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Oración──恒常性同化作用が導く不条理な終着点

有城 砂卯

11,265 字

現代ロマンス、ライトコメディ

"推しとの出会いは、不条理な運命のいたずら。甘く、時に切ない、大人の恋のプレリュード。"

入院先で“長年の推し声優”勢雄祥匡(せお よしまさ)と出会った高校生・杉田弥依(すぎた みい)。 偶然を祈りと錯覚しながらも、彼女は「推し」を“人”として見つめはじめる。 やがて大学生となった弥依は、勢雄の母・祥華の喫茶店で働くことに。 再会、距離、そして「大切なだけじゃ、ダメか?」の夜──。 これは恋の成就ではなく、“憧憬を現実に還す”までの物語。 母から娘へ、推しからファンへ、そして人から人へ。 誰かを想う気持ちが、恒常性を取り戻すまでの四季の記録。

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4・ 人日

「うちのヘタレ息子がホントにヘタレで。
 弥依ちゃん、落ち込んでると思うから、慰めてあげてね」
 と、祥華さんから連絡があったのは、お昼ごろだった。
 み、弥依ちゃん……勢雄さんを押し倒したの?!
 そんな行動力を秘めていたなんて……流石、お母さんの娘だわ。
 
 
 案の定、お泊まりから帰ってきた弥依ちゃんは、いつものように「ただいま」と帰ってきたけれど、明らかに元気がなかった。

 お父さんから軽く注意されて、小さくなって。
「ごめんなさい」と小さく言って。
「嫁入り前なんだから、気を付けろよ」
 お父さん、それ以上言えなくなってた。

 ん。
 お父さん、よく我慢した。
 褒めて使わす。

 夕飯を済ませ、片付けもそぞろに自分の部屋へ引っ込んでしまった弥依ちゃん。
 出しゃばり過ぎかしら?と一旦は躊躇するものの、母の仮面で蓋をする。
 母ですもの、心配して何が悪い!

「弥依ちゃん?入るわよ?」
「……お母さん」
「どうしたの?具合悪い?お酒、美味しくなかった?」
 と聞くと、首を振る。
「美味しかった……と思う。祥華さんの作るものに不味いものはない……と思う」
 ぽつりぽつりと口にする。

「……!そう言えば!お母さん!勢雄さんと連絡先交換してたんですって?!」
「だって、長年の推しが目の前にいるのよ?しかも、親の立場を利用できるのよ?良識の範囲でフル活用するわよっ!」
 
「ま、いいけど。もしかして、チケットって……」
「勢雄さんが送ってくれてた」
「バイトは?」
「勢雄さんに頼んだ」
「……ま、いっか」
 
 こんな時、怒れないのが弥依ちゃんよね。
 やりすぎたのかな?
 
「ごめんね」
 と、頭を撫でると、スイッチが入ったみたいに泣き出した。
「……なに、それ」
 と、必死で笑おうとする痛々しい姿。
 もういいよ。
 からかいすぎたね。
 
「ごめんね」
 弥依ちゃんを抱き締めると、堰を切ったように声を堪えて泣き出した。

 ◇

「なーに、やってんだか」
 
「……るせ」 
「なんで、そこでカッコつけるかな?」
 
「いくらでもあるだろ、まず、年齢差。
 俺はアイツの親父さんより上なんだぜ?」
「そんなの、どこにでもないかも知れないけど、あるところにはあるじゃない」
 
「……中途半端に顔が知れてる俺なんざ、アイツの重荷にこそなれ、良いことなんか無いさ」
「例えば?」
 
「姑の介護……っ痛!」
「あんたの方が先かも知れないでしょ!」

 不貞腐れるみたいに黙っている息子に、昨日とは違うちゃんとアルコールの入ったグラスを差し出す。
 
 からからと氷の音だけさせて。
 
「弥依ちゃん、いいこだったね」
「──ああ、そうだな」

 からから。
 からから。
 
「あんなにキレイになって。惜しい?」
「──ああ、そうだな」

 からから。

窓に映った蒼い月。
  グラスに浮かべて燻らせる。
 ゆら……ゆら……
   から、から。
 

「……おや?財布でも落としたかい?
 全く、大事にしすぎて仕舞い込んで無くしてりゃ世話無いよ。
 ねえ?大切だった?」
 
「……ん、大切だ」
 

 ───グラスの中のおつきさまには手が届いて、
 だけど、滲んで霞んで──

 俺は勢いをつけて、
 ……飲み下した。
 
 

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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