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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

目次(11 章・いまは第 4 章)
  1. 壁の向こうの少年
  2. 第1章 壁の町
  3. 第2章 髪の長い少年
  4. 第3章 壁の声
  5. 第4章 声が出ない夜
  6. 第5章 旅立ち
  7. 第6章 壁の外
  8. 第7章 夢の村
  9. 第8章 英雄はいない
  10. 第9章 声の正体
  11. 第10章 僕の言葉
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第3章 壁の声

この町には、不思議な声がある。

夜になると、どこからか聞こえてくる。やさしい声だ。男でも女でもない、温かい声。毛布にくるまれたような声。

「外はあぶないよ。ここにいなさい。ここにいれば、安心だよ」

みんな、その声を信じている。声は言う。「いつか、すごい英雄が来て、きみたちを助けてくれる。それまで、いい子で待っていなさい」

だからみんな、待っている。何もしないで、ただ待っている。いつ来るかわからない英雄を、毎日毎日、待っている。

でも僕は気づいた。壁の声が聞こえる夜は、胸の中の壁も高くなる。朝起きると、言いたいことがもっと出てこなくなる。声を聞いたあとは、なぜか体が少しだけ重い。指先が冷たい。

髪の長い少年は、ぽつりと言った。

「あの声は、みんなを眠らせる子守歌だよ。やさしいけど——いちばん怖い」

「どうして?」

「やさしい言葉でかこまれると、自分の言葉がいらなくなるから。誰かの言葉で温かくなると、自分の言葉でかじかんだ手をあたためなくても、よくなっちゃうんだ」

僕は、その夜、声が聞こえたとき、初めて耳をふさいだ。

声はやんだ。でも、かわりに静けさが来た。しんとした、底のない静けさ。自分の息の音だけが、やけに大きく聞こえた。

静けさは、声よりも怖かった。

でも、耳をふさいだ手を下ろしたとき、僕の指先は、少しだけ温かかった。

── 第4章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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