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PLANET LAND - 彗星から惑星へ -

305,817 字

青春群像劇、家族の物語、成長譚

"彗星のように駆け抜けた日々から、自らの重力で輝く惑星へ。これは、出会いと別れを繰り返し、居場所を見つける若者たちの物語。"

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第4話 梨夏襲来

 その夜。

 それぞれの自宅やバイト先で、スマホの画面が光っていた。
 杏奈がPDFを送った瞬間、グループチャットが跳ねる。

【よろしく〜てか、すげえよ】

【台本、すごいで杏奈ちゃん】

【いや待って、ホンマにレベル高いって】

【あのローストビーフのくだり、やばくない?】

【頼りにしてるよ、よろしくね】

 通知が止まらない。
 スタンプ、拍手、炎、キラキラ。

 杏奈は下宿のベッドの上で膝を抱え、流れていく文字を見つめていた。

 皆の反応で、またしても逃げ出した時のような、戸惑いが生まれた。
 恐怖と言っても良い。
 しかし、同時に、帰宅して手をついて泣いてしまった時。
 あの時以上の嬉しさが込み上げる。
 それが、戸惑いも、恐怖をも弾き出すほど杏奈の胸に膨らんで行った。

【こちらこそ、よろしくお願いします。】

【まだ未熟ですが、一緒にやらせてください。】

 すぐに既読が並ぶ。

 画面の向こうで、誰かがまたスタンプを押した。
 その熱の中で、聡志はそっと別窓を開く。

 宮坂の個別メッセージだった。

【あのさ、ゆうま。とりま明日、学生課いってくんね?】

【いま企画書書いてるよ】

【さすが、仕事早くて助かる】

 それぞれが別の場所にいるはずなのに。
 画面の中の熱気が、昼間の学生会館の雰囲気をそのまま匂わせていた。

 数日後の昼、杏奈のスマホが震えた。
 宮坂からの一斉送信メッセージだ。

【オープンキャンパスの出し物、15分枠】

【多目的室取れたよ】

 既読がつくと、メッセージが一斉に溢れた。

【え?オープンキャンパス?】

【高校生に見せるやつね】

 最後に聡志から、

【ゆうま、さすが!】

 杏奈は画面を見つめたまま、静かに息を吸った。

 オープンキャンパス。
 高校生たちが、未来を探しに来る場所。
 そこで、自分の詩が演じられる。

【15分か…ちょうどいいな】

【役は?女の子二人、両親、語りやな?】

【母親と子供の片方で、二役できるね】

【ほな、ミナがお姉ちゃんとママ二役、ウチが妹ちゃん役でええかな?】

【オッケー】

【父親が俺で、海斗語り頼む】

【まかしとけ】

【照明はまたレンタルで】

【音響は、多目的室だから抑えめだね】

 決まるや否や、皆のメッセージに熱がこもってきた。
 着々と決まって行く段取り。
 杏奈はしばらく呆然と眺めていたが、ふと我に返る。

【私は何をしたら?】

 聡志が続ける。

【今回は裏方でゆうまを手伝って】

【実際どんな感じか、掴んでくれたらいいから】

【わかりました。よろしくお願いします】

 杏奈は、思わず喉を鳴らした。
 初めての経験、初めての舞台。
 それが、どのようなものになるのか。
 この時の杏奈には、一切想像ができなかった。

 多目的室のステージ。
 蛍光灯の下、床にテープで立ち位置が貼られていく。
 宮坂が杏奈に状況を説明しながら。

「うん、そこがテーブル位置ね、父はここから入ってくるから」

 聡志の声が飛ぶ。

「フライパン振る動き、もう少し大きくする?」

「うん、しっかり伝わるようにね」

 宮坂が、役を演じる彼らに的確に指示を伝えていた。

 やがて、稽古が始まった。
 ミナが、皿を置く仕草を何度も繰り返す。
 指先の角度を変え、歩幅を変え、呼吸を変えていた。

 そっと置かれた、見えない皿。
 峯岸が語りを入れる。

「父は、皿の隙間を埋める」

 その声に合わせて、聡志が、不器用に盛り付ける仕草。

「母は違う、余白を残す」

 ミナが落ちついて、繊細に盛り付ける所作。

 杏奈の胸が鳴った。
 自分の詩の中の人物たちが、彼らの姿になって動いている。

「う〜ん!おいっしぃー!何枚でも食べれちゃう」

 無邪気に声を出すユズ、すると突然。

「杏奈ちゃん、今のどやった?」
「詩の女の子の感じ、でとった?」

 突然のことに、驚く杏奈。

「はい……凄いです、バッチリです」

 すると、ユズは明るく両手を上げた。

「やったー、作者に褒められた〜!」

「……杏奈ちゃん、ホントの事言っていいんだよ」

 苦笑いするミナの一言が、その場の笑いを誘った。

 稽古が終わり。
 がらんとした多目的室。
 舞台に立ってみた杏奈が、客席側を見渡す。

 ここに、高校生たちが座り、自分の詩の舞台が演じられる。
 この時の杏奈の胸は、期待だけが踊っていた。

 オープンキャンパス当日。

 席はほぼ埋まっている。
 高校生たちが、パンフレットを膝に置き、舞台を見上げていた。
 中には保護者と一緒の者もいる。

 思っていたより、ずっと多い。
 杏奈は舞台袖で台本を胸に抱えた。
 緊張で汗ばむ掌。

 照明が落ち、宮坂が小さく合図を送ると、峯岸が深く息を吸い込み、マイクに向かった。

「皆様、本日はオープンキャンパスにお越し頂き、ありがとうございます」
「これより、私達、六星大学演劇サークルの舞台『ローストビーフの詩』を、ごゆっくりお楽しみください」

 いつもより、低く落ち着いた声。
 会場の緊張が、ゆっくりと解けて行く。
 照明が舞台を照らすと、初めに聡志が現れた。

 ワイシャツにエプロン姿。
 コンロに見立てた長テーブルで、フライパンをふる姿。

 じゅう。

 という、食材が焼ける効果音に合わせて、木べらでフライパンの中身を整え、脇のまな板に向かい、食材を切る。
 その動きに、客席は言葉を失う。
 視線が舞台に集まって行った。

「父の料理は、とても、美味しい……」

 峯岸によって、杏奈の詩が朗読されて行く。
 一言が落ちる度に、多目的室が、洋食レストランの空気に変わっていった。

 聡志を見つめる杏奈。

「お父さんが……おる」

 今度はミナが皿の盛り付けを始めた。
 繊細で、器用な手つき。

「……これで、よし」

 頷くミナ。
 皿を取り、その場から歩み始めると、舞台の前の簡易カーテンが閉じられる。

「さあ、田澤さん、行くよ」

「……は、はい」

 宮坂の声に我に返った杏奈。
 舞台に駆け上がり。
 今度は食堂のテーブルと椅子を、宮坂と聡志と一緒に設置した。

 そこに、ユズが腰をかけて、杏奈にニコッとウインクを送る。
 その間も、峯岸の朗読が続き、観客は食堂の世界の中に浸ったままだ。

 自分の中にあった世界が、今、確かに現実に存在していた。
 カーテンが開く。

「お待たせ〜」

 ミナがテーブルに皿を置き、その場を通り過ぎて、背景のボードの裏に。

「杏奈ちゃん……」

 呼びながら、立ち止まらずエプロンとワイシャツを外すと、杏奈がそれを引く。
 少女のようなTシャツ姿に変わった。

「ありがと」

 杏奈に微笑むと、すぐまた舞台表に戻る。

「うわ〜ローストビーフ!」

「お姉ちゃん、はやく食べようよ〜」

 ミナとユズが食卓を囲み、幸せそうに食事を始めた。
 聡志が食卓のそばに現れて、微笑みながら腕組みをして、二人を見つめていた。

 やがて、物語が終盤になり照明が抑えられた。
 峯岸の語りが止まり、言葉は舞台の人物達に預けられる。
 ミナが暗い顔になる。

「でも、しばらく、食べられなくなるね……」

 ユズが目線を下げた。
 すると、聡志はまた顔を崩す。

「大丈夫、夏休みに帰ってきたら、作ってあげるから」

「……必ず、作ってあげるから」

 ミナとユズが目を合わせて頷きあうと、立ち上がって客席に向き合った。
 最初は二人声を揃えて。

「だから、頑張る」

 ミナが。

「私は私のやるべきことを」

 次にユズ。

「私は私のために」

 最後に二人揃って。

「それが、私が私でいる……理由だから」

 聡志、ミナ、ユズ。
 三人が並んで客席に一礼すると、客席から拍手が湧き起こる。
 しばし身を委ね、聡志が顔を上げて両手を広げた。

「皆さん!来年は是非!この六星大で、一緒にやりましょう!」

 ユズが両手を振る。

「待ってま〜す!」

 ミナが、少し照れた笑いを浮かべて続ける。

「受験勉強、頑張ってくださいね〜!」

 三人が声をそろえ。

「六星大、演劇サークルでした!」

 拍手の音が波みたいに押し寄せてきた。
 立ち上がって拍手をする人もいる。
 前列では、演目の内容に、抱き合って泣いている親子がいた。

 杏奈は舞台袖で、呆然とするしかなかった。
 自分の言葉が、こんなふうに人を動かすなんて、現実味がない。

「私の…」
「私の詩が」
「私の詩がこんなに…」

 杏奈は拍手に応えるステージの三人を見つめた。

「皆さんの、おかげです」

 深々とお辞儀する。
 そこへ宮坂が、肩を並べるように現れた。

「聡志、すごいでしょ」

 杏奈は、目元をぬぐう暇もなく頷く。

「はい。あのチャップリンもだけど……今日は、お父さんに見えました」

「彼の表現力はハンパないからね。でも」

「でも?」

「今回は、君の詩を台無しにしないか、珍しく緊張してたよ」

「そんな……」

 杏奈は首を振った。
 宮坂が、杏奈に向き直る。

「それだけ、君はすごいものを生み出したんだよ。自信持ってね」

「ありがとうございます」

 宮坂は、まだざわめく客席の方へ顔を向けた。

「これからも、僕らにいろんな世界を創らせてね」

 杏奈は、胸の奥が熱くて、言葉にならない。
 拍手はまだ、続いていた。

 拍手がようやく引いて、客席が波のように動き出し、撤収作業が始まる。

 杏奈は膝をつき、ガムテープの端を探していた。

 そのとき。

「お姉ちゃん」

 杏奈が顔を上げると、入口の近くに梨夏が立っていた。
 制服のまま、少し息が上がっている。

「梨夏……あんた、おったの?」

 言い終える前に、梨夏が駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん」

 ぎゅっと抱きつかれた。
 杏奈は一瞬呆けてから、そっと背中に手を回す。

「……お父さんとお母さんは?」

「一人できたんよ」

「お父さん、よう許したね」

「そこは、お母さんがうまいこと、ね」

 杏奈は思わず笑ってしまう。

 そのとき、段ボールを抱えたミナと、配線をまとめたユズが近づいてきた。

「え? 誰、その子?」

「私の妹です」

 ミナの目がぱっと明るくなる。

「わ、めっちゃ可愛いじゃん」

 ユズも覗き込み、笑った。

「ほんまやん。顔ちっちゃ。お目めくりくりやん」

 梨夏は二人をじっと見つめる。

「どしたんね?」

 梨夏は頬を赤らめたまま、ぽつりと言った。

「……都会のお姉さん、カッコ良くて、綺麗……」

 ユズが、目を丸くする。

「……え、なんて正直な子なん?」

 ミナも吹き出して、梨夏の顔を覗き込む。

「ほんと、ますますかわいい」

 梨夏は自然にミナとユズの輪の中に入り、何かを楽しそうに話し始めた。
 杏奈はその場から離れて、作業に戻る。

 そこへ、聡志がペットボトルを差し出した。

「お疲れ。おかげで大盛況だったよ」

「妹さんにも、見てもらえてよかったじゃん」

 杏奈は小さく頷く。

「ありがとうございます」

 受け取ると、少し視線を落とした。

「浮かない顔だな」

「……羨ましいなって、妹が」

「なんで?」

「あんなに、社交的で、すぐ打ち解けられて」

 ミナとユズの輪の中で、もう笑っている梨夏の姿が目に入る。
 あの軽やかさ。
 迷いのなさ。
 人に近づくことを怖がらない感じ。

「私は、あんなふうに入っていけないから」

 聡志はしばらく何も言わなかった。
 ただ、同じ方向を見ている。

「妹は、ああやって輪に入るのが得意なんだろうな」

「はい」

「だけど、杏奈もすごいよ」

 思わず顔を上げる杏奈。

「今日のお客さん、杏奈のあの詩で感動したんだよ?」
「そんな言葉を生み出せるのは、誰でもできることじゃないよ」 

「それは、聡志さんや皆さんが、演じてくれて、伝えてくれたからです」

 ペットボトルを握る手に、少し力が籠る。
 すると、背後から峯岸の声。

「俺らは、俺らの出来ることをやっただけや」
「今日の劇は、杏奈ちゃんの言葉があったからできたんや、ありがとな」

 杏奈は、頬を染めてうつむくしかできなかった。

 ユズがひらひらと手を振る。

「ほな、姉妹なかようデートしてきぃ」

 杏奈は苦笑した。
 ミナも段ボールを抱え直しながら笑う。

「また今度ゆっくり話そうね、梨夏ちゃん」

 梨夏がぺこりと頭を下げる。

「ありがとうございました」

 二人は廊下に出た。
 少し歩いてから、梨夏がぽつりと言う。

「皆さん、ええ人じゃね」

 杏奈は頷く。

「楽しいし、優しいし」

「お姉ちゃんも、よう笑うとるし」

 杏奈は足を止めた。

「……そうじゃろか?」

 梨夏は迷いなく頷く。

「前は、もっと難しい顔しとった」

 言われてみれば、以前の自分と比べると、サークルに参加し始めて、心から笑える時が増えていることに気付いた。

「楽しいけぇね」

 言ってから、素直に言葉に出したことに、少し驚いた。
 梨夏がにこりと笑う。

「楽しそうなお姉ちゃんが見れて、うちすごい嬉しい」

 その言葉に、胸の奥が温かくなる。
 夕方のキャンパスを、歩幅を合わせながら歩く、すると突然、受信音が立て続けに鳴りはじめた。

 ピロン、ピロン、ピロン。

 杏奈と梨夏、同時にスマホを見る。

「……バレたか」

「多分ね」

 梨夏が肩をすくめる。

「お父さんの旅行サイトから、新幹線の切符、買うたから」

「隠す気ないじゃろ、それ」

 二人は顔を見合わせて吹き出すと、今度は杏奈のスマホが震える。
 メッセージに思わず口元が緩む。

【梨夏、会うたか?そっち行ったらしいけど】

 杏奈が梨夏に画面を見せると、二人はニヤリと笑う。

【会うてないよ、連絡もない】

 送信すると、間髪入れず返信。

【なんじゃとー?】

 二人、同時に肩を震わせる。

「焦っとるね」

「焦っとる、焦っとる」

 梨夏がいたずらっぽく目を細める。

「もう、えいじゃろ?」

「うんうん」

「じゃあ、」

 二人は顔を寄せ合い、カメラを構えた。
 夕暮れの空を背に、並んで笑う。

 カシャ。

 送信。

 いずみ亭では、カウンター席で、幸弘がスマホを握りしめていた。

「梨夏〜、どうしよるんじゃ……」

 由美加が冷ややかに湯呑みを置く。

「もう高校生やから、そう心配せんと」

 ピロン。

 幸弘のスマホに通知。
 そこには、夕暮れのキャンパスを背景に、並んで笑う姉妹の写真があった。

 幸弘は、深く息を吐き、顔が綻んだ。

「……楽しそうじゃの」

 由美加が、少しだけ微笑む。

「あの子のこんな心からの笑顔」
「いつ以来じゃろ?」

 二人はしばらくの間、スマホに映る娘たちから、視線を外すことができなかった。

 薄暮の新幹線のホームは、やわらかな風が通り抜けていた。

 梨夏はリュックの肩紐を握り直し、杏奈の隣で線路の先を見つめていた。

「泊まって行ったらええのに」

 杏奈が言うと、梨夏は肩をすくめる。

「明日、学校あるけぇ。お父さんが新幹線の駅まで来てくれるって」

「……お店は?」

「臨時休業」

「まったく」

 呆れたふうに言いながら、杏奈の声はやわらかい。
 その顔を覗きこみ、笑顔になる梨夏。

「けど、うちら幸せじゃね」

「うん、それは、そう」

 次は少し、真顔になる。

「うちも、あの大学行きたいなあ」

「じゃったら、しっかり勉強せんとね」

「はーい」

 軽い返事だが、目は真っ直ぐだった。

 遠くで、新幹線の接近を告げるアナウンスが流れ始めた。

「気をつけてね」

 杏奈の胸が、じんわり熱くなる。

「……お姉ちゃんも」

 そして、腕が伸びてくる。
 ぎゅっと、二人は抱き合った。

 妹の制服越しの体温が、杏奈の胸を温める。
 家族の温度。
 離れても消えない温度。

「また、帰ったらローストビーフ食べよう」

「絶対ね」

 やがてホームに、新幹線が到着し、扉が開かれた。

 手を振り合い、梨夏は列車の中へ。

 ホームを離れていく新幹線を見送りながら、杏奈はスマホを取り出した。

【妹、今、新幹線に乗りました】

 送信。

 すぐに既読がつく。

【今から向かいます、遅れます、すみません】

【気にしなくていいよ】

【先に始めてるからね】

【黄色いコーラもあんで】

【なんでやねん】

【じゃあ、気をつけて】

 画面を閉じて、ホームの階段を駆け足で降りて行った。

 打ち上げ会場の居酒屋は、熱気にあふれている。
 引き戸を開けると、揚げ物の匂いと笑い声が一気に押し寄せてきた。

「お、きたきた!」

 ユズが手を振り、ミナがグラスを掲げる。

 杏奈が笑いながら座卓へ滑り込むと、テーブルの中央には、一枚の冊子が広げられていた。

 六星大学 学園祭
 六友祭 プログラム

 聡志がそれを指で叩く。

「次は、これだな」

 その一言で、さっきまでの達成感が、次の火種に変わる。

「オープンキャンパス成功やし、流れ来とるやろ」

 ユズがニヤリと。

「六友祭、屋外ステージ空いとるらしいで」

「15分じゃ足りないよね」

 ミナが真顔で言うと、宮坂がプログラムをめくった。

「応募締切、来月頭」

 全員の視線が自然と杏奈に集まる。
 杏奈は一瞬だけ戸惑い、それから冊子を手に取った。
 今日、自分の言葉が人の心を動かした。
 自分の言葉が、形になった場面を見て、昂揚し、感動し、なんとも言えぬ快感を覚えた。
 その気持ちを、もう一度、いや、何度でも味わいたいと思った。

「……やりたいです」

 皆が、杏奈の顔を見て、揃って笑う。
 聡志が、口を開いた。

「いい顔してんじゃん」

── 第4章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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