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ベレー帽の探偵

阪奈康太

85,483 字

心理ミステリ、探偵小説、人間ドラマ

"「真実」とは何か。「正義」とは誰のものか。ベレー帽の探偵が、その問いの奥底を覗き込む。"

 真実とはこうも無価値とは思わなかった。  ……ああ、こんにちはどうも。何があったかって?  実は統合失調症の患者にお前は統合失調症だといいましてね?  するとこれが酷く暴れるもので……。ええ、その通りだね?  私の行動は医療プロトコルにも反する愚かな行動だ。正解改善とは程遠い。  失礼失礼。つい王様の耳はロバの耳と叫びたくなってね。まあ少し前提から考えてみよう。  まずもって私たちは完璧な真実とやらにたどり着くことはない。  言葉は取りこぼすし、認識には限界がある。  けれども決して私は近づくことをやめない。時にイカロスのように、時にパンドラのように。  自身に不利益があろうとも、どうしたって好奇心は抑えられない。  ……さて、得て知って、それで満足したいところだが私は探偵という職業についている。  残念ながら私だけが知っていてもどうしようもないのでどうにかコレを商品として機能させなければならないのだ。  であれば、私がかぶる帽子はシャーロックホームズのような鹿討帽だろうか?  ……いいや、ソレを物語のように加工する私にとってはベレー帽こそふさわしいだろう。

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第3話

もし、これが私の趣味であったりプライベートであったなら恥ずかしいことこの上ないだろう。とても耐えられるものではない。だが仕事ならどうか?それに対してプロフェショナルとして私は臨んでいる。

「……今年で22歳でしたよね。」

「本当にやめて、今頑張って自分自身を騙しているんだから」

 助手の容赦ない一言に羞恥心を刺激され悶える。そんな自分を落ち着かせようと、あれこれ言い訳を頭の中で生成して思考を覆い被せているが、どうにもはみ出てきては羞恥心を抑えられない。

「……で、どうなんだ?」

「他の人から見て高校生に見えるかという話ですか?大丈夫ですよ。僕や知人に見られなければバレませんから。まぁもし見られても最近は制服で遊園地に行く成人女性は多いと聞きます。大丈夫ですよ。行き先が高校なことに目を瞑れば。」

「……」

 今どきのブレザーでなくてセーラー服、それに袖を通したのは実に4年ぶりといったところだ。胸元が少しきついがサイズは全体的に合っていて私は背も低いので、まぁバレはしないだろう。

「それで学校に潜入するつもりですか?」

 助手は私の頭のてっぺんからつま先までを何とも言い難い表情で目を通しながら言う。

「それも考えたがその学校の制服は用意できなかっただろう?だから学外の生徒を演じるよ。幸いにも彼は部活で何度か公式試合に出ている。下校時間の校門前で適当に試合でひとめぼれしましたとでもいえば何人かは捕まるだろう。……おいなんだその顔は。」

 終始助手は……なんて顔だろうか。私が初めてチョコミントを食べた時と同じ表情をしている。

「いえ、あまりに想像がつかなくて、その……僕は書類仕事してるので頑張ってください」

「ええ!?君がついてこなかったら誰が警察へ突き出されそうになった私を回収するのさ!」

 なんて薄情な奴だ。私一人で行けと?全く。それでも助手かと問いただしたいものだ。

 そうして、無理矢理助手を引き連れて校門の見えるところまで足を運んだ。といっても女子高校生と並んで歩くには不審が過ぎるので少し離れたところで尾行する形を取っている。
 もうすぐ目的地に着くかと言う頃に助手からメッセージが届いた。
 
『すみません。喫茶店から尾行してきた人物を見失いました』

『了解』
 
 ふむ、となるとあの尾行の人物はおそらく……。高校に侵入しないで正解だったな。
 さて、ちょうど下校時刻だ。部活動の活気のある声が聞こえつつも、それなりに学校から去る生徒も多い。数分物陰から正門を監視しているとちょうどいい二人組が出てきた。集合写真で彼と写っていた女子と同じ顔だ。この手の話は女子の方がいいだろう。彼女ら聞いてみよう。

「あ、あの!」
 
「え?私?」

 声をかけた二人組のうち一人が反応してくれた。少し背の高いスクールカーストで言えば上位に位置してそうな……。まぁ正直に言えば遊んでいそうな子の方だ。

「春の大会で、ここのある選手に一目ぼれして……。その、よかったら取り次いでくれませんか!」

 すると怪訝そうな顔は次第に緩んでいき、完全に恋バナモードへと表情が変わっていく。

「えー!マジ!?だれだれ!?てかその制服ここから一時間ぐらいかかるトコじゃん!ユミって知ってる?ウチの友達なんだけど!」

「あはは……ちょっとわからないかな?」
 
 まずい、今どきの高校生はそんなにも交友範囲が広いのか?バレる前に早く情報を聞き出さなければ……。

「あ、それでね。その男子鳴川圭君って名前なんだけど……」

 その名前を聞いた瞬間彼女らはさっきまではしゃいで居たのが嘘のように黙る。空気が凍るというのはこういうことを言うんだろうか。そしてお連れのお友達がゆっくりとその重い口を開く。

「その、コ、ね?鳴川君でほんとにあってるよね?実はその子、この前その……。自殺しちゃって。」
 
 うーんどういう表情が適切だろうか?自ああ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔とやらか。じゃあそれを真似してみよう。それでいて即座に質問へ移る方がダラダラ引き延ばせずに済むかな?

「え……嘘。どうしてそんな……!?」

「いや、ごめんね?ウチらも詳しくはわかんないんだわ……。」

 ここは感情に乗せて追求してみよう。ある種それの方が自然な筈だ。

「そんな!まさか……いじめられてたとか!?」

 まずは最優先確認事項だ。学校や保護者が確認できてなくとも生徒は意外と見てることが多い。

「いや!……それはないよねぇ?」

 そう隣のお友達に聞くとその子もウンウンっと言った具合に相槌を細かく打っている。強い否定だ……もしかして逆かもしれない?

「もしかして逆?」

「んーいじめって程じゃないけど、結構クラスのインキャをいじってたなぁってイメージが」

「ちょっと葵!」

 何言ってんの!と言わんばかりの勢いで「葵」とやらの言葉を遮る。
 正直さっきの質問は心の声が漏れてしまっただけだがグッジョブ私。そのイジられてた子の名前が聞けたら最高だが……。それさえ知ってしまえばとっとと引き上げられるが……。

「……そうなんですね。ごめんなさい時間取らせちゃって……。」

「ううん。気にしないで!でも珍しいよね今時snsじゃなくてラブレターなんて。」

 ええ?今そんななの?……。まぁsnsだと当人は死んでるので絶対返事来ないから使えないが。……今度スマホの使い方助手に聞いてみるか。
 
 そうしてボロが出る前にとっとと事務所へ戻った。
 帰り道も彼と一緒にいてはいろいろと誤解やら職質やらされるかもしれないので……。まぁこの場合それは割と妥当なのだけど。
 そんなわけで一応は私が離れて後ろからついていく形をとっていた。途中、喫茶店にいた当該人物がつけてきていないか助手はしきりに気にしていたようだったが、少なくとも私から見ては見当たらない。
 そうして戻ってくるなり助手にどうだったかを根掘り葉掘り質問される。まるで親が小学生に今日の学校はどうだったかを聞いているように。

「……なるほど、そのいじめられていた子が犯行に及んだとも考えられますね。」

「10代も半ばの少年少女が?そうなら捜査機関に彼の死を『自殺』と騙せるほどの大天才じゃないか。」

 「しかし、他殺なら、今こうしている間にも……。」

 しばらく考え込んでの解答に対しての即座な否定が癪に障ったのか少しだけ不機嫌そうに、というよりはどこか焦っているように見える。時間的制約、つまりは証拠の消失を恐れてるのだろう。……彼の感情ももっともだな。よし少し強引な手段をとるとしようか。

「……もちろんありとあらゆる可能性は考えないといけない。前提を疑うのは大事だ。彼がいじっていたとされる人物を割り出して接触してみよう。」

「さすがに情報が足りませんよ。非公開のものも多いですし。もう一度その格好で聞き込みします?」

「いいや?今回は探偵業法6条に抵触する。」

「それはどんな内容で?」

「違法行為の禁止」

 某芸人が「探偵さん言われんでも分かってる!」とこの法律に対して言っていたな。肯定しよう。言われなくても分かってる。
 そしてわかって私は犯すのだ。

── 第4章 了 ──

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