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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

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第4章 声が出ない夜

ある夜、強い子たちが、弱い子をいじめはじめた。

広場のすみで、小さな子が蹲っていた。強い子たちが、その子のかばんを高く持ちあげて、笑っていた。

僕は怖くて、何もできなかった。「やめろ」と言いたかった。口を開けた。のどの奥で、何かが石みたいに固まって、空気しか出なかった。声のかわりに、目からなみだが出た。

胸の中の壁が、いちばん高くなった瞬間だった。

くやしくて、家を飛び出した。涙がぽたぽた、地面に落ちた。月だけが、行く先を照らしていた。石だたみが月の光を反射して、白い道みたいに見えた。

すると、そこに髪の長い少年がいた。

「待っていたよ」と、ひとことだけ言った。

僕は何も言えなかった。でも、その少年は何も聞かなかった。何があったか、なんで泣いているか、何も。ただ、僕の横に立って、一緒に歩き出した。

二人で、虹を追いかけて走った。夜の虹だ。月の光でできた、うすい虹。湖の前で虹は消えた。届かなかった。でも、走っているあいだ、胸の中の壁のことを忘れていた。

湖の前で、二人で歌を歌った。あの出鱈目の歌。湖の水面が、僕らの声をすいこんで、ゆれた。

口から言葉が出ないのに、歌なら歌えた。不思議だった。

「言葉は、先に体から出るんだよ」と、その少年は言った。「頭で考えるより先に、おなかが動くんだ。考えてから話すんじゃなくて、話してから気づくことがある」

あの走った気持ちと、あの歌った気持ちだけは、いまも僕の体のどこかに残っている。足の裏、指先、のどの奥。僕のからだが、覚えている。

── 第5章 了 ──

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