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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

目次(11 章・いまは第 5 章)
  1. 壁の向こうの少年
  2. 第1章 壁の町
  3. 第2章 髪の長い少年
  4. 第3章 壁の声
  5. 第4章 声が出ない夜
  6. 第5章 旅立ち
  7. 第6章 壁の外
  8. 第7章 夢の村
  9. 第8章 英雄はいない
  10. 第9章 声の正体
  11. 第10章 僕の言葉
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第4章 声が出ない夜

ある夜、強い子たちが、弱い子をいじめはじめた。

広場のすみで、小さな子が蹲っていた。強い子たちが、その子のかばんを高く持ちあげて、笑っていた。

僕は怖くて、何もできなかった。「やめろ」と言いたかった。口を開けた。のどの奥で、何かが石みたいに固まって、空気しか出なかった。声のかわりに、目からなみだが出た。

胸の中の壁が、いちばん高くなった瞬間だった。

くやしくて、家を飛び出した。涙がぽたぽた、地面に落ちた。月だけが、行く先を照らしていた。石だたみが月の光を反射して、白い道みたいに見えた。

すると、そこに髪の長い少年がいた。

「待っていたよ」と、ひとことだけ言った。

僕は何も言えなかった。でも、その少年は何も聞かなかった。何があったか、なんで泣いているか、何も。ただ、僕の横に立って、一緒に歩き出した。

二人で、虹を追いかけて走った。夜の虹だ。月の光でできた、うすい虹。湖の前で虹は消えた。届かなかった。でも、走っているあいだ、胸の中の壁のことを忘れていた。

湖の前で、二人で歌を歌った。あの出鱈目の歌。湖の水面が、僕らの声をすいこんで、ゆれた。

口から言葉が出ないのに、歌なら歌えた。不思議だった。

「言葉は、先に体から出るんだよ」と、その少年は言った。「頭で考えるより先に、おなかが動くんだ。考えてから話すんじゃなくて、話してから気づくことがある」

あの走った気持ちと、あの歌った気持ちだけは、いまも僕の体のどこかに残っている。足の裏、指先、のどの奥。僕のからだが、覚えている。

── 第5章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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