第二章 客席
平日の映画館。ほとんど客のいない場内で、一本の映画が上映されていた。
『スーパーギャラクシー・vengeanceReborn~復讐のアルティメット・リターンマッチ~』。一度敗れた男が地獄の底から蘇り、宿敵に再戦を挑む話らしい。いかにもB級、と感じてしまうような題だった。
客席の真ん中あたりに、巨体の男が一人、座っている。
身長は百九十センチを超えるであろうか。伸縮自在の特注スーツが、それでもパンパンに張っている。福々しい丸顔。バケツほどもあるポップコーンの容器を膝の上にいくつも抱えていた。
コー・オウジは、スクリーンを眺めながら、ポップコーンを口に運んでいた。ふむ、と時々頷く。何に頷いているのかは、たぶん本人にも分かっていない。
隣の席に、いつの間にか誰かが座っていた。
薄い印象の少年だった。
「おや。カイさんではないですか」
「やあ。コー・オウジ。突然だけどまた依頼を受けてくれないかい」
「困りましたねえ。ぜひ、と言いたいところですが、今は探偵社はやっていないんですよ」
コー・オウジは、ポップコーンをつまんだまま手を止めた。
「……いえ、また作りますので少し待っていてくださいね」
相変わらずだ、とカイは思った。正典で読んだとおりだ。映画を観て、思いつきで探偵社を作った男。この男にとっては、探偵社を一つ作るのも、ポップコーンを一つつまむのも、大して違いはないのだろう。
「相変わらずメチャクチャするじゃないか。いいよ。適当にやってれば偶然にその探偵社、見つかるんだろ」
「おお。あなたもちょっと成長しましたね。世界の理不尽を受け入れる覚悟ができましたか」
「……」
理不尽。カイは、その言葉を胸の内で転がした。この男の口から出ると、ずいぶん軽く聞こえる。その理不尽に、自分は一度、叩きのめされたのだ。
スクリーンの中では、蘇った男が、宿敵の前に立っていた。
「ところで、一度負けた相手に力をつけてまた挑戦する、ありきたりですが面白くなりそうな物語ではありませんか」
コー・オウジは、スクリーンを見たまま言った。映画の話なのか、カイの話なのか、分からなかった。
「……ふざけやがって」
カイは、低く吐き捨てた。
「ホンモノを超える偽物ってやつを見せてやるよ」
「いいセリフですね。とても楽しくなりそうな予感がしますよ」
コー・オウジが隣を見た時には、もうそこには誰もいなかった。空いた座席が、かすかに揺れていた。
スクリーンでは、宿敵同士の決戦が始まろうとしている。コー・オウジはポップコーンを口に入れ、ゆっくり噛んでから、言った。
「さて、ローゲンさんたちにまた連絡を取ってみましょうか」
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