4・ 人日
「うちのヘタレ息子がホントにヘタレで。
弥依ちゃん、落ち込んでると思うから、慰めてあげてね」
と、祥華さんから連絡があったのは、お昼ごろだった。
み、弥依ちゃん……勢雄さんを押し倒したの?!
そんな行動力を秘めていたなんて……流石、お母さんの娘だわ。
案の定、お泊まりから帰ってきた弥依ちゃんは、いつものように「ただいま」と帰ってきたけれど、明らかに元気がなかった。
お父さんから軽く注意されて、小さくなって。
「ごめんなさい」と小さく言って。
「嫁入り前なんだから、気を付けろよ」
お父さん、それ以上言えなくなってた。
ん。
お父さん、よく我慢した。
褒めて使わす。
夕飯を済ませ、片付けもそぞろに自分の部屋へ引っ込んでしまった弥依ちゃん。
出しゃばり過ぎかしら?と一旦は躊躇するものの、母の仮面で蓋をする。
母ですもの、心配して何が悪い!
「弥依ちゃん?入るわよ?」
「……お母さん」
「どうしたの?具合悪い?お酒、美味しくなかった?」
と聞くと、首を振る。
「美味しかった……と思う。祥華さんの作るものに不味いものはない……と思う」
ぽつりぽつりと口にする。
「……!そう言えば!お母さん!勢雄さんと連絡先交換してたんですって?!」
「だって、長年の推しが目の前にいるのよ?しかも、親の立場を利用できるのよ?良識の範囲でフル活用するわよっ!」
「ま、いいけど。もしかして、チケットって……」
「勢雄さんが送ってくれてた」
「バイトは?」
「勢雄さんに頼んだ」
「……ま、いっか」
こんな時、怒れないのが弥依ちゃんよね。
やりすぎたのかな?
「ごめんね」
と、頭を撫でると、スイッチが入ったみたいに泣き出した。
「……なに、それ」
と、必死で笑おうとする痛々しい姿。
もういいよ。
からかいすぎたね。
「ごめんね」
弥依ちゃんを抱き締めると、堰を切ったように声を堪えて泣き出した。
◇
「なーに、やってんだか」
「……るせ」
「なんで、そこでカッコつけるかな?」
「いくらでもあるだろ、まず、年齢差。
俺はアイツの親父さんより上なんだぜ?」
「そんなの、どこにでもないかも知れないけど、あるところにはあるじゃない」
「……中途半端に顔が知れてる俺なんざ、アイツの重荷にこそなれ、良いことなんか無いさ」
「例えば?」
「姑の介護……っ痛!」
「あんたの方が先かも知れないでしょ!」
不貞腐れるみたいに黙っている息子に、昨日とは違うちゃんとアルコールの入ったグラスを差し出す。
からからと氷の音だけさせて。
「弥依ちゃん、いいこだったね」
「──ああ、そうだな」
からから。
からから。
「あんなにキレイになって。惜しい?」
「──ああ、そうだな」
からから。
窓に映った蒼い月。
グラスに浮かべて燻らせる。
ゆら……ゆら……
から、から。
「……おや?財布でも落としたかい?
全く、大事にしすぎて仕舞い込んで無くしてりゃ世話無いよ。
ねえ?大切だった?」
「……ん、大切だ」
───グラスの中のおつきさまには手が届いて、
だけど、滲んで霞んで──
俺は勢いをつけて、
……飲み下した。
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