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沈花繚乱

56,592 字

幻想青春群像劇

"境内の木々は知っている。散ってもまた咲く、君たちの物語を。"

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第四章

恐再躊歩 望篇
望は桜の前でメガネを拭いた。
「ねえ、何でイジメって、無くならないの? 私をイジメてた美怜は、陽子をイジメている」
桜は少し揺れた。
「あなたは、何もしてないの」
「してない。何も」
「してないんだ」
繰り返した。
望は黙った。
 
梅の前。
「私も昔、同じことされてた。だから、分かるの。陽子の気持ち」
「分かるのに、何もしないの」
「怖いから。また、標的になるのが」
そしてポツリと望は言った。「やっぱりしてるかな」

「分かる、じゃ足りないんだよ」梅は言った。「声、かけてみたら。誰もいないところで、一言でいい」
「誰もいないところで、こそこそと?」
「こそこそでいい。ゼロよりは、ずっといい」
 桃の前。
「声をかける勇気、私にはない」
「なくていい」桃は言った。「大きいことしなくていい。ただ、隣に座るだけでもいい。小さなよりそい、それだけでいい」
「それも、勇気いる」
「メールでもいい。声じゃなくても、届く」
「私が抜けられたのは、何でだと思う?」望はぽつりと言った。「私が強くなったからじゃない。美怜たちが、私に飽きただけ」
桃は何も言わなかった。
「だから、何を言われても、答えになるとは思えない」
「それでも」桃は言った。「聞きに来たんでしょう」
「何も変わらないかもしれないのに」
「変わらないかも。でも、聞きに来なかったら、絶対に変わらない」
望はしばらく黙って、桃の幹に手を触れた。
「陽子に、何かしてもいいのかな。私みたいなのが」
「私みたいな、って何」
「加害者側だった人間」
「あなたは今、被害者でも加害者でもない。ただ、迷ってる人でしょう」桃は言った。「それでいい。迷ってるだけで、何もしないよりずっといい」
望は頷いた。でも、頷いただけで、何かを決めたわけではなかった。
風が吹いて、花びらが一枚、望の肩に乗った。
払わずに、そのまま歩きだした。

── 第4章 了 ──

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