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四感の檻

Makoto Yaoi

6,618 字

心理サスペンス・官能小説

"日常に潜む狂気、五感で綴る偏愛の心理サスペンス"

電車の中で、ある青年を見かけたことで男の妄想が始まります。車内という四角い空間の中で、男が自身の狂気じみた妄想に少しずつ囚われていくという物語です。

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第三章 首

いつもの時間、いつもの駅、いつもの車両の、いつもの場所に男は立った。

そして、2つ目の駅に電車が止まった時、彼は男の隣に立ち、黒いリュックを重たげに床へ下ろした。

男は目の端に彼の気配をとらえた。
彼が静かに立っていた。

長い手足を少し持てあまし気味に、つり革を不器用に握っていた。

男は口内に湧き出る唾液をごくりと飲み、ほんの少し視線を右にずらした。
汗を帯びた首筋が目に入る。

そこに、小さな汗の粒が一つ、すっと滑り落ちた。

汗の粒は首筋をなぞるようにすうっと下へ移動し、そのままワイシャツの中へと消えていった。

汗の粒が彼のどのあたりを這っているのか――想像しかけたとき、空調の風が鼻腔をくすぐった。

右側からふっと流れ込んだのは、汗と、シャンプーの匂いが混じった空気だった。

男は誰にも悟られないように、静かに深呼吸した。

口をほんのわずかに開き、鼻と口で深く息を吸った。

しっとりと湿った、わずかに酸味を帯びた匂いが肺の奥へと沈んでいった。
男は、口内に残る匂いを確かめるように、舌で上あごをゆっくりとなぞった。

彼はポケットから飴を取り出し、わずかに開かれた口へ長い指先で飴を滑り込ませた。
黄色い小さな飴玉が、ゆっくりと彼の唇の奥に消えていく。
車窓の向こうに映る彼の唇がかすかに動く。

男は耐えきれず、視線を滑らせた。
口の中で飴玉をコロコロと転がすと、彼は口内にあふれた甘ったるい唾液を飲み下す。
そのたびに喉のふくらみはゆっくりと上下した。

男は彼の中に眠っていた“男”の気配を感じ、つり革を握りしめた。

どくん……どくん……と、男の心臓が音を立てる。

それとともに下腹部がこわばり、つり革を持つ手に汗が滲む。

男は彼が唾液を飲み下すたび、その音がだんだんと大きく聞こえた。
耳に張り付いたその音は全身をざわめかせ、男は彼に触れたいという衝動に吞まれていった。

軽快な着信音が車内に響いた。

彼は慌ててスマホを取り出し、後ろを向き操作し始めた。

短く刈り上げた襟足と、うっすらと血管が浮かぶうなじがむき出しになった。
彼が体勢を変えるたびにうなじに筋が浮く。

そのいやらしくも無防備なうなじに男は息が上がった。

胸の奥にちりちりとした痛みが走った時、彼は振り向き周囲の乗客に頭を下げた。
彼の他人行儀な態度に男は戸惑った。

車内が揺れ、彼と男のつり革を持つ手が軽く触れた。

男は偶然の出来事を必然に塗り替え、
焦点を失った目を細め、ニヤリとした。

── 第4章 了 ──

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