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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

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第3章 壁の声

この町には、不思議な声がある。

夜になると、どこからか聞こえてくる。やさしい声だ。男でも女でもない、温かい声。毛布にくるまれたような声。

「外はあぶないよ。ここにいなさい。ここにいれば、安心だよ」

みんな、その声を信じている。声は言う。「いつか、すごい英雄が来て、きみたちを助けてくれる。それまで、いい子で待っていなさい」

だからみんな、待っている。何もしないで、ただ待っている。いつ来るかわからない英雄を、毎日毎日、待っている。

でも僕は気づいた。壁の声が聞こえる夜は、胸の中の壁も高くなる。朝起きると、言いたいことがもっと出てこなくなる。声を聞いたあとは、なぜか体が少しだけ重い。指先が冷たい。

髪の長い少年は、ぽつりと言った。

「あの声は、みんなを眠らせる子守歌だよ。やさしいけど——いちばん怖い」

「どうして?」

「やさしい言葉でかこまれると、自分の言葉がいらなくなるから。誰かの言葉で温かくなると、自分の言葉でかじかんだ手をあたためなくても、よくなっちゃうんだ」

僕は、その夜、声が聞こえたとき、初めて耳をふさいだ。

声はやんだ。でも、かわりに静けさが来た。しんとした、底のない静けさ。自分の息の音だけが、やけに大きく聞こえた。

静けさは、声よりも怖かった。

でも、耳をふさいだ手を下ろしたとき、僕の指先は、少しだけ温かかった。

── 第4章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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