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十四を数える

奥井晴弥

21,115 字

政治哲学ファンタジー

"「指の数」が世界を分かつ。効率と美学、割り切れない均衡を巡る三世代の物語。"

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第二章 十四の抑圧

五年後、クレメンスはガリエンに戻った。
外交官の末席。書記官の肩書で、大使に随行した。
父の名前が道を作り、留学の経験が理由を作った。「あの国の空気を知っている者が要る」大使はそう言った。

五年ぶりのガリエンの都は、同じ街だった。通りの幅も、建物の並びも変わっていない。
ガリエンに着いてすぐに目についたのは、手袋だった。
すれ違う市民の一部が、この陽気にもかかわらず手袋をしている。
よく見れば第七指が少し不自然な方向を向いている。
革命の熱狂の中で指を切った者たちは、手袋に「義指」を仕込み、それを隠していた。
あれは狂っていたと、指を切ることを禁じる法令が出ていた。
十二進法の革命は抑圧の季節を迎えていた。
ただ、指を戻す法令は存在しない。切った指が生えることはない。
この国の王にはもう、第七指がない。

クレメンスを驚かせたのは、市場だった。
市場では、誰もが十二で数えていた。十二刻みの度量衡を使い、商品は六個入りあるいは十二個入りになっていた。
人の心は十四の世界に戻ろうとしていた。
だが商人たちは十二を手放そうとしない。
彼らは指を切ってはいない。だが、使っていない。
利を得ようとする者たちは思想とは無縁だ。
背筋に重いものが走った。
──この醜い分割を、この国では「思想」が、ひとたびは、認めたのだ。

ある夜、大使館の宴席でガリエンの貴族と話した。老人だった。七本の指を残していた。革命で切らなかった側の人間だ。
「十四を守ったのですね」
クレメンスが言うと、老人は苦笑した。
「指は守った。だが帳簿は十二で付けている。そうしないともはや、商人たちとは付き合えないのだ」
「あの『指削ぎの祝祭』は狂っていた。それは違いない。だが十二という数の味を、多くの民が知ることになった。それも違いない」

帰国の馬車の中で、クレメンスは考えていた。
ガリエンは十四の世界に戻りつつあるように見えた。だが商人の間に十二は残った、いや、定着した。
それはそうだろう。商人にとって、十二は都合が良い。
自国では、あの「指削ぎ」の恐ろしさが、忌避が、民衆を十四の世界に留め続けている。
だがひとたび十二の門が開けばどうなるか。
クレメンスは両の手を広げ何度も、指折り十四を数え直した。

── 第3章 了 ──

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