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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

目次(11 章・いまは第 3 章)
  1. 壁の向こうの少年
  2. 第1章 壁の町
  3. 第2章 髪の長い少年
  4. 第3章 壁の声
  5. 第4章 声が出ない夜
  6. 第5章 旅立ち
  7. 第6章 壁の外
  8. 第7章 夢の村
  9. 第8章 英雄はいない
  10. 第9章 声の正体
  11. 第10章 僕の言葉
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第2章 髪の長い少年

壁の上に立っていたのは、髪の長い少年だった。

月の光の中で、長い髪が風になびいていた。男の子なのか、女の子なのか、遠くからではわからなかった。でも声を聞いて、たぶん男の子だと思った。たぶん。

「やあ。きみも、外が気になるんだろ?」

次の日から、その少年は毎日やってきた。

その少年は、僕が読んだ本を全部読んでいた。そして必ずこう言うんだ。「でもね、壁の外には、もっと面白いものがあるよ」

二人で町じゅうを駆けまわった。市場でめずらしい果物の名前を教えてもらった。「これはコケモモだよ。酸っぱくて、口の中がきゅってなる」。僕はそれを食べてみた。ほんとうに、きゅってなった。

川で、どこまでもぐれるか競争した。水の中は暗くて静かで、心臓の音だけが聞こえた。浮きあがると、その少年が僕より先に水面に出ていて、笑っていた。いつも、少しだけ僕より先にいる。

ある日、丘の上で夕焼けを見ながら、二人で歌をつくった。

「なにを歌う?」
「なんでもいいよ。出鱈目でいい」

ことばは出鱈目だった。意味なんて一つもなかった。でも、歌うと、胸の中の壁が少しだけ低くなる気がした。夕焼けが、壁の上のほうだけ赤く染めていた。壁の向こうも、きっと同じ色なんだろうと思った。

丘の上から町を見下ろして、その少年は言った。

「こんなに小さい世界なのに、みんなずっとここで暮らすんだね」

「きみは、外に行ったことあるの?」

その少年は、笑うだけで答えなかった。夕焼けの光が目に映って、その目が少しだけ濡れているように見えた。たぶん、光のせいだ。

「ねえ、きみの名前は?」

その少年は、首をかしげた。

「名前はないよ。壁のむこうに行ったら、誰かがつけてくれるかもしれないけど」

── 第3章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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