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沈花繚乱

56,592 字

幻想青春群像劇

"境内の木々は知っている。散ってもまた咲く、君たちの物語を。"

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第二十八章

勇岐別信

カレンダーには、明後日に赤丸がついている。
時刻は午前五時をまわったところだ。
ベッドの上で、天井のシミを見ながら勇は、
小さなため息をついた。
「後、二日」長そうで短そう。短そうで長い。
「手術」
この言葉の響きは
はっきり言って怖い。それもかなり。
でもここは、耐える。その隙をついて己の弱い部分が波状攻撃を
仕掛けて来る。
「ここで諦めたら、凄く楽になるよ」
「吐き気を我慢しなくても、よくなるよ」
そんな囁きが、胸をよぎる。
それが全部、自分の中から出ている言葉と気がつく。
どうした、どうしちゃった。
「諦めるんじゃない。少し休めばいい」
自分の中にある心の弱い部分が、徒党を組んで
押し寄せてくる。
いわゆる『弱い心連合』の攻勢がすさまじい。
「もっとすっきりしたくない?」
「もうすぐ、痛みとも別れられる」
ここで援軍登場
かあちゃんだ。 かあちゃんは、
いつも、俺より早く起きて、ご飯作ってくれて、働いて、いつも自分の
ことを最─…─… やばい、涙が出てきた。とまんねー。

弱い心連合は、まだいる。
でも、少し静かになった。

「ほら、着替えようか」
一言で落ち着く。
「今日外出するの?」聞かれた
「うん、気分転換」
「外出許可は」
「十時からもらっている」
「送って行こうか?」
「大丈夫、ありがとう」

そういえば最近『ありがとう』と素直に言えるようになった。

「ウーン」病院をでて、大きな背伸びをした。もう世間では、春なのに。
「俺の心はブリザード」自分で言ってつい笑ってしまった。少しだけこの空気感を味わう。
歩きながら「花は四種類で、四つ当たり、あれ、でもこの前は八つ当たりしなかったっけ」
しょうもない事ばかり考える。
「そういえば翔太どうなったかな」
中間報告がない。多分、いや絶対、
翔太を信じよう

「おーい、姥桜、来てやったぞ」
神社についた 第一声
桜は不意を突かれたが、無視した。
勇は、関係なく
「勘違い厚化粧の桃は何処だ」
流石に桃も無視するしかない。
「辛気臭い梅干しばあちゃん、何処行った?」

そして最後に「永遠の未成熟、あんずちゃん」

以上 いつもの倍、心を込めたので、四つ当たりの倍で八つ当たり完成じゃ
勇は高笑をした。笑いながら涙が溢れて止まらなかった。

花達は静かだった。

勇は病室に戻ってきた。母が椅子に座ってウトウトしていた。
「お帰り、早かったね」
「うん」
「まだ行くとこある?」
「後は特にないかな」
「でも」母は気になった。
「明日、まるっと空いちゃうよ」
「いいんだよ。明日は獅子身中の虫退治」
「馬鹿なこと言わないでご飯だよ」
就寝前の横になっている時に『 俺の弱い心連合』のスタメンを考えて見た。
1番は眠気、2番誘惑、3番吐き気、……アレ、なんだかんだ言っても全部俺に向かう。
という事は俺を全力で潰せばいい 。なんだ、相手がチョロいので早く寝よう。

第二十九章。
皆会穏朝

「勇、何か予定うまった?」
今日はカレンダー花丸の前日である。
「今の所は虫退治だけ」
「じゃあ、ご飯食べたら、付き合って」
「デートのお誘い?」
「コラ、しばき倒してストローで脳みそ…なんだっけ、
最後が 怖かった」
「アホな事はいいから、外出許可手続き宜しく」

「どこ行くの」
「船を作って花びらを運ぶ」
「何それ」
「時期的にちょっと早いけど」
「ああ、美奈子のお父さんが言っていた?」
「そう、それ」
「でも何で」
「暇つぶしにいいでしょ」
「それではお嬢様、出発の準備を」

前の方に美奈子と紀之の姿が見えた。
近くまでいき、勇が声をかける。
「こんにちは、この前はありがとうございました」
紀之は言う。「こちらこそ退屈な話しか出来なくて、申し訳ない」
「先日はお忙しい中、申し訳ありませんでした。勇の母の柔です」
すかさず、勇が「柔道一直線」を歌い出す。紀之は、思い出した。
日本中、一大ブームを巻き起こした。
しかも、当時は隣町の学校にいたらしい。我が小学校の
ジャイアン中村は、
手も足も出ない、と柔道仲間の井上が言っていた。
「どちらまで」柔が聞いた。
「この前話題になった花の船が見たい、そう言われてきました。」
誰もその内容を言わない、いや、言えないだろう。しゃべったら効力がなくなる。
桜の花があまりなくて、梅、桃が中心になった。
皆、黙々と花びらを集めている。
途中、美奈子は桃から呼ばれた。
「ちょっと頭が痒いから手伝って」
何と花びらを落とし始めた。
梅も言った「私も邪魔だから 」

梅と桃の花びらが筏一杯に積まれた。
ちょっと桜は悔しそうだ。
角を曲がると見えなくなる。

紀之は思った。「新宿で電車、藁の願い」
そして言った。 「そこに懐かしい世界がある」昔の事で
美奈子は思った。「また一緒に遊ぼう」
そして言った。 「新しい世界がある」いざ
柔も思った。 「一緒に帰ろう」
そして言った。「前とちがう世界がある」輝け
花筏が水面と並んだ。
皆、「見えなくなってゴール」

勇が手を放す。
しばらく見つめる。
そして、一言「頼む」

勇の花筏が角を曲がった。
そこへ勇の一艘が突っ込んだ。
四艘が重なった。
梅と桃の花びらがほどけ、水面いっぱいに広がった。
光の反射が変わった。
花びらはしばらく流れ、それから一枚、また一枚と水に沈んでいった。
行き交う人まで、足を止めた。
誰からともなく声が出た。
「よっしゃー!」

その頃、翔太は、ラグビー部顧問の平尾先生に呼ばれて
母親といっしょに、応接室にいた。顧問の隣には、
一度断った横浜体育大学の松尾監督がいた。
「お母さん、お久しぶりです。翔太君の進路はもう決まりましたか?」
翔太がいう「まだ、決まっていませんがあと2校あります。」
「ワンチャンス下さい。ただ お願いするだけではありません。
我々も精一杯させて頂きます。前回は、B推薦でしたが、今回は、S推薦を考えています。」
「翔太君には期待しています。一緒に ジャパンを目指しましょう!」
翔太は、「一晩考えて、ご連絡します」

平尾先生がいう
「おまえ、変わったな」「そうですか」

「なんか今までの「傷つきたくないからきずつけない」優しさの翔太から、
「傷つけたくないから傷つけない」一人の翔太に変わった」
「なんだ、それ」
「俺もよく分からないけど嫁が考えてくれた決めセリフ」
「松尾監督がびっくりしていた。翔太がまだ決まってとは
是非一緒にしたい」

「今夜、返事します。ありがとうございます。」

翔太はベッドに横になって考えた。
思う事は一つ、「ラグビーが好きか」
スマホをとった。
「先生、お世話になります」
三十第一章
択路登天 美奈子篇
例年通り、境内は桜吹雪に包まれていた。
美奈子は制服のまま、手水も使わず賽銭箱の前を素通りし、桜の根元にしゃがみこんだ。
「どっちか決めなきゃいけないの」
桜は答えない。ただ揺れている。
「東京に行くか、ここに残るか。……ねえ、聞いてる?」
「聞いてる」桜が言った。
「東京の大学を受験するか、地元に残るか、翔太の気持ちも、わからない。
ねえ、どっちが……」
「答えは持ってない」
「桜って、そういうの得意そうなのに」
「誰も今の私には、聞かない。もう、皆の興味は私にない」
そして、
「くるなら、満開より前にきて、もう今年は終る」
怒っているのだろうか。何故か、わからない。
「散ったあとの話は、他の子にでも聞いて、私の役目は、散るまで」
美奈子は何気なく隣の、まだ蕾も目立たない木を見た。
杏だとは、まだ知らない。
 
 
石段の脇、日陰になった一本の梅の前で、美奈子は膝を抱えて座り直した。花はとうに散って、葉ばかりが茂っている。
「梅は、もう終わってるんだね」
「終わった。それより、迷ってるんでしょう」
「彼と別れて東京に行くのが正解なのか、分かんない」
「正解とかは、あなたが決めることじゃない」
美奈子は顔を上げた。
「じゃあ誰が決めるの」
「時間。それか、周りの誰か」梅は淡々と続けた。
「春の花の代表は桜。みんなそう言う」
「違うの?」
「最初に咲くのは私だけど皆が褒めるのは桜」
「悔しいの?」
「別に」
「本当は?」
「悔しいです」
美奈子は笑った。
「でも、先に咲くと、先に終わる。だから分かることもある」
「何が?」
「終わってからじゃないと、分からないことがあるってこと」
「無責任じゃない、それ」
「無責任、で合ってる。でもわかってくれる人もいる」
美奈子は少し笑った。初めてだった、この境内に来て笑ったのは

裏手にまわると、桃の木が一本、誰にも手入れされないまま伸びていた。花はまばらで、参道からはほとんど見えない位置にある。
「こっちまで来る人、あんまりいないでしょ」
「いない」桃はあっさり認めた。「でもイイの、私が女王だから」
「誰も見てないのに?」
「だって二輪咲だから、さみしくないし、そして」
「誰も見てなくても、わかっている、だって春の美味しい果物は? ピンク色を日本語にすると?」
美奈子はしばらく黙って、桃を見上げていた。
「東京行っても、こっちに残っても……どっちも、誰かに認めてもらえる保証なんてないんだよね」桃が言う。
「保証なんて、最初からいらない、でも」
美奈子は俯いた。「背中を押してもらいたいだけ、ただ、それだけ」
「決めたのは、自分。でも失敗した時、せめて吐き出せたら――」
「美奈子が背負うには重すぎるね。でもほっといちゃだめ」
桃が続ける。
「皆、私を羨む。あなたは、また来年、自分の花を咲かせることができる」
桃は少し枝を揺らした。
「一年頑張っても、満開は一週間だけ」

風がやんだ。美奈子はポケットの中の、まだ出していない願書のことを考えた。
 帰り際、鳥居の手前で、美奈子はふと足を止めて振り返った。
四本の木はどれも、ただ立っていた。
——行けばいい、と桜は言わなかった。
——残ればいい、と梅も桃も言わなかった。
誰も答えを持っていなかった
美奈子は海を見て小さなため息をついた。
 

── 第25章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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