第十三章
決踏心開 望篇二
「視線の片隅で捉えるようにした」
「なにそれ」突然の望のつぶやきに
桜は返した。「何言ってるのか分からない」
梅が言った。「それで何かが変わる?」
「分からない。でも」
桃は、言った。「それって思春期の女子が好きな男の子を視線で追っている、
それと、同じだよね」
「一歩踏み出せないことを、アー、まどろっこしい。ここに来て、杏を一杯食べれば」
桜の言葉に、杏は、素早く実を隠した。
「連れて来ちゃえば」
望は、少し笑った。
笑う自分がいた事を望は久しぶりに思い出していた。
第 十四章
悩道微光
陽子篇三
陽子への無視は、続いていた。
「まだ、終わらないの」
「嫌なら休めば」桜は、ぶっきらぼうに言う。
「ここに来て、害虫獲ってよ」
「流石、自己中の桜」桃が、小さな声でつぶやく。
「モー、こっちは、真剣なんだから」
陽子は言い返すが、少し軽くなってきているのも自分でわかった。
「保健室登校じゃなくて神社登校ね」
「じゃあ、またくる」
杏は思った。「後ちょっとだね」
でも何がちょっと何だろう、自分でも訳が分からなかった。
第 十五章
乱心親心
美奈子篇三
三者面談を行なった。美奈子と父親の紀之、そして進路指導の片岡先生で。
「進路決まった?」
先生は確認する様に聞いてきた。
「はい、東京の大学に行きたいです」
「お父さんもよろしいですか」
「はい、お願いします」
最後の関門が担任である。
「私としては、何をしたいかを決めてもらいたかった。」
「?」
「将来、何になりたいのかを決めてそれから、学部を決めて、、、、」
「まだ、先の事は何も決まっていません。」
「それだったら、地元の国立大学でもイイんじゃない」
「私には行きたい大学はあります。学校推薦を使いたいです」
「何処?」
「◯◯大学です」
「あそこは、指定校の枠は、一つか」
先生は、そう言い、
「今のところ、希望者は一人いる」
「学部指定で」
若干の沈黙、それを破ったのは、父だった。
「先生は十八歳の時、明確に進路を決めてましたか?」
「私は、早い時期から先生になりたくて、教育学部に決めていました。」
「もし、その時、別の決断をしたら、人生変わっていたと、思いませんか?」
「わかりません。特別に悩んだ事もありません。」
私は二歳年上の兄がおり、兄は東京の大学に、私は地元国立大学へ進学しました。
「兄の所へ遊びに行った時の事です。兄の家は郊外のアパートでした。
新宿行った帰り道、兄は時計を見ながら走り出します。「快速に乗ろう」
兄について行って乗車できました。「これで三十分は違う」
「別の時同じ様に友達と新宿で電車に乗りました。ホームの着くと、電車が沢山あり、兄のマネをして、乗り込みました。「これで三十分違う」各駅でした。」
同じ田舎者なのに、経験てこういう事か、そう、思いました。
面談が終わっての帰り道、二人共なにも 喋らなかった。
美奈子は父の横顔を、見ていた。
紀之は視線に気がついていた。
そのまま、 家についた。
「翔太に電話しよう」
電話が繋がるまで、少し間があった。
「もしもし」
「久しぶり」美奈子は言った。「今日、三者面談だった」
「そう」
「東京、多分、決まった。学校推薦で」
「良かったな」
それだけだった。
「翔太は」
「まだ、迷ってる。教育学部にするか、経済にするか。地元に残るかも、まだ決めてない」
「まだ、なんだ」
「まだなんだよ」
美奈子は少し黙った。父の声が、頭の中に残っていた。「何をするか決まっとらんでもいい。でも、流されるな」――迷っていることそのものは、責められていなかった。ただ、迷い方が違う気がした。
「翔太は、迷ってる時、何か考えてる? それとも、ただ迷ってるだけ?」
「どういう意味」
「分かんない。ただ、聞いてみただけ」
電話の向こうで、翔太が黙った。長い沈黙だった。
「考えてない、かもしれない」翔太は言った。「考えてるふりして、ただ時間が過ぎるのを待ってる気がする」
美奈子は、何も言わなかった。
同じ言葉でも印象がまるっきり違っていた。
「頑張って」美奈子は言った。それだけしか、言えなかった。
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