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三羽の雀と天使の輪

梓星

11,669 字

連作短編、ファンタジー、現代文学

"三つの物語が紡ぐ、喪失と再生、そして温かい繋がりの円環。"

三羽でひとつの輪を囲めば、寒い夜も温かい。 両親を亡くし、貧しいながらも支え合って暮らす三姉妹。ある夜、彼女たちは怪盗に変身し、憧れのティアラを盗み出そうとする。だが、待ち受けていたのは華麗な冒険とはほど遠い、失敗続きの珍道中だった。一方、ドーナッツの穴の向こうには何があるのか。奇妙な三人が語り合う不思議な怪談。そして、三つの意識を宿した三つ首の竜は、異世界で束の間の共同生活を送る。互いに文句を言いながらも、三人でひとつの身体を分かち合う日々。だが、その平穏は「天使の輪」と呼ばれる恐るべき兵器によって、無残にも打ち砕かれる。 怪盗譚、奇妙な怪談、そして怪獣譚。まるで異なる三つの物語をつなぐのは、輪と、そこに宿る温もりの記憶。 失ったものは、二度と戻らないのか。 それでも、人は誰かと過ごした時間を、何かの形で残すことができるのか。 小さな日常の可笑しさと、思いがけない喪失の痛み。その先に浮かび上がるのは、誰かと生きた記憶を未来へ手渡す、ささやかな物語。

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エピローグ

天使の話(てんしのわ)

 「私は別にいいんだけどさ。カラス・ヒバリって名前やばくね?」。夜勤明けの眠そうな目でツグミが言って、私が笑った。
 そんな話をしたのが半年前。ヒバねえねに持ち上がった再婚話はトントン拍子で決まり、今日ヒバねえねは正式に唐須ひばりになった。ハヤブサ君は唐須隼だ。
 今日からこのアパートにヒバねえねとハヤブサ君はいない。ちょっと寂しくなる。
 唐須さんは深夜に歩道橋の階段から転落して半年近く意識を失っていたというちょっと不安になるような過去がある人だが、そこにスナックでの仕事が帰る途中のヒバねえねが居合わせて救急車を呼んだのが縁だというから世の中どう転ぶか分からない。
 「ヒバねえね、男見る目微妙だからなー。今度こそうまくいくといいんだけど」「真面目で穏やかそうな人だったじゃん。大丈夫よ」
 姉妹で勝手なことを言ったが、何にしろ「ヒバねえねにこれ以上、私たちのママをやらせるわけにはいかない」というのが2人の共通の思いだった。
 そして今日、ごく親しい人だけを集めたレストランウェディングが行われた。白いドレスを着たヒバねえねはとても綺麗だった。私は小さい頃に憧れた遠い国のプリンセスを思い出した。
 「でもさ、唐須さん側の出席者、結構濃いメンツいたよね」
 「なんかヤクザっぽい人?」
 「そうそう。それがちょっと地味でオドオドした感じの女の子と一緒のテーブルだったじゃん。あれ、拉致られたりしてないよね」
 私はまた笑う。そのイメージは分かるが2人は唐須さんと楽しそうに話し、なぜかキングギドラのフィギュアをプレゼントしていた。怪獣映画ファンの繋がりとかそんなのなんだろう。
 フィギュアをもらった唐須さんは苦笑しながら、主役のはずの自分が右側に立ち、女の子が真ん中、ヤクザっぽい人が左側に立って記念写真を撮っていた。
 いつもより少し静かな家の中。今日はもう夕食を作る気力はない。パーティーに来ていたヒバねえねのスナック勤務時代の同僚という女性からもらったドーナッツで済ませてしまおう。
 「エンゼル・リング」と書かれた箱を開けて穴の空いたドーナッツを一つ摘む。いろいろな種類のドーナッツが入っているが全て穴の開いたドーナッツだ。
 「そういえば仕事はどうなの?」
 「んー、忙しい。患者より私が死ぬわ」
 17歳になったツグミは准看護師として働き始めている。中学卒業後に准看護師養成校に行って2年で資格を取得した。こんなルートがあるなんて知らなかったが、ツグミが仲良くしていた同級生の琴理ちゃんが教えてくれた。彼女も今は准看護師だ。
 「明日も夜勤? 明日、久しぶりに雛ちゃんが来るんだけど」
 「えー。雛ちゃん、懐かし。スズねえ、中学のころよく遊んでたよね。まーでも夜勤だわ」
 「3人で仕事の愚痴大会もいいかと思ったんだけど、じゃあまた次だね」
 
 明日はドラッグストアの仕事だ。話を切り上げて、自分の部屋に入る。本やぬいぐるみが置かれた棚に特別な一角がある。今、ここには雑巾とレオタードが置かれている。さっき撮った姉妹3人の写真は現像してここに飾ろう。
 そして。もうすぐ私が書いた本が出版される。どうせ売れるとは思えないが、ささやかな一歩だ。今朝届いた著者見本をこの大切な一角にそっと置いた。私たち姉妹の小さな物語。
 「さんわの すずめと てんしの わっか」。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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