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literalconnotation ─ なみだの魔法円から現れたのはあたしでした。

連載中(書きかけ)

有城 砂卯

33,329 字

異世界ファンタジー、自己再生の物語

"涙の魔法円から現れたのは、新しい『あたし』だった。これは、傷つき、そして再生する魂の物語。"

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・3/lot≠fatum:運否天賦は不可避ではない

「メティイーストにようこそ!」

 と、満面の笑みで迎えてくれた青年の顔が、ヴィザーゴさんを認識したとたんに、げって顔になる。
 いや、「げっ」って言った。
 金髪で褐色肌の上品そうな顔して、「げっ」って、何をしたんだ?ヴィザーゴさん。

「失礼だよねぇ……この子に靴が欲しいのだけど」
 って、ヴィザーゴさんはクスクス笑っている。
 
 あたしはヴィザーゴさんにだっこされていた。
 歩こうとしたら、靴を履いていないことに気がついたのだよ。
 そしたら、ヴィザーゴさんは当たり前にだっこするわけだ。
 ついでに、あたしの耳に石を付けた。
 一瞬、ちくんとする。
 ピアス?
「真珠だよ。御守り……アムレート兼、翻訳機だね」
 それはありがたいけど、付ける前に一言欲しいです。
 女の子の体に、傷を付けたんだぞ?
「……あぁ、それでか。落とさなくていいと思ったんだけどね」
 ヴィザーゴさんの親切って、なんか変。
 

「あんたの、子供か?」
「僕が作ったんだ。どう?」
「……はあぁ?」
 おっきなため息。
 ヴィザーゴさんよぉ?僕が作ったって、色々誤解されやしないかね?
「そお?あ、この子はアキラ。こっちはフォルティオ」
「ここの領主をやってるフォルティオだよ。何で裸足なの?拐かされた?」
 物騒な物言いですね。
 
「ほんとだよねー」
「自分のやったこと、胸に手を当てて考えろ」
 って、フォルティオさんの言葉に、ヴィザーゴさんは考えてるけど、思い付かないみたい。
「もういい!」
 って、ルーモさんの方へ行っちゃった。
 靴は?!
 それにしても、ヴィザーゴさんは何をしたんだ?
「sustentatioなんだけどねぇ」
 メンテナンス?何のだろう?

 フォルティオさんは、ルーモさんから兎を受け取っている。
 なんだか嬉しそうだなあ。
 恋する青年のようだ。
「全く、健気だよねー」
 健気とな?
 兎に対してか?ルーモさんに対してか?
「ルーモに対してだよ」
 ふうん、そうなんだ。

 フォルティオさんはヴェーロさんより少しだけ身長が低いけど、充分しっかりしたガタイをしておられる。
 褐色肌に、金髪ってファンタジーだなー。
 ……ここは、異世界ってことなのかね?
 夢にしては、ストーリーがすごいな。
 やっぱ、痛いし現実なのかね?
 
 フォルティオさんの金髪を見てると、旦那が陽に焼け過ぎて、真っ黒い肌に帽子からはみ出た髪だけ栗色になってた時が頭を過った。
 そんなになるまで練習してたのにレギュラー入りしなかったんだから、猿の末路だ、ざまぁみろ。

「アキラはよっぽど、伴侶のことを慈しんでいたんだねぇ」
「そうかな?そうだね。付き合いも入れたら十年だもん。十年は長いよ」
「十年ねぇ。僕には瞬きの間だけれども」
 一体いくつなの?!ヴィザーゴさん。
 
「Nescire quaedam magna pars sapientiae est.だよ。そうだなアキラの言葉ピタキウムなら……」
 コツンと額を、あたしの頭に寄せる。
「“知らぬがホトケ”かな?」
 そうですか、言いたくないんですね。

「フォルティオ!いつまで村の入り口で、止まってるんだ?新しいお客なら……げっ!」
 今度は、フォルティオさんとは対照的な白――と言っても、ヴィザーゴさんに比べたら全然健康的な、白い肌に黒髪の青年が現れた。
「やあ、カヴァリーロ。元気そうだな」
「おまえの顔を見るまでな!」
 ヴィザーゴさん……?
 
 しかし、この村はなんですか?
 美形製造の聖地なのかな?
「生け贄は獲らないって言ってたじゃないか!!嘘吐いたのか?!」
 って、あたしを見て捲し立てる。
 ヴィザーゴさんの信頼関係って。
 生け贄って、あたしのことかな?

「ひどいよね。僕が猛獣か何かみたい。僕が作ったんだ、いいでしょ?」
「作っ……は?」
 だから、絶対誤解されるって。
「作ったって!人間を孕ませたのか?!」
 ほら。
「孕ませなくても作れるよ?知ってるくせに」
 と、ヴィザーゴさんはあたしの耳朶を触った。
「あ……あ……それ!もしかして」
 って、真っ赤になってる。
 
「くくっ。そんなことはどうでもいいから、靴屋案内してよ。ルーモヴェーロはフォルティオと一緒に戻ってて」
「お前の家じゃないだろう!」
 カヴァリーロさん……ヴィザーゴさんに熱くなっても、糠に釘ですよ。
 
「ヌカ?……Surdo fabulam narras.か。アキラは言葉をよく知ってるねぇ」
 いや、ヴィザーゴさんの言葉が全然理解出来てませんから、嘘っぽいです、それ。
「嘘?そんなつまんない嘘は吐かないよ。人じゃあるまいし」
 へえ……。

 カヴァリーロさんの案内でやってきたのは、普通のお家だった。
 と、言ってもファンタジー風味の。
 看板がないから、案内がないとわからないね。
 
「シュベンデオ、お客様だぞ」
 カヴァリーロさんが声をかけると、優しそうなおじさんが出てきた。
「おや?珍しいねえ。ビエスさんも久々じゃないか」
 
 ん?ヴィザーゴさんはここではビエスさんなんですか?
「そう言ってたねえ」
 前提は共有しときましょうよ。
『名前』の制約みたいなものなのかな?
「ここでは、ビエスって言ってただけだよ」
 そうですか。

 あたしは、ヴィザーゴさんの腕から下ろされて、丸いスツールに移された。
 シュベンデオさんは、紙の上にあたしの足を乗せると、ペンで型を取って、ノギスみたいので、あちこちを測りだした。
 結構細かく採寸しますね。
 てか、フルオーダーってやつになるんじゃないですか!!
 シュベンデオさん、木型に細工しだしたよ!

 成人のお祝いに、両親からスーツを仕立ててもらった時でも、パンプスに細かい中敷きを入れる調整で、それでも結構なお値段がしたのに!フルオーダーですと?
 そりゃ、調整だけでも、履きやすくて、何より疲れないものでしたが。

 それが!今回は木型を弄ってますよ。
 完成するまで何日か、かかるからって有り物の靴を調整してもらった。
 これでも十分ですが?
「折角だから、拵えようよ」
 
 靴が出来るまで、滞在するのでしょうか?
 
にしても、
「お高いでしょう?お代が払えないよ?」
 ただでさえ、すっぽんぽんの一文無しだ。
「ルーモヴェーロがたくさんの交換品を仕入れてきたから、それで足りる筈だよ。なんだったらヴェーロに馴鹿でも獲ってこさせればいい」

「革から仕込むとか、そんな長期滞在はさせないぞ。シュベンデオ、有り物の革で最短いつ出来る」
 カヴァリーロさんが捲し立てる。
 ヴィザーゴさぁん、なにをしたらここまで怒らせるのよ。
 
 物々交換なのはわかったけど。
 んー……でもなんか、あたしが返せてないから居心地悪いな。
「アキラは善良だねぇ……」
 
 商売ってそういうものだと思うのだけど?
「今は甘えておきなさい。僕の準備不足なんだから。それとも、得意の舞いでも披露するかい?」
 あの時の小躍りのことだな。
 ちっ。

 シュベンデオさんのお家を後にして、カヴァリーロさんのお宅へ向かうらしい。
 が。
 カヴァリーロさんには、歓迎の色が見えない。
「慣例だから泊めはする。が、くれぐれも前みたいなことはするなよ」
 って、何度もヴィザーゴさんに、釘を刺している。
 
 それ、逆効果な気もするけど。
「カヴァリーロだけはした方がいいんじゃない?なんか、溜まってそうだよ?」
「おまえのせいだろう!」
「遠慮しなくていいのに」
 ……もしかして仲良しさんなのかな?

「カヴァリーロ!お帰りなさい……って、げっ!」
 
 領主の館から出てきた、すごいきれいなお姉さんの口からも、げっと言わせるのか、ヴィザーゴさん……
 
「ルーモたちが来たから、居るとは思ったけど、……居るのね」
 ルーモさんたちは良いんだ。
 ……なんか、わかる気はする。

「フォルティオが先に帰ってきただろう?ビエスの事は何も言ってなかった?フィリーノ」
「フォルティオはルーモと厨房だもの」
「……ああ」
 フォルティオさんは、ルーモさんにだいぶお熱ということなんでしょうか?

「ご機嫌麗しゅう。フィリーノ嬢」
 ヴィザーゴさんが恭しくフィリーノさんの手を取ろうとして、カヴァリーロさんに阻止されてた。
「……麗しいわけないでしょう?娘はまだ五つよ。早くない?」
「そっちの用じゃないよ。今回は食事に来ただけだよ」
 
「本当でしょうね?」
「カミに誓って」
「嘘じゃない」
 悪魔がカミに誓うってなんだよ。
 て、いうかフィリーノさんたちもヴィザーゴさんを悪魔と認識してるって事なのかな?
 
 ……あ、フィリーノさんの視線が、あたしに向いてる。
「カヴァリーロ!チャルマを隠して!」
 何をした……三度繰り返すのは、物事のセオリーだけど、見事だな。
 ある意味、信用が厚いぞ?

 しゃらん、ってきれいな音がする。
 あ、フィリーノさんのピアスから聴こえるのか。
 フィリーノさんのピアスに見入っていたら、向こうもあたしの耳を凝視している。
 きれいな顔を思いっきり顰めて、食い入るように見てますけど?
 
「ビエス……この子の、この耳のって……まさか……」
「そうだよぉ。流石だねえ。可愛いでしょ?」
「悪趣味っ!」
 えっ?見た目はこんなですが、中身はフィリーノさんとあまり変わらない年齢だと思いますよ。
 ピアスひとつでそんな。

「ああ、ごめんなさい。私はフィリーノ。この村の領主、フォルティオの妹で手伝いをしてるの。あなたは?」
「えっとお。アキラ……です」
 で、いいんだよね?と、ヴィザーゴさんの顔を見ると、頷いた。
 
「僕が作ったんだ、どう?」
 だーかーらー!!フィリーノさん、固まってしまわれました。

 それから通された部屋は、ヴィザーゴさんに会った部屋に似てる気がした。
 まあ、あっちの方が豪奢ではあるんだけど。
「この村で作られた家具だからじゃない?」
 へぇ……この村って、何でも作るんだな。
 
 で、あたしは相も変わらず、ヴィザーゴさんの膝の上にいる。
 さびしんぼさんなのかな?
「アキラの思考って、ぐるぐるしてて面白いから」
 
 そうですか。
 そうでしょうよ。
 夢か現か、まだ判断しかねてますからね。
「ここまで来て?」
 
 ここまで来たからですよ。
 こんな、ザ異世界ファンタジーを、現実だ!って認められるほど、ラノベ脳では無い筈だ。

「厨房に行ってみようか」
 何故に?
「フォルティオとルーモをからかいに」
 悪趣味極まれり、じゃないですか?
 馬に蹴られますよ?
「アキラのproverbiumは多種多様だね。次々に出てくる。なんで馬に蹴られるの?」
 
 ん?諺ってことかな?
「人の恋路を邪魔する野暮なやつは、馬にでも蹴られてしまえって言うんですよ……あれ?都々逸だったかな?」
「どど……?」
「定番のいいまわしってことです」

 カヴァリーロさんとフィリーノさんには、ここから出るなって言われてたんだけど、まあ、ヴィザーゴさんにはどこ吹く風、なわけだ。
 言葉尻を拾っては吹き出してるヴィザーゴさんには、定番の言い回しということでお茶を濁すことにした。
 ……お茶を濁すってぇ!
 誤魔化すことですよ。
「誤魔化されてるの?僕」
 そうです!

 厨房では仲睦まじく、ルーモさんとフォルティオさんが調理している。
 ガス台じゃないんだ。
 薪を使う、竈。
 んー。ファンタジーだねぇ。

 ヴェーロさん、石臼でごぉりごぉりとなにかを擂り潰しておられる。
 魔女の毒薬作りの場面かな?
 相変わらず、もぐもぐと口は動いていてつまみ食いでもしてるみたいだ。
 って、ここまでは笑えたんだけど。

 俎板に乗った兎さんが……いや、兎さんだったものが目に入ってしまった。
 予想以上のスプラッタに、息が止まる。

 開かれた、腹。
 血の臭い。
 見たことの無い、赤黒いモノ。
 
 ぐっと胃が詰まる。
 やばい、吐く。
 と、思ったけど。
 思ったんだけど。
 
 けど、気付いてしまった。
 いつまでも、喉が熱くならない。
 胃液が、上がってきてない。

 そうか。
 排泄器官が無いってことは、消化しないってことなんだ。

 やっと繋がったあたしのポンコツ組織。

 そうか。
 これ、夢じゃないんじゃない?

 

 
 

── 第4章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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