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重工のメカロニカ

連載中(書きかけ)

赤間世穹

69,848 字

ハードSF・異種族コンタクト

"元素の鼓動と科学の業が交差する、美しくも残酷な鉱石の星のクロニクル。"

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第2番:アーカイブ

 メカロニクス鉱力研究所、それは先人たちがこの地に刻んだ“最初の痕跡”だった。
 先人未踏の地だったこの星は何もかもが手付かずの状態で、まさに彼らにとっては宝箱のようなもの。学者たちはさぞ歓喜したことだろう。
 高い技術を有した彼らは、その場で拠点を作って研究に勤しんだ。研究所は寝床の確保と機械をなくした状態で呼吸が出来るようにする為の建物でもあり、かなりの温度調節も必要とされ、それだけで多くの時間を費やした。
 しかし彼らには野望があった。船は直せばまた飛ぶことが出来るほどの状態であった事もあり長期滞在することを決め、地球では不可能だった研究を存分にする事にした。彼らを止める者はいないのだから。
 研究者にとって他人の倫理観というものは邪魔でしかない。探究心の強い者にとって障害となる、「感情」という曖昧な物で切り分けられるのはどうにも腑に落ちない。地球という神秘の星は人間の巣だ。彼らが統治する限り、探究する者たちにとって最高の科学は実現不可能だろう。だが同時に、地球内でかなり突飛な研究や実験は存在していたのだ。しかし資源にも限度がある。
 この未知の星には地球に存在しえない何かがある。
 研究は鉱力、つまるところ土地や空気の成分の検出をしたり、辺りに浮遊している石や岩などの解析をし、人間にとって有力な道具となり得るのか、はたまた毒物なのかを調べ、有効活用出来そうなものは各々の研究で扱い、実験を繰り返す、ただそれだけだった。
 この場に集まっていたのは宇宙飛行士、医学者、化学者、天文学者、物理学者などで、地球に帰還出来ることを踏まえ、メインミッションの他に各々がやりたい研究を行っていた。
 しかし、しばらく滞在していた時。宇宙飛行士は外へ出ることを躊躇うようになった。
 「おいケビン、もう修理は終わったのか?」
 「……いや、あれは……」
 「ん? 何かあったのか?」
 天文学者は彼の様子を不思議に思い、医学者に話をして共に外へ出て理由を探ることにした。その理由は、船の向こう側にあった。
 船は建物に隣接するように停められ、ケビンという宇宙飛行士が修理を試みていた。そして修理がもうすぐ終わるだろうという頃、殺気のようなものを感じた。そしてそれは今まさにふたりが感じている気配だった。船で視界を遮られていた為、少し歩いて正体を探ったそのとき、見たこともない、がじっとこちらを見据えていた。

  *
 
 セリウムは数あるモニターの前で記録アーカイブを読んでいた。これらの記録は人間たちが遺した物で、完全に記録されていない部分もあるが、AIによって補完され、イメージとして残していた。
 何のために彼らはここにいたのか、そして、何をしてと化してしまったのか。
 じっと画面を睨みつけているとランタンが入室し、声を掛けた。
 「セリウム、調子はどう?」
 「…………」
 「セリウムー」
 セリウムは頭の中で数々の憶測を思考し続けている。ランタンに気付く様子はなかった。
 「……どうやら、あの海生脊椎動物がまた暴れたみたいだよ」
 いつもの様子に溜息をつき、ランタンは続けた。
 「でも研究所や鉱山は無事。エリアCの下層近くの岩盤で二頭が喧嘩しただけみたい」
 「報告は?」
 「まだ。これから」
 「そう」
 淡白に話を区切ると再び熟考し始めたセリウムに「一応話しといただけだから」と言って部屋を出た。
 セリウムはランタンの言葉を反芻させた。
 「……海生脊椎動物が暴れた……か」
 記録には、海生脊椎動物の存在が記されている。医学者が描いたものとされるスケッチはかなり的確だった為、ランタンの望遠能力で時折観察をしてもらっているが、記録にあるような事故は今のところ無い。それはこちらから近付かないという理由もあるが、向こうから危害を加える理由もないということか。
 ニンゲンといい、海生脊椎動物といい、興味深い存在は探究心に火をつけるだけだ。暴きたい、必ずこの手で。

   *

 「パンドラ……それはそう言う意味だ?」
 金はかなり興味を持ったようで前のめりに聞いた。
 「災いの先には希望がある……災い、というのは過去の実験の結果とか、事故とか。災いというには、自分たちの技術を棚に上げて言うようにも感じるけれど……そして、希望と言うのがまさにあの船のこと」
 「ほう。希望の船か、君の船は違うのか?」
 「分からない、ごめんなさい」
 「いや、気にする必要はない。だが、それらは何の為のものだ? 必要だから作ったのだろう?」
 何の為、彼らの疑問は当たり前かもしれない。宇宙船は科学者のロマンだ。しかし実際に作るとするとかなりの技術と知識が必要となり、さらに資源も限られてくる。実験の繰り返し、人間と荷物を乗せて飛ぶまでにはかなりの時間がかかった。それを何の為かと改めて問われると少し思考が鈍る。しかし、ロマンと言う他に、人間の強欲さが関係しているのではないかと考えた。人間は欲に塗れた種族だ。強欲で傲慢なのは綺麗事で着飾っても隠しきれない。そして、科学者は実用性とロマンを天秤にかけて成し得る事にもあり、星を出て更に世界を知りたいと思う強欲さは昔からずっと変わらないことだろう。目の前の元素体エレメンタムたちが理解できるのかは疑問だが、ほんの少し考えると言う。
 「……私たちにとって、宇宙船はロマンの塊だった。昔から宇宙へ出ること、それが力の証明でもあった。これだけの科学を扱えるぞと言う他国への証明、そしてその所為で様々な事故が起きた。それでも諦めきれないのが科学者だ。国なんて関係なく、ただ知りたい、それだけの為に」
 様々な犠牲の上で成り立つのが科学だ。犠牲が出て初めて欠陥に気づくのは遅いが、未来に活かす材料となる。その感覚が理解されるかどうか、はたまたこちらが間違っているのか、それは分からなかった。
 金はそうか、と呟いた。
 「きっと、我々と似ているのだろうな。しかし分からない部分もある。が、今は大した問題ではない。ただ、今は君と同じ科学者として共にいたい。君の知識はより良い糧となるだろう。もちろん、協力してくれるのならその分報酬を渡す。改めて、――我々に協力してくれるか?」
 自分自身の記憶なんて正直どうでもいい。彼らと話すことは何よりも楽しく有意義なもので、更にこの星の知りたい事は山のようにある。言われずとも、共にいたい。
 「もちろん。報酬なんて大袈裟なものはいらない、食事、くらいかな。欲しいのは」
 「ありがとう、友。そして兄弟よ」
 そう言って金は手を差し出し、固い握手を交わした。
 すると鉄が大きな欠伸をした。
 「あ、ごめんごめん。難しい話ばっかで眠くて」
 軽い調子で謝ると、すぐ横でリチウムの腕の中でナトリウムが「すよー」と言いながら眠っていた。
 「僕は面白いと思ったけどな、ドクターの話、聞いたことのない言葉がいっぱい出てきたし」
 リチウムは学者の才能がありそうだと感じた。
 「すまない、だが大事な話でもある」
 「俺も内心わくわくしたよ。今度ちゃんと覚えていること、何でも聞かせて欲しいな」
 白金はそうにこりと微笑んだ。
 「じゃあ、一応話は聞けたからセリウムのところに行ってくるよ」と踵を返し、白金は研究エリアに向かって行った。
 すると、白金とすれ違いに白衣姿の元素体がこちらに向かってきた。
 「良かった、いた」
 「ランタン、どうした?」
 「さっき、いつもの場所で海生脊椎動物を望遠してたんだ。エリアCの下層近くの岩盤で二頭が喧嘩してて、鉱山や研究所は無事だけど暴れてたから報告しようと思って」
 「そうか。何も無かったのなら幸いだな」
 海生脊椎動物が存在するのか、と二人の会話を聞きながら感嘆の声を漏らした。
 「エリアCで暴れてたの? でも分からなかったね」
 「それほどの振動は感知されてないし、分からなくても当然かな」
 リチウムも知っている事情なのか、しかし鉄は変わらず興味なさそうに傍観していた。
 「それって、どう言う生物?」
 少し気になってランタンに聞いてみると、「あ、君がドクターか」と声を漏らす。
 「海生脊椎動物は、かなり巨大な生命体のようで、研究所跡地の近くに棲みついてるんだ。体は曲線を描いてて、推進板が六つあって、長いガラス細工のような臀部がある」
 要するに、巨大なトカゲのようなものだろうか。大昔に存在した海竜の特徴に似ている気がする。それが生身の状態でこの星の中に留まっていると言うのはかなり興味深い。
 「……待って、研究所跡地があるの?」
 口に出したもののすぐに理解した。船があるならそれくらいあるだろう、しかし建物があると言うのは不思議だ。この拠点もそうだが、(憶測だが)天王星型惑星の中に建物が建てられるものなのだろうか。しかし現状、建物があるのだから可能なのだろうが。天王星型惑星という仮説を払拭した方がいいのかもしれない。ここは、本当の意味で未知の星なのだ。

── 第3章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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