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沈花繚乱

56,592 字

幻想青春群像劇

"境内の木々は知っている。散ってもまた咲く、君たちの物語を。"

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第十章

悔遅拾実 翔太篇二
翔太が来たのは、桜がもう葉桜になった頃だった。
「久しぶり」桜が言った。
「久しぶり」
「今日は、遅くないね」
「時間の事、あんまり気にしなくなった」
桜は少し揺れた。
「美奈子、来たよ。少し前に」
翔太は黙った。
「何か、言ってた」
「言えない。あなたに言うことじゃない」
「そうだよな、最近話してないし」
「聞きたいの」
「聞きたい。でも、聞く資格、俺にはない気がする」
桜は答えなかった。
「あの時、何か言えばよかったって、ずっと思ってる。
でも、何を言えばよかったのか、今でも分からない」

「分からないんじゃなくて」
「分からないんだよ」翔太は言った。「分かったら、終わりと言うことが、
はっきりしちゃうから」
 
梅の前。花はもう跡形もない。
「あの頃『無責任、で合ってる』って言ってたよね」
「言った」
「俺も、無責任だったのかな」
「無責任と優柔不断は、少し違う」梅は言った。「あなたは、決めることから
逃げていた、優柔不断が染み付いている」
裏手、桃の前。
「あなたはいつも、桜のところで止まってた」
「一番派手なところで悩んで、それで満足して帰る。よくあるパターン」
翔太は苦笑した。
「手厳しいな」
「褒めてない。でも、責めてもない」
 
一番奥、杏の前。
「あなた、名前もまだ知らなかった」
杏は答えなかった。実がひとつ、落ちた。
翔太はそれを拾わなかった。
「拾わないの」
「俺には、資格ない気がする」
「資格の話じゃない」杏は言った。「落ちたものは、誰が拾ってもいい」
翔太はしばらく黙って、それから実を拾った。
酸っぱい匂いがした。
「美奈子も、これ拾ったの」
「知らない」杏は言った。「私は、落とすだけだから」
 

── 第34章 了 ──

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