── 第2章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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