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沈花繚乱

56,592 字

幻想青春群像劇

"境内の木々は知っている。散ってもまた咲く、君たちの物語を。"

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第二章

孤花籠待 陽子篇
学校帰りの神社は、もう暗かった。
「何で私だけ」
桜に聞いてみた。
「何で私だけ、プリントくれないの? 何で私だけ、お昼はひとりなの? 何で一人で掃除しないといけないの? 何で、何で、何で???」
桜が聞いた。
「暴力とかは」
「それは全然ない。だから先生に言っても相手にしてくれない」
「言葉の暴力?」
「言葉も、そんなにない。ただ……いないことにされてる」
桜は少し黙った。
「無視、ってこと」
「うん」
「それが一番、しんどいやつだ」
「桜にも分かるの?」
「分かる」桜は言った。「散ったあと、誰も拾わない花びらの気持ちなら」
陽子は膝を抱えた。
「私、何もしてないのに」
「あなたが原因じゃない、悩んでも無駄だから」
 
石段を降りて、梅の前に座る。花はもう散っている。
「桜に、何て言われた」
「あなたが原因じゃない、って言われた」
「そう、無視する人間は、大抵長く続かない」
「どういう意味?」
「飽きるってこと。あなたを無視することに、そのうち飽きる。理由なんてなかったんだから」
「それまで、我慢しろってこと?」
「我慢とは言ってない。……ただ、今の状態に、意味を探さなくていい。意味なんてないんだから」
陽子は少し黙って、それから小さく頷いた。
 
裏手、桃の前。
「誰も見てなくても平気、って桃は言うんでしょ」
「言う」桃は即答した。「でもあなたは、私とは違う」
「なんで」
「私は最初から一人で咲く。あなたは、一人にされた。全然違う」
陽子は顔を上げた。
「じゃあ、どうすればいいの」
「知らない」桃は言った。「でも、女王のふりくらいはしてもいいよ」
 
一番奥、まだ名前も知らない木の前。
小さな実が一つ、足元に落ちた。陽子はそれを拾った。酸っぱい匂いがした。
「あなたは、何も言わないんだね」
「言うよ」木が初めて口を開いた。「どうしたい?」
陽子は黙った。桜にも、梅にも、桃にも、聞かれなかった問いだった。
「分からない」
「今はそれでいい」杏は言った。「実だけ、持って帰りな」

── 第26章 了 ──

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