第4話 私、最低だ
年が明けて、1999年。
冬が深くなるにつれて、田澤の気配がだんだん遠くなっていた。
最初の頃は、頻繁にあった連絡も減ってきていた。
「いま、書きたいものがたくさん出てきた」
電話の向こうでそう言われた時、志織は笑って「いいじゃん」と答えながら、胸の奥がきゅっと縮む。
彼の言葉は、一番惹かれたものだ。
それが増えることは嬉しいはずなのに、その言葉が自分ではないところに、向かっていくのがわかる。
志織も動き始めていた。
制作の現場に触れ、グラフィックの基礎を見習いとして学び始めた。
紙の質感、文字の組み方、色の沈み方。
覚えることが多くて、足が重い日もある。
田澤は志織の話を聞くと、まっすぐ讃えてくれる。
「すごいよ、ちゃんと自分の考えを持って」
「志織さんが頑張ってるから、俺も頑張れるんだよ」
誇らしい気持ちになる。
しかし、いつの間にか、そんな言葉が重荷にもなりつつあった。
常に、頑張る自分でいなければいけない。
時には、甘えたいのに。
そんな、ある日。
田澤の元に、一通の封書が届く。
その中身を見て驚愕した。
【最終選考作品選出通知】
平成十一年二月吉日
田澤幸弘 様
全日本映画協会
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。