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literalconnotation ─ なみだの魔法円から現れたのはあたしでした。

連載中(書きかけ)

有城 砂卯

33,329 字

異世界ファンタジー、自己再生の物語

"涙の魔法円から現れたのは、新しい『あたし』だった。これは、傷つき、そして再生する魂の物語。"

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・2/fatale≠lot:呪縛は運否天賦ではない

 悪魔……
 あたしは、ヴィザーゴさんの顔を覗き込んだ。
 
 悪魔ねえ……。
 角も無いし、翼も無いけど。
 どこの宗派の悪魔さんなんだろう。
 にしても、きれいな顔だぜ。
 
「アキラたちのいう、宗教の悪魔とは似て非なるものなんじゃないかな?一番近しいだけだよ」
 そうなんですね。
「じゃあ、人を騙して魂を獲ったりとか、人を誘惑して地獄に引きずり落としたりするの?」
 
「そんな面倒くさいことはしたくないねぇ。わざわざ僕らが出向かなくても、僕たちを必要としてるのは君たちだよ」
 そう言って、ヴィザーゴさんは素敵に微笑む。

「ん?待てよ?ってことはあたし、死んじゃったの?」
「死って、生きてないこと?じゃあ、ここにいるアキラは何?」
 あたしは、自分の手をグーパーグーパーと閉じたり開いたりして眺める。
 ん、動かせる。
 あたしの意思で動かしているから、あたしだ。
 その上でヴィザーゴさんに問いかけた。

「これ、この体。元々のあたしの体がくなったんじゃなくて、別物だよね?」
「よく気がついたね」
「肩に火傷がないからね。あたしの体なら、このくらいの歳にはあったから」
「でも、要らないんでしょ、その傷。だから、作らなかった」
「ふぅん、スゴいね」
「そうかな?まだまだだよ」

 ヴィザーゴさんは、再びあたしの髪の毛を弄り出す。
 なぜ?がないのは、気楽だけどなんかさみしい。
 けど、よくよく考えたら意識は読まれてるようだし、わざわざ言わなくてもいいってことか。
 読まれてるのは記憶だろうか?
 それとも意識?思考?
 ここまで考えても、ヴィザーゴさんは手を止めない。

 じゃあ、これはあたしの一人語りだ。

 ――初めての夜、旦那はあたしの肩を見て停まった。
 
 小学校入学前に、ちょっとした事故で肩に火傷を負った。
 その火傷はケロイドとなって、あたしの肩に貼り付いていた。
 腕は動くし、服を着ていれば見えないし、庇ってくれた父の火傷跡の方が酷かったので、別段気にしてなかった。
 
 小学校でプールの授業が始まるまでは。
 
 かわいそう。
 気持ち悪い。
 感染うつるんじゃないの。
 
 クラスはまことしやかに、そんな話題で盛り上がった。
 病気じゃないのに。
 あたしは気にしてないのに。
 子供の説明は、子供の耳をすり抜ける。
 周りが気にするから、隠すようにした。

 旦那には付き合う時に、ちゃんと言った。
「あたしね、肩に火傷の跡があるんだ。子供の時にやっちゃってね。結構酷いの」
 猿な高校生は、下心でラッピングした口先で、君は君だろう?と言った。
 
 まだ、見てなかったから。

 ようやく動き出した奴は、火傷に口づけた。
 たぶん、キズにキスする漫画でも読んだのだろう。
 もしかすると猿の性欲の方が、勝ってただけなのかも知れない。
 
 その日以来、奴はあたしの肩から、服を脱がすことはなかった。

「随分と心無い伴侶だねぇ」
 ヴィザーゴさんはどこからともなく出した、リボンやら金鎖やらを髪に編み込んでいる。
 いったいどんな出来映えになってるのだろうか。
「見てみる?ルーモ」
 そう言うと、狐さんが鏡を持ってきてくれた。
 そこは魔法じゃないんですね。
「あるものは使うよー。無から作るのは、存外めんどくさいもん」
 ならこのリボンやらどこから出した。
「このくらいならわけないよ」
 くるくると指を回すと、光の帯がリボンに変わる。

 鏡を覗くと、意外にも品良く飾られていて、ぷぷっぴどぅなドレスでも浮いていない。
「センスいいですね」
「そうかな?まだまだだよ」
 いったい、何と比べているんだろう。

 くすっと笑い声を残して、
「兎、食べに行こう」
 と、言い出した。
 いきなりですね。
 にしても、兎とな?!ジビエですか?
 兎さんを食す習慣はないから、躊躇するぞ?
 
 それに、おフランス料理なんて、デートの時……いや、いい。
 たった一回の、結婚前のクリスマスなんて思い出すこともなかろう。
 クリスマスなんて、仕事の日平日だよ。
 くすっと、ヴィザーゴさんの笑い声。
 悪魔なんて言うけど、随分と笑い上戸ですね。
 悪魔だからか?

 待てよ?
「行こうってことは、ここではないのですかね?」
「そうだね。表だね」
「なら!下着が欲しいです!」
「下着?隠すものはつけてないつもりだけど」
 
 ええ。
 なんとなく気付いてますよ。
 股間が人形みたいだってことは。
 でもですね。
「くすっ。習慣ってやつだね」
「よくお分かりで。なんとか出来ますかね?」
 あたしはヴィザーゴさんの顔を見上げた。

 ヴィザーゴさんは、少しだけ考えて、
「ルーモ」
 と呼んだ。
 
 そう言えばだよ?
「この美人狐さんがルーモさん。じゃあ、あっちの白山羊紳士さんは?」
「……美人に、紳士……まぁいいけど。こいつらはルーモヴェーロ。どっちがどっちって訳ではないけど、狐がルーモ。山羊をヴェーロって呼ぶかな?」
 
「ルーモさんに、ヴェーロさんですね!えっと、『アキラ……』」
 と、フルネームを言おうとしたら、指で唇を塞がれた。
「名前も、言わないほうがいいの?」
「だってそれは、アキラの真名でしょう?それに、こいつらはアキラの名を呼ぶことはないよ」
 どういうことだ?
「山羊と狐だからね」
 そういうことか。
 でもさ。
 呼ばない事と、知らない事は別だと思うぞ?

「大丈夫。こいつらは君の名前は知ってるから」
 流暢な『大丈夫』。
 ヴィザーゴさんとルーモヴェーロはテレパシーで共有してるってことだろうか。
「ん。そんなとこかな」
 
 このままヴィザーゴさんの膝にいたら、喋り方を忘れてしまいそうだ。
「読まれる方が怖いものじゃないの?」
「隠すことないもん」
「ふうん……」
 
 イイコすぎたかな?
「いいんじゃない?アキラによく似た人たちも知ってるよ。層が違うから、アキラの方が珍しいけど」
 そう?層とな?
「用意が出来たみたいだよ」

 ヴィザーゴさんの指す方で、ルーモさんがヴェーロさんに布を渡している。
 ヴェーロさんが、ばさっと広げ頭から被る。
 フード付きのケープか。
 ……世紀末救世主伝説みたいだな。

 ルーモさんがあたしに、ちっさい白い布の固まりを渡してくれた。
 ヴィザーゴさんの膝に乗っかったまんま、それを受け取る。
 
 ……話の流れからして、この固まりは、おぱんつだよね。
 ルーモさんのかしら?
「くすっ。ルーモが新しく作ってくれたみたいだよ」
 なんと!
「ルーモさん!ありがとう!」
 ルーモさんは小首を傾げて、笑った気がしたよ?
 可愛いのぉ。

 ……で、早速どこでお着替えしようかなって、辺りを見渡すのだけど、トイレとかどこだろう?
「無いよ、トイレ」
 って、くすくす笑ってやがる。
「ねぇ、ここでつけなよ」
 はああああ?なに言ってんだ?
 ニヤリとするヴィザーゴさん。
 からかってやがる。
 セクハラ親父か。
「せく……?」
 悩んでろ。

 ぱちん、ってルーモヴェーロさんたちが、音を立てた。
 二重奏。
 ふわっと、体が浮いて、ヴィザーゴさんの腕をすり抜けると、試着室みたいな広さの、濃い光の囲いの中に運ばれた。
 
 なんかわかんない言葉のヴィザーゴさんの声が聞こえるけど、なんなんだろうねぇあの人は。

 人目も無くなったことだし、ルーモさんが渡してくれた布を広げる。
 うわっ!布、ちっさっ!
 いわゆる紐パンってやつで……
 
 こんなセクシーな下着、旦那の前でもつけたことないな。
 だからか?
 だからダメなのか?
 ……履こう。

 で、ついでにそっと股間に触れてみた訳だけど、やっぱりなにもない。
 お人形さんの股間。
 ん?でも今からご飯って言ってたよね?
 兎なのは、一旦置いとこう。

 食べたものは何処から出るんだ?
 ……まさか、全て脂肪になるんじゃあるまいな!
 くすっと外から聞こえて、また聞いてやがる、と思った。
 ところで、ここからどうやって出るんでしょう。
 壁に出入り口は無い。

 迷っていたら、ぱちんと音がした。
 きれいに揃った二つの音。
 壁は溶けるように消えたけど、あーやっぱり。
 ヴィザーゴさんは機嫌悪そう。
 
「お待たせしました」
 ご機嫌を取るように、スカートの裾を持ってお辞儀を披露する。
 カーテシーってやつだ。
 知らんけど。
 
 ルーモさんは既にフードをつけていて、お揃いのフードをかけてくれた。
 ルーモさんと、ヴェーロさんとお揃いだ。
 しっかりとした生地なのに、驚くほど軽い。
 
 そんな中、ヴィザーゴさんは一人違う。
 インバネスコート。
 マントかな。
 ええ、お似合いですとも。

 ヴィザーゴさんは、あたしと目が合うと、ふわって笑った。
 なんだろねーこの人は。
「お気に召したかな?」
「履き慣れないからむずむずするけど、すっぽんぽんよりは安心です」
「なら、良かった」

 会話の途中で、あたしはヴェーロさんに抱きかかえられた。
 うおー!高っ!二階席だよ。
 ヴィザーゴさんさえ見下してる。
 否、見下ろしてる。
「どっちでもいいけどね」
 聞こえてるんですよね。
 自重します。

 ヴィザーゴさんがくるっと手を回す。
 空気を掻き回すと、指先が光の波紋を作る。
 指を立て、くるっ、くるっ……三……四……五……長いな。

 ヴィザーゴさんの声がする。
 謳うような、きれいな声。
 
 “声”はちゃんと聞こえているのに、翻訳機は作動してない。
 ラテン語とかなのかしらねえ……?
 ルーンと言えばケルトか?
 ケルトって何語なんだ?
 
 くるっ、くるっ、九……十……
 
 十二回回すと、絨毯から光が立ち上がって、さっきの魔女っ子変身バンクみたいだけど、さっきより“固い”気がする。
 ぱちんと光の壁の中で、音が反響する。
 ルーモさんと、あたしを抱えたヴェーロさん。
 
 ……ヴィザーゴさん、顔が……!!
 と思ったら、くいってヴェーロさんがフードを下げてきた。
 何も見えない。
 見ちゃいけないものなのかな?

「うわっ!」
 って、知らないヒトの声が聞こえて、あたしは地面に立たされた。
「フード取ってもいい?」
「どうぞ」
 ……そこに広がるのは、森だった。

 さっきの声の主は、よたよたと躓きながら、明るい方……きっと森の出口に向かっている。
 ん。
 森って言っても、暗いのよ。
 富士の樹海を思い出させる。
 行ったことはないけど。

 しゅたっ!と風を切るように、ルーモさんが暗い方、ヴェーロさんが明るい方に走る。
 ヴィザーゴさんとあたしは取り残されている。
 
 ふわっと、体が持ち上げられて、今度はヴィザーゴさんがだっこしてる。
 つくづく間近で見ても、きれいな顔だ。
 ヴェーロさんのけもけもも良かったけど。

 ち、また笑われたぜ。
 
「歩かない方がいいのかな?」
「体がくっついてる方が、アキラが何を考えてるのか分かりやすいからね」
「手を繋げばいいのでは?」
「今から行くのはこっち暗い方だよ。面倒じゃない?」
 
 確かに。
 ヴィザーゴさんの長い脚なら、難なく越えられそうな障害物が並んでる。
 今の寸足らずなあたしの体だと、追い付けなさそうだ。
「狩りはあいつらに任せて、僕らは村で待っていよう」
 狩り?現地調達なのか?
 獲りたて即、なのか?
「そういうこと」
 
 ヴィザーゴさんは、くつくつと笑いながら、踊るように歩みを進める。
 義経かね。
「よし……?」
 
「昔いた武将さん。ほぼ垂直な崖を馬で降りたり、海に浮かんだ小舟を鎧姿でぴょんぴょんと跳び跳ねた人」
「それはすごいね。英雄なの?」
「英雄って言ったら英雄かな?悲劇の、だけど」
「アキラの所って面白いね」
「そうかな?だいぶ昔のお話だよ」

 そんな話をしてたら、目的の村に着いたのだろう、ヴィザーゴさんはあたしを下ろしてくれた。
 手は繋いだままなんですね。
 道中は、ちょっとしたアトラクションのようでした。
 樹の枝を掴むために飛んだりとか、絶対要らなかったでしょ。
「そうだねぇ。ヨシツネを真似たかっただけかな」
 そうかよ。

 深い森の奥の、村。
 不思議と光に溢れていて。
 ルーモさんとヴェーロさんが、村の入り口で待ってる。
 って、ルーモさんはこっちに走ったからわかるけど、ヴェーロさんは?いつ追い抜かれた?
 
「ああ、町から舗装された道を通ったんだよ。荷車くらいなら通れる道があるから。でないと、村の人たちも不便でしょ?」
 なら、あの獣道は?!
「道を歩いても面白くないかなって」
 
 おいっ!
 楽しかったけどさっ!
 
 
 
 

── 第3章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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