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偽典演舞

ナン・ルーナック

21,280 字

メタフィクション・二次創作

"自らの存在すらも伏線となる、極上のメタフィクション。"

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第二章 客席

 平日の映画館。ほとんど客のいない場内で、一本の映画が上映されていた。

 『スーパーギャラクシー・vengeanceReborn~復讐のアルティメット・リターンマッチ~』。一度敗れた男が地獄の底から蘇り、宿敵に再戦を挑む話らしい。いかにもB級、と感じてしまうような題だった。

 客席の真ん中あたりに、巨体の男が一人、座っている。

 身長は百九十センチを超えるであろうか。伸縮自在の特注スーツが、それでもパンパンに張っている。福々しい丸顔。バケツほどもあるポップコーンの容器を膝の上にいくつも抱えていた。

 コー・オウジは、スクリーンを眺めながら、ポップコーンを口に運んでいた。ふむ、と時々頷く。何に頷いているのかは、たぶん本人にも分かっていない。

 隣の席に、いつの間にか誰かが座っていた。

 薄い印象の少年だった。

「おや。カイさんではないですか」

「やあ。コー・オウジ。突然だけどまた依頼を受けてくれないかい」

「困りましたねえ。ぜひ、と言いたいところですが、今は探偵社はやっていないんですよ」

 コー・オウジは、ポップコーンをつまんだまま手を止めた。

「……いえ、また作りますので少し待っていてくださいね」

 相変わらずだ、とカイは思った。正典で読んだとおりだ。映画を観て、思いつきで探偵社を作った男。この男にとっては、探偵社を一つ作るのも、ポップコーンを一つつまむのも、大して違いはないのだろう。

「相変わらずメチャクチャするじゃないか。いいよ。適当にやってれば偶然にその探偵社、見つかるんだろ」

「おお。あなたもちょっと成長しましたね。世界の理不尽を受け入れる覚悟ができましたか」

「……」

 理不尽。カイは、その言葉を胸の内で転がした。この男の口から出ると、ずいぶん軽く聞こえる。その理不尽に、自分は一度、叩きのめされたのだ。

 スクリーンの中では、蘇った男が、宿敵の前に立っていた。

「ところで、一度負けた相手に力をつけてまた挑戦する、ありきたりですが面白くなりそうな物語ではありませんか」

 コー・オウジは、スクリーンを見たまま言った。映画の話なのか、カイの話なのか、分からなかった。

「……ふざけやがって」

 カイは、低く吐き捨てた。

「ホンモノを超える偽物ってやつを見せてやるよ」

「いいセリフですね。とても楽しくなりそうな予感がしますよ」

 コー・オウジが隣を見た時には、もうそこには誰もいなかった。空いた座席が、かすかに揺れていた。

 スクリーンでは、宿敵同士の決戦が始まろうとしている。コー・オウジはポップコーンを口に入れ、ゆっくり噛んでから、言った。

「さて、ローゲンさんたちにまた連絡を取ってみましょうか」

── 第4章 了 ──

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