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セカンドシーズンー好きな人を、真っ直ぐに。ー

連載中(書きかけ)

波方 真季

147,729 字

青春恋愛小説

"「推し」への恋が、モノクロだった世界に彩りを与える。臆病な少女が踏み出す、眩しすぎる「セカンドシーズン」の物語。"

星野陽向(ほしのひなた)は、先天性発達障害〈ADHD〉を抱えて生きてきた。 クラスメイトに迷惑をかける事が多く、そんな理由で学校で虐めを受けるようになった陽向は、小中学校時代を透明人間のように過ごしてきた。 現実から逃げ込んだ先は、小説・マンガ・アニメの世界。 陽向はずっと、オタク陰キャとして二次元の世界の殻に閉じこもっていた。 けれど高校入学後── これまでの自分の人生がひっくり返るような、運命の出会いが訪れる。 図書室で出会った少年は、まるで二次元の世界から飛び出してきたような美しい少年。 雷のような衝撃を受け、人生で初めての三次元の恋が始まった。 恋なんて無縁だったはずの陽向の初恋を面白がった隣家の幼なじみ・黒川朔也。 さらに朔也の恋人である最強ギャル・朱里も巻き込み、陽向は半ば強制的に“垢抜け”させられていく。 オタク陰キャの透明人間だった日常は、恋をきっかけに全崩壊。 友情、嫉妬、自己否定、憧れ、劣等感、そして初めての自信。 恋は、彼女を世界の真ん中へと容赦なく押し出していく。 空気が読めない、忘れ物やなくし物の連続、落ち着きがない、ド直球のマシンガントーク炸裂の陽向の高校生活は、怒涛の出来事に飲み込まれていく── 現役高校生達が、等身大の“好きだ”を全力で駆け抜ける、究極のキラキラ青春群像ラブストーリー!

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第2話 高校入学

小学校に入学してから、星野陽向の世界は、少しずつ歪み始めた。

その特性から、授業中に立ち歩いてしまったり、空気を読まずに発言してしまったりすることが多かった。
集中したかと思えば突然意識が逸れ、静かにしていなければならない場面ほど、じっとしていられない。

いつも先生に叱られて、クラスのみんなに迷惑ばかりを掛けてしまう。

クラスメイトたちが次第に落ち着き、忘れ物や私物の管理に慣れていく中でも、陽向だけは小学二年生になってもそれが出来るようにならず、未就学児のような振る舞いのままだった。

周囲と歩幅が合わない。
同じ教室にいるはずなのに、どこか遠い。

最初は、うまく言葉に出来なかったその違和感は、学年が上がるごとに、確かな形を持ちはじめる。

ニ年生の時期に、発達検査や特別支援教室手続きの過程で母親同士が自宅でその話題を交わすことも多く、朔也はそれを日常の一部として聞いて育ってきた。

そして三年生に進級した春。
陽向は、通常の学級に籍を置いたまま、一部の時間を校内の“特別支援教室(通級)”で過ごすようになった。

それは「守るため」の選択だった。
けれど、子どもたちにとっては、理由を理解するには、まだ少しだけ早すぎた。

────────。

その出来事は、特別な日でも、特別な時間でもなく、
ただの、いつも通りの休み時間に起きた。

「あれー? なんか本落ちてる!おーい、これ誰のー?」

教室の隅。
床に落ちていた一冊の本を、クラスの男子が拾い上げ、面白半分に声を張り上げる。

「あ…わ、私の……!」

掠れるように上がった声。
陽向だった。

「げっ!触っちゃった!」

次の瞬間、男子は反射的に、その本を近くにいた友達へ放り投げた。

バシッ。

「やめろよー!」

投げられた男子は、笑いながらすぐに拾い上げ、仕返しのように別の友達へ向かって投げ返す。

「ギャハハ!」

本は、意思を持たないまま、教室の空を飛び交い始めた。

「……返して……やめてよ……!」

陽向の声は、誰の耳にも届かない。

バシッ。
バシッ。

ふざけた笑い声と共に、
陽向の大切な本は、男子たちの手から手へと渡っていく。

そして──

バシッ。

「いって!」

その本は背中に当たり、朔也の元へ回ってきた。

「………」

床に落ちたそれを拾い上げると、朔也の視界の先に、陽向の姿があった。

「……朔っくん…………返して……」

今にも涙が零れ落ちそうな瞳。
声は震え、唇が小さく噛み締められている。

「ヘイ!朔也パス!」

背後から、軽い声が飛んできた。
振り返ると、友達が両手を上に掲げて笑っている。

朔也は、陽向と友達を交互に見た。

──そして気づく。

教室にいる全員の視線が、今、この瞬間の自分に集まっていることに。

一瞬の沈黙。

「…………ヘイ…!」

朔也が投げた先は、陽向ではなく友達だった。

それを合図にしたかのように、再び本の投げ合いが始まる。

「…返して……っ大事な本なの…返してよ……っふぇ〜ん……」

声は、やがて嗚咽に変わり、陽向はついに泣き出した。

「…うわっ…やべ……!」

誰かの呟きと同時に、本は勢いよく陽向に向かって投げつけられた。

バシッ。

「……っ」

陽向は声を上げることも出来ず、床に落ちた本を拾い上げる。
まるで壊れ物を抱くように、胸に強く抱きしめた。

「……ぐす……ひっく……」

泣きながら、自分の席へ戻る小さな背中。

その日を境に──

朔也は、学校で陽向と関わることが、極端に少なくなっていった。

小学生という生き物は、不思議だ。

入学したばかりの低学年のうちは、「みんな仲良くしましょうね」という風潮が、まだ現実として機能している。

けれど小学三年生にもなる頃。
途端に子供の世界は、突如として変わる。

派閥。
悪ノリ。
空気を読む力と、読めない者を切り捨てる速度。

クラスは一気に、小さくも社会的に機能し始める。

陽向の持つ特性と、特別支援教室への通級は、その変化の中で、あまりにも分かりやすい“印”だった。

放課後、遊びから帰宅すると隣家の玄関先で、陽向親子を前にして、菓子折りを手にした親とうなだれるクラスメイトの姿を見る。

──謝りに来ているのだ。

(また虐められたのか…)

そんな光景は、小学校時代、決して珍しいものではなかった。

それでも。

(……俺には関係ない)

朔也は、そう思うことにしていた。

俺には俺の世界がある。
俺には俺の立ち位置がある。
余計な面倒事に首を突っ込む理由なんて、どこにもない。

関わらなければ、傷つかない。
深入りしなければ、失わない。

それが、この世界を生き抜くための、正しい距離の取り方だと信じていた。

けれど、朔也のそんな選択と歩調を合わせるように、
陽向は、少しずつ変わっていった。

本来持っていた明るさは日毎に影を潜め、学年が上がるにつれて、周囲から人が減っていく。

気づけば、友達と呼べる存在はいなくなり、卒業が近づく頃には、陽向はいつも一人で過ごす事が当たり前のようになっていた。

誰にも迷惑をかけないように。
誰の邪魔にもならないように。

なるべく人目につかないように、中休みや昼休みも、陽向は逃げ込むように図書室へ足を運んだ。

陽向にとって物語の世界は、友達が居ない寂しさを埋めてくれる掛け替えのない居場所だった。
空想の中に身を沈めるように、小説、漫画、アニメに熱中していく。

そこは、削られてしまった心を、そっと撫で直してくれる場所だった。
ページをめくるたびに、世界は静かに色を取り戻し、胸の奥に溜まっていたものが、少しずつほどけていく。
陽向は、現実で受けた傷をそこで癒していた。
誰かに寄りかかる代わりに、物語に身を委ねる。
そうしてまた、次の時間を生きるための息を整える。

陽向は少しずつ、上手に自分の心を守りながら、周囲との距離を覚えていった。
自分から関わらない努力をする。
学校では、出来る限り目立たないように。
静かに、静かに、息を潜める。
それが、“学校での星野陽向”の当たり前の姿になっていた。

しかし自宅では、相変わらず騒がしくて、よく笑って、よく喋る。

「あら朔、宿題やってるの?偉いねー!あ、ひなも呼んで一緒にやらせよう」

朔也の家に届けものに来た陽向の母親が言った。

小学校の夏休み。
朔也は、何事も早めに終わらせたいタイプで、陽向は始業式の直前になってから慌てて取り組むタイプだった。

呆れたような笑みを浮かべて、陽向の母親は隣の家へ呼びに戻っていく。

しばらくして、二人は机を挟んで向かい合い、ドリルを広げた。

「あれー?」

筆箱をパカッと開けた陽向が、声を上げる。

「……相変わらず、ひなの筆箱は空っぽだな」

「鉛筆貸してー!」

「なんでいつも無くすんだよ!」

「だってー知らないうちにどっかにお出掛けしちゃうんだもん」

「……ぶっ」

思わず、朔也は吹き出した。

「お前の鉛筆生きてんのかよ」

「ねーねー、昨日のワンピ見た?あーでこーで、あーでこーで……」

朔也が陽向の為に新品の鉛筆を削ってあげている間も、陽向の口が止まることはない。

その無邪気さも、落ち着きのなさも、場の空気を明るくする騒がしさも。
そんな“普段の陽向”の姿を、学校の中で知っているのは、朔也ただ一人だった。

小学校を卒業し、中学校へ進学したからといって、世界が一変するわけではない。

所詮、地元の公立中学。
顔ぶれが大きく変わることもなく、陽向の学校での立ち位置が、環境と共に変わることもなかった。

────────。

中学一年生。

その日、陽向は給食当番だった。

お盆を手に、列に並ぶクラスメイトの前へ立ち、
陽向は淡々と、サラダの皿を乗せていく。

「うぇ…」

目の前で、お盆がヒュッと露骨に避けられた。

「あー今日サラダ食いたくねぇなー。あ、そー言えば俺、レタスアレルギーなんだよな」

そう言って、男子は後ろに並ぶクラスメイトへ視線を送る。

「…あー…私も野菜食べれないんだった!」

それを合図にしたかのように、次々と、陽向の前を素通りしていく。
サラダを避け、視線を避け、言葉を交わさずに。
クスクスと押し殺した笑い声が、列の後方から、じわじわと広がっていく。

この時代、食品ロスには厳しい。

全員が完食出来るよう、あらかじめ減量指定が出来て、食べたい子に回せるよう、苦手なメニューは受け取らなくていい。
そんな“正しいルール”が、きちんと用意されている。

朔也は知っていた。
内面的にはまだまだ未熟な自分達。
しかし大人達によって厳格なルールの中で表面上に“大人”にさせられる中学生は、グレーゾーンを熟知している。

小学校の頃からうんざりするほど、いじめ、人権、差別などについて洗脳のように繰り返し教育を受けてきた。

教師は過剰に慎重で、過干渉になっていく保護者。
小さなトラブルにも即座に大人の介入が入り、話し合い、謝罪、連携。
それが「当たり前」になった世界で育った彼らは、トラブルに敏感になり、露骨な暴力を選ばない。

代わりに選ぶのは、誰も責任を取らなくていい方法。

クラスで嫌われた子は

空気にする。
触れない。
近寄らないを
関わらない。

表では何も起きていない顔をする。
その代わりに、裏ではえげつないような陰口を喚き散らして発散。

裏アカウント。
限定公開。
匿名のディスり。

告白という体裁の罰ゲーム。

教師や大人が指導できるのは、「いじめ」という形をした行為までだ。

誰と関わるか、誰と仲良くするかの本人の友達関係にまでは口を出せない。
揶揄いだとあからさまにわかっても“告白”という行為自体の個人の感情については口出せない。

大人が手出し出来ない最悪の領域で、残酷な方法で、ターゲットの精神を抉り取る。
それが、朔也が見てきた同級生達の姿だった。

ポン。

ふいに入ってきた通知に、朔也はスマホを手に取った。
そのままゴロンとベッドに転がりSNSを眺める。
流れてきたのは、クラスメイトで仲良い女子の限定公開ストーリー。

“卒業最後の席替えなのにまじ終わった。頼むから死んでくれ”

名前は出ていない。
理由も書かれていない。

それでも、クラスの全員が、誰のことか一瞬で分かる。

なぜ、ひなは。

あんなにも毎日を只一生懸命に生きてるだけなのに。

こんな何の苦労も知らないような奴に“死んでくれ”だなんて言われなければならないのか。

(ま、どーでもいいけど。)

一瞬、腹の底で何かが煮えたような気がした。
けれど、その感情は、考える間もなく、すぐに消えた。

────────。

やがて季節は巡り、春が来た。

卒業。
そして進学。

二人は、何事もないかのように、同じ高校へ進んだ。

満開の桜の下で、互いに、ほんの少しだけ違う方向を見つめながら。

「朔ー!ひなー!写真写真!」

弾んだ声に呼び止められる。

「いいよ…めんどくせーな」

「せっかくだから一緒に撮りなさいよ」

はぁ──。

二人の母親に促され、朔也は小さく溜め息をつきながら、陽向と並んで入学式の看板の前に立った。

「ひな、撮る時くらいマスク外して!」

「あっごめん」

カシャ

シャッター音が鳴ると同時に、陽向はすぐ、またマスクを付け直す。

「全く…家ではあんな豪快なのに、一歩外出たら借りてきた猫みたいに恥ずがりやなんだから」

「っえへへ」

母親と話しながら、少し照れたように笑う陽向。
その横顔を見ながら、朔也はふと実感していた。

こんなふうに、周りの視線を気にせずに、ひなと学校で肩を並べて立っているなんて。

保育園。
小学校。
中学校。

変わらぬ世界。
変わらぬ人間関係。
うんざりするほど続いてきた、くだらない毎日。

けれど、ここには。

自分のことを知っている人間も、陽向のことを知っている人間も、ほとんど少ない。

新しい出会い。
ゼロクリアの人間関係。

自分の中で、静かに何かが変わる予感がした。

「ひな!そー言えばお前、購買で買い食いばっかすんなよ。只でさえデブなのに更に太るからな」

「しないよっ!デブじゃないし!うざいお前!」

いつも通りの、くだらない言い合い。

けれど学校で、こうして陽向と普通に言葉を交わしていることが、妙に新鮮で。

変な感じがして、つい悪態をついてしまった。

── 第2章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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