第48話 ガリレオ
杏奈の声が、静かに響く。
「人間は、自ら軌道を作り、時に引かれあい、衝突し、弾き合う」
「その姿を観測する存在、ガリレオ」
「それは、人間が重力を備え、自らの道を切り開いていくことを示していました」
正面扉の入口では、銃声が幾重にも重なっていた。
セラとマサネが、機関銃を構えて歯を食いしばり、応戦する。
「くっそぉ、こらきりがないわ」
「弱音吐いてんじゃないよ」
フラッシュ団の面々が、一人、また一人と膝をつき、倒れていくが、それでも、誰も退かなかった。
「お頭! 参謀! お二人は中へ! ここは我らが時間を稼ぎます!」
別の団員が、崩れた姿勢のまま叫ぶ。
「中の通路なら、敵は展開できません! 隔壁を下ろせば足止めになります!」
「何言ってんだい……あんた達」
動こうとしないセラの腕を、マサネが強く引いた。
「問答しとる間はあらしません! いきましょう!」
セラは一瞬だけ唇を噛み、倒れた仲間たちを見渡す。
「……わかったよ、すまないね」
「イエッサー!!」
セラとマサネが中へ飛び込んだ直後、残っていた二人も膝をついて、倒れこんだ。
そこへ、シューゼンとケンサックが姿を現す。
「くふふ。あっさりと一網打尽にできますね」
シューゼンは愉快そうに喉を鳴らし、下りた隔壁へ目を向ける。
「行きましょう、ケンサック」
「仰せのままに」
ケンサックが片膝をつき、下がった隔壁に両手をかけ、持ち上げようとした瞬間、舞台が暗転した。
「さあ、行こう」
宮坂の合図で、暗闇の中、舞台がゆっくりと回転を始める。
サーチライトが、息を切らせる聡志を捉えた。
その瞬間、スクリーンにひとつの光点が灯るとやがて広がり、星空を彩っていった。
シンセサイザーの幻想的な調べが、その光景を包み込んでゆく。
「これは、一体……」
聡志の声が、かすかに揺れる。
「観測記録だよ」
落ち着いた声が返され、正面ステージにゆっくりと照明が灯ると、そこには、ユーマ、ユズ、ミナが立ち、中央に腰を下ろす老人の姿をしたユーゴを囲んでいた。
「観測記録?」
ミナが静かに答える。
「人間を惑星として、その軌道を観測する共通基盤OS」
中央に座る老人が、ゆっくりと顔を上げた。
「これが……ガリレオだ」
「しかし、今はその動きを止めている」
白衣姿のユズが、淡々と補足する。
「ガリレオは複数のシステムの集合体」
「その中にある“感情を観測するシステム”が、独立して暴走しているの」
「まさか、それが……」
かすれた声の聡志に、ユーゴがわずかに頷く。
「ミケランジェロだ」
回転舞台の裏側で、瀬良と田﨑、健作と秀然が向かい合い、瀬良が穏やかに微笑んだ。
「じゃあ、お二人とも、予定通りお願いしますね」
「ああ、まかしときいや」
「お二人こそ、楽しみにしてますよ」
頭をかきながら、下を向く田﨑。
「こういうの、初めてやるから、なんか照れ臭いな」
少し離れた場所で、そのやり取りを見ていた杏奈が、小さく首を傾げる。
「なにを、話しとるんじゃろう?」
その時、舞台中枢班の机に近づいた歩美が、足を止めて、宮西と森山に交互に視線を移していた。
(違う、この人らは違うっちゃよ)
額が汗ばんで、息も荒くなる。
かたわらの母親が心配そうに、歩美の表情を覗き込んでいた。
歩美の脳裏に、忌まわしい記憶が浮かび上がる。
(君、新入生?)
(うわ、めっちゃかわいいね)
歩美は頭を両手で掴んで、力強く首を振った。
(あの……わたし、未成年ですけど……)
(そんな堅いこといいっこ無しだよ)
(はい!♪のーんでのんでのんで あゆみちゃーん!)
歩美の体が震え出し、その場に踞ると、体が小刻みに震え出した。
見知らぬ部屋のベッドで目覚め、自分に向いたスマホのレンズが、記憶に現れる。
(あれ? もう目が覚めちゃった?)
(まあ、いいや、さっさと始めちゃおう)
(じゃ、邪魔なお洋服はいらないよね)
「いや、いやや!」
男たちの手を必死で振り解き、扉を開いて外に出ると、一心不乱に駆け出した。
途中で転びそうになりながらも、電柱にもたれて息を整えていたその時、スマホにメッセージが届く。
【なに逃げてんの? これからって時に】
【でも、俺たちからは逃げられないよ】
【これ、見てみ】
添付された画像や動画を見て、驚愕する歩美。
そこには、グラスのビールを煽る姿や、服を着て眠る歩美が両側を男に挟まれ、二人が肘枕をしてピースサインしている画像もあった。
【自分で言ってたでしょ?未成年て】
【この動画と画像、お顔丸出しでアップしちゃうよ】
【次は、逃げないでよね、お父さんやお母さんが見たら泣いちゃうよ】
「いや、やめて……」
思わず母親が背後から、歩美の肩を抱く。
「……歩美」
「君……どうしたの?」
振り返った森山が、心配そうに歩美を見つめていた。
宮西が、歩美の手に持つDVDに目を留める。
「君……公認の子だよね」
「それ、もしかして、瀬良さんから?」
歩美は唇を震わせながら、DVDを差し出した。
「あの……これ……田﨑さんが『行くんだ!』って、言ったら流して……ください」
顔を見合わせる、宮西と森山。
「そんなの、台本にあったっけ?」
「ないよね、ってことは……」
二人は声を揃えた。
「瀬良さん、仕掛けてくるんだ」
目を輝かせる二人は、体を振り向かせて歩美を見た。
「じゃあさ、君が指示出してよ」
「俺らじゃタイミング分かんないから」
「宮坂くんの席があるから、座んなよ」
歩美は、喉が詰まって言葉が出ない。
「あの……この子は……」
母親が歩美の背をさすっていると、二人の表情が和らいだ。
「君も、プロジェクトPLのメンバーなんだよ」
「一緒に、最高に面白いもの、作ろうよ」
(最高に……面白いもの)
(私の……舞台での、最初の、台本)
ゆっくりと立ち上がると、母親の顔を見て、引きつった笑顔を向ける。
呼吸はまだ浅い、しかし震えながらも言葉を発した。
「お母さん、私、やるっちゃ」
「もう……負けねぇ、やるっちゃよ」
口元を押さえて、涙を潤ませる母親に、もう一度笑顔を見せた歩美は、そのまま宮西と森山の間の席に腰を下ろした。
「お母さんは、椅子がなくてすみません」
「しっかり、見守ってあげてください」
柔らかな表情で告げる森山と宮西に、母親は深く頭を下げた。
演奏班でも、日崎と佐藤がそれぞれの持ち場で構える。
「瀬良さん、活き活きしてんな」
「さらに、面白い仕掛け用意して」
佐藤がギターのネックを軽く握り直す。
「いつも史劇やミュージカルで、ストレス溜まってたんだろう」
「でも本番はこれからってね」
日崎が小さく笑い、視線を舞台へ戻した。
「さあ、キュンキュンさせてもらおうぜ」
照明が再び灯ると、場所は削除予定領域の通路。
セラとマサネが近づく足音に振り返った。
「ちっ、ケンサックの馬鹿力じゃああの程度の隔壁じゃ無理か」
「覚悟、決めようか!」
セラが前を見据えると、通路の奥から、シューゼンの声が響いた。
「さあ、誤差たちよ」
「もう手を煩わすのはおやめなさい」
「ケンサック!」
ケンサックが姿を現し、一歩前に出る。
「お頭は先へ!」
「何言ってんだい!」
マサネがセラを振り返る。
「セラちゃん! 君は――『行くんだ!』」
その瞬間、舞台中枢班で歩美が声を上げた。
「今です!」
「了解!」
宮西が再生ボタンを押すと、スクリーンにセピア色に加工された画像で、学生服姿のマサネとセラが映し出される。
杏奈が唖然となり、思わず呟いた。
「何? あれ」
聡志は額に手を当てて笑う。
「ここにアドリブかよ」
「やってくれんな、瀬良姫良理」
スクリーンには、頬を染めたマサネが手を差し出し、はにかみながらその手を取るセラの姿があった。
やがて、端末により基準値を下回り、連行される二人。
そして、互いの手を取り合い、暗い通路へ逃げていく二人。
それぞれの画像が、短い記憶の断片のように映し出されていく。
マサネはセラを見つめたまま、声を震わせた。
「もうすぐなんだ」
「もうすぐで、僕たちが夢見た、新しい世界が来るんだよ」
「君は、生き延びるんだ」
「新しい……世界で!」
「だめ! マサネくん! だめだよ! 行かないで!」
駆け寄ろうとするセラを、マサネが鋭く制した。
「来るな! 早く行くんだ!」
次の瞬間、マサネは手榴弾を放り投げ、セラを庇うように両腕を広げる。
爆発音に合わせて、マサネの身体が大きく跳ね飛ばされた。
そして崩れ落ちる瓦礫の下へ、シューゼンとケンサックの姿が呑み込まれていく。
「う、うわぁーーー!」
セラがマサネを抱き起こし、その頭を膝の上に預けると、悲哀に満ちた旋律が流れ始める。
「マサネくん!」
マサネの声は、もうかすれていた。
「……セラ、ちゃん……あれ……本当、だったの……かな?」
「僕たちが……誰も……幸せに……できないって」
「マサネくん、もういいよ」
「喋っちゃだめだよ」
「……あれ?……でも、変だな……」
マサネは、わずかに笑った。
「……僕は……幸せだったよ」
「うん、うん」
「……君の、おかげで……君が、僕を……」
マサネが震える手を差し出すと、セラはその掌を握り返し、首を振った。
「先に、行ってる」
「でも……すぐに、来ちゃ……だめだよ」
マサネの身体から、がくりと力が抜けた。
「マサネくん?」
「マサネくん!」
「いやぁーーー!」
その叫びが、通路に響き渡る。
瓦礫の下では、健作と秀然が身を潜めていた。
「やるもんじゃのう」
「最初は杏奈の台本にケチつけるんか、てカチンときたけど」
秀然が小さく笑う。
「私は、面白いことならなんでもやりたいんで」
「じゃあ、私はここで退場です」
舞台裏で、杏奈は鼻を啜りながらスクリーンを見つめていた。
「凄い……これが、瀬良さんのおかげで……凄い」
客席では、由美加と志織が手を取り合い、ハンカチで口元を覆っている。
梨夏は両手で顔を覆い、肩を震わせていた。
回転舞台の裏側では、雄吾たちがその光景を見つめていた。
「彼女は、俺とは違うな」
ユズが隣から問いかける。
「何がですか?」
「彼女は、別人になるんじゃなく、なりたい自分を知っているんだよ」
聡志が、舞台を見つめたまま小さく頷く。
「わかる気がします」
峯岸が、ぽつりとこぼした。
「……姐さん」
しばらくすると、瓦礫の山が、ぎしりと音を立てて動くと、中からケンサックが姿を現し、低く唸るような声が響く。
「よくも……よくも大司教様を」
セラが睨み返す。
「この、くたばりぞこないのデカブツ野郎……」
ケンサックが地を踏みしめ、怒りを爆発させた。
「よくも、よくも! よくもよくも、よくも!!」
セラはゆっくりと手榴弾を手に取り、視線を落とし、微笑んだ。
「……マサネくん」
「ごめんね」
「約束、守れそうにないや」
「私も、すぐ行くね」
ピンを口で抜き、顔を上げる。
「だってさ……」
その瞬間、ケンサックの巨体がセラへと突進してきた。
「うぉぉお!」
「新しい世界が、どんなに素晴らしいものでも」
「おぉぉ!」
「意味がないもの」
「おぉぉぅぉ!」
セラは真正面から向き直り、手榴弾を掲げた。
「あなたが……いなかったら!」
思い切り振りかぶった瞬間、照明が落ちると同時に、激しい爆発音がホールを飲み込んだ。
舞台がゆっくりと回転し、裏に入ると、瀬良が真っ直ぐ杏奈のもとへ歩み寄った。
「瀬良さん、凄いです」
「本当に、ありがとうございました」
杏奈は涙を拭うのも忘れたまま、見上げる。
「おかげで、凄く感動しました」
「勝手なことして、ごめんなさい」
「いえ……そんなこと、ありません」
瀬良は一歩近づくと、杏奈の肩に手を置き、やわらかく笑った。
「劇作家が本番終わるまで泣いちゃだめ」
「まだあるんだから、気を抜かないでね」
「それにね、あのシーンを書いたの、歩美なの」
「歩美ちゃんが?」
瀬良は笑顔で頷き、中枢班の席で顔を覆う歩美に目をやる。
「初台本よ、歩美の」
「あの子、しっかり前を向いてる」
歩美は両手を離せずに、しばらく俯き、母親に肩を抱かれていた。
左右にいる森山と宮西は、微笑ましい表情で舞台を見つめている。
舞台に再び照明が戻ると、宮坂の声が響いた。
「センター通路、崩落により閉鎖」
ユーゴは静かに頷き、聡志へ視線を向けた。
「そうか、さて、聡志くん」
「君を待っていた」
「セラとマサネに言われた」
「一体俺に、何ができるんだ?」
「ユズくん」
「はい、これを手に取ってみて」
差し出された石を、聡志が受け取る。
「はい、あっ――」
その瞬間、石が内側から光を放つ。
赤へ。
青へ。
紫へ。
色を変えながら、掌の中で脈打つように明滅し始めると、ミナが息を呑んだ。
「当たりですね」
聡志が光る石を見つめたまま呟く。
「なんなんだよ」
ユーゴは、ゆっくりと口を開いた。
「ミケランジェロは、数十年前に、私が作り出したシステムなんだ」
「なんだって?」
「適正相性理論」
「それは、私が考え出した理論だった」
「より良い相性の者同士で繋がれば、争いもなく、互いを愛し合える世界になる」
「そう考えた」
しかし、その目に苦い影が差す。
「だが、人間の無限に近い精神を数値化し、相性を決めるのは至難の業だった」
「いつしかそれは、シューゼンたちによる支配の道具にされたのだ」
ユーゴは、低く続ける。
「超常的ではない、具体的な神として」
「さらに、ミケランジェロのような人工知能は、より早く回答を導き出すために、自分に都合の良い、短絡的な答えを出すようになる」
宮坂が短く補足する。
「ハルシネーションだよ」
「ハルシネーション……」
聡志がその言葉を反芻すると、ユーゴはわずかに目を伏せた。
「私は、人類を救う“方舟”を作ったつもりが……洪水の方を作ってしまったのだ」
その言葉に重なるように、サーチライトがゆっくりと動き、ノアの方舟の絵が浮かび上がる。
聡志が手の中の光を見つめる。
「この石は?」
「ガリレオを再起動させるキーだ」
「私は万が一のために、それを発動させる脳波のパターンを数百万通り用意していた」
ユーゴは、かすかに苦笑する。
「それでも、砂漠に一粒の種を蒔くようなものだったがね」
宮坂が静かに続ける。
「その脳波を観測していたら、やっと君が見つかったんだ」
ユズが促す。
「両手で、その石を持ってみて」
「え、えぇ!?」
聡志の手の中で石が開き、中から現れたのは、明滅する光をたたえた円盤だった。
「これが、ガリレオの鍵?」
宮坂が答える。
「そう、再起動ディスクだ」
ユズが、その光を見つめたまま呟いた。
「やっと、この偽りの世界が終わるんですね、博士」
その時、モニターを見ていたミナが、眉をひそめる。
「待ってください! 何者かが、回線に干渉してきます!」
「来たか……」
センターステージのスポットが落ちると、そこにはローブをまとったミケランジェロが立っていた。
「そうは、させん」
「どこから? 通路は塞がっているのに」
ユズがディスクをセットすると、スクリーンに流れるコード文字が映し出された。
「させるか」
ミケランジェロが掌を掲げると、画面が大きく揺らぎはじめ、それを見たユーゴが低く告げる。
「あの姿は本体じゃない」
「本体はガリレオの中にある」
「世界の断片を集めたあのローブ」
「奴自身が、自らを具現化した幻だ」
「ホログラムにすぎない」
その時、観客から見えない角度で、宮坂がスマホを操作した。
【もうすぐだよ、準備はいいかな?】
【ちょっと待って、さっきの瀬良さんのアレで鼻が詰まっちゅう】
【余裕あるじゃないか、それくらいがちょうどいいよ】
【わかったわえ! いつでもどうぞ】
病室のフタバが、深く息を吸い込み、そっと目を閉じた。
医師と看護師が心配そうに、その様子を見守っている。
「なぜ、我に抗う」
「後悔、苦悩、絶望のない幸福な人生に導く我に、なぜ抗う」
「ふざけるな!」
聡志が一歩踏み出す。
「人間は、惑星だ!」
「重力で引き合い、時に衝突して弾き合い、自分の軌道を描く惑星だ!」
「違う、ただのヒトという固有種だ」
「ヒトの一生など……」
「ただ駆け抜ける彗星で良いのだ!」
宮坂が舞台中枢へ視線を送ると、森山が親指を突き上げた。
「通話回線オン」
宮西がミキサーへ手を伸ばす。
「映像切り替え、いきます」
ミナの声が鋭くなる。
「回線干渉が……これ以上は、セキュリティが持ちません!」
ユズがユーゴを見る。
「……博士」
ユーゴはスクリーンを睨んだまま、低く答えた。
「もう少しだ、あのプログラムが生き返れば」
その瞬間、スクリーンの画像がふっと消え、静寂が訪れる。
ミケランジェロのローブだけが、薄明かりの中で揺れていた。
(さあて、AIとの一人芝居……か)
暗い照明の中、ミケランジェロの低く、冷たい声がホールに響く。
「人類は、管理されることで安定する」
「感情は誤差である」
「誤差は、排除される」
舞台裏の杏奈が、ゆっくりマイクを上げた。
「違う」
「人間は、数値じゃない」
「人間は――」
「自分の意志で」
「自分の軌道を見つける」
「惑星です!」
宮坂がスクリーンを見上げ、思わず声を上げる。
「……頼むよ」
スクリーンに赤い文字が浮かび、けたたましいアラーム音が鳴り響き始めた。
MICHELANGELO(ミケランジェロ)
SYSTEM ERROR(システムエラー)
客席がざわめき、スクリーンの文字が変わる。
杏奈は舞台裏のモニター越しに、静かにスクリーンを見つめていた。
「いよいよです、フタバさん」
そして、次の文字がゆっくり現れる。
PROGRAM MIROKU(プログラムミロク)
宮坂の目が見開かれる。
「さあ……来るんだ!」
杏奈は静かに言葉を続けた。
「彗星は、通り過ぎる」
「でも」
「惑星は」
「自分の場所を、持つんです」
その瞬間、スクリーンの画面が落ち、静かな白い光が、舞台を満たした。
そして、どこからともなく声が響く。
「適正相性管理統括システム、ミケランジェロ」
ホール全体に、落ち着いた声が広がり、ミケランジェロ、いや峯岸が、仮面の下の目を見開き顔を上げる。
「……この声」
ミナが、静かに笑う。
「おかえり」
ユズも腕を組んで微笑む。
「これで勢揃いやな」
聡志が口元を上げた。
「これが、プラネットランドだ」
杏奈は、スクリーンを映すモニターから目を離さない。
会場にまた、声が響いた。
「人間によって作られたあなたに、人間の幸福を語る資格はありません」
ミケランジェロの仮面の下で、峯岸の目が揺れる。
(フタバ……フタバなんか?)
「あなたは、膨大な人間の感情データを元に、誤った答えを導き出してしまいました」
峯岸の視線が、スクリーンに釘付けになる。
「ハルシネーションです」
「適正相性管理統括システム、ミケランジェロ」
「私は、あなたのメモリーデータを調整する存在」
そこで声がわずかに止まり、スクリーンにフタバの姿が映し出された。
背景は星空に合成され、その瞳は閉じられている。
(フタバ!)
「私は、プログラム……」
フタバの瞳が、力強く見開かれた。
「ミロク」
まだコメントはありません。最初のひとことをどうぞ。