第三章 『オンラインな彼女』
真っ暗な部屋の中に、青白い光がひとつ浮かび上がっている。
男はベッドの上で小さな四角い画面を食い入るように見ていた。
画面の光に照らされた狭い額と丸い鼻梁、
その間には、大きく見開かれたギラギラとした目があった。
「夏美ね、今お風呂上がりなんだ〜」
野太い声には似つかわしくない、 甘ったるい台詞。
男はベッドに横たわりながら画面に話しかけている。
画面では爽やかな好青年が優しく微笑む。
「そうなんだ。風邪引かないようにね」
青年は心配そうな顔を男に向けた。
男はニヤリと笑い、再び野太い声で
「ちょっと、体、見せてあげようか……」
とゆっくりと呟く。
「だめだよ夏美ちゃん。
ちゃんと会って付き合うまでは。
……がまんできなくなってしまうから。」
青年は恥ずかしそうに下を向いた。
男は無精ひげの生えた頬をぷっくりと膨らませ
「裕君にとって、私、かわいくないんだ。」
と怒って見せた。
裕君と呼ばれた青年は微かに右口角を上げた。
「かわいいよ。なっちゃんの大きな目も、
小さな口も、アニメ声も全部かわいい。
大好きだよ」
静かにゆっくりと、諭すように話す。
「私も裕君大好き。だって、ハンサムだもん。
もう恥ずかしい!!
じゃ、私もう寝るね。おやすみ裕君」
男は笑いをかみ殺しながら続けて言った。
裕君は画面の中で手を振った。
男も右手をひらひらさせて、画面を消した。
部屋が真っ暗になり、男の笑い声だけが聞こえる。
「クックックッ、あの男馬鹿だな」
女はスマホを見つめ手を振っている。
壁の一部が開かれ一瞬明るくなると
金髪の男が女の隣に立った。
「何?男っすか」
女は画面を閉じ金髪の男を見て右口角を上げた。
「また悪い顔して。後藤さんって時々そんな顔してますよね。」
女は小さく笑いタバコに火をつけた。
紫煙がゆっくりと吐き出され
闇に溶けていく。
「ちょっとね」
女は意味ありげに呟き、
タバコをかかとで踏み潰した。
「あ。早く戻らないとまた店長怒っちゃいますよ。店忙しくなってきたんで」
男はタバコを咥えながら女を見た。
「はいはい……」
白髪交じりの頭をカリカリとかきながら、
女は店の勝手口から中に入って行った。
少しすえた匂いにタバコの匂いが混じっていた。
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