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PLANET LAND - 彗星から惑星へ -

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143,163 字

青春群像劇、成長物語

"彗星のように駆け抜けた日々を終え、彼女は仲間という重力の中で、自らの軌道を描き始める。"

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第5話 奇跡のはじまり

「じゃあ杏奈、三幕構成で、六十分」
「出来るかな?」

 聡志から軽く告げられると、他のメンバーからも次々と注文が飛ぶ。

 宮坂からは

「喜劇、悲劇、学園もの……ジャンルはなんでも良いよ」

 峯岸も頷く。

「せやな、こう、重厚で、魂が揺さぶられるような……」

「ちょっと、あんたら!」

 ユズが厳しい口調で窘めた。
 我に返った視線の先には、俯く杏奈の姿が。
 重い雰囲気の彼女を、ミナが慰めていた。

「杏奈ちゃん、あいつらの言うことは気にしないで、出来ることをやれば良いからね」

「ホンマやで、まだ入ったばっかりなんやし、気負うたらアカンよ」

「……ごめんなさい」

 三人はバツが悪そうに頭を下げる。

「……まだ、秋の芸術祭もあるんだし」
「無理しなくても良いからね」

 ミナが言葉をかけてくれる。
 その声に首を振る杏奈。

「私……やります!」
「正直、自信はないけど……」
「私の、やりたいことだから!」

 メンバー達は、顔を見合わせて、ゆっくりと拍手を始めるのだった。

 それから杏奈は、悩んだ。

 ローストビーフの詩を書いた時みたいに、まず自分の中の映像を浮かべようとした。

 講義の時も、食事の時も、下宿の部屋でも。
 常に思案するが、何かが浮かんできては、すぐに霧散して行く。

 あるサークル活動の時もそうだった。 
 ディスプレイに向かって、難しい顔をする杏奈を心配そうに見るメンバー。

「杏奈ちゃん、こん詰め過ぎんほうがええよ」

 ユズの明るい声も、耳に入らない。

「もう……可哀想で見てらんないよ」

 ミナが頭を抱える。
 すると、聡志が立ち上がり、杏奈の隣に腰掛けた。

「あのさ、どんな話を書きたいの?」

「それが……まだ、わからなくて」

「じゃあ、今考えてること、教えてくんない?」

「……感謝です」

 聡志に向き直る。

「聡志さんや皆さんに、仲間に入れてもらえて」
「この仲間だから、出来ることを書きたいんです」

「わかった」
「俺たちは、待ってるよ、動かずにずっと」

 聡志の言葉を峯岸が引き継ぐ。

「俺らは、杏奈ちゃんの言葉の力を信じとる」

 宮坂も続いた。

「走る必要はないから、田澤さん自身を信じてね」

「……はい」

 力のない返事。
 杏奈には、皆の励ましも重圧でしかなかった。
 その時……

「ほら、立って!」

 急な大きな声と共に、立ち上がる聡志。
 思わず杏奈も立ち上がる。

「周り、見てみろよ」

 見渡すと、杏奈を見る仲間たち。

「さっき言ってくれたろう?"仲間"って」

「……あっ」

 すると、次はユズが近寄り、杏奈の体を抱きしめた。

「せやで、困ったら、ウチらを頼って、信じてな」

「……はい」
「ありがとう……ございます」

 込み上げてくるものに胸が詰まり、弱々しく答えるのが精一杯だった。

 下宿の机に座り、杏奈は自身のこれまでの記憶をたどる。
 子供の頃、家族に囲まれてよく笑っていた。
 しかし、中学受験を志してからは、机に向かっていた記憶ばかりになる。
 学校生活の記憶は、さらに駆け足に過ぎ去っていく。
 仲の良かったはずの友人達の顔が、スライドのように高速で切り替わる。
 その時……
 一人の男子同級生で止まった。
 無愛想だが、涼やかな目元。
 窓際に、頬杖をついて座る姿。
 目が合うと、慌てて逸らす自分。

 杏奈は、そこでふと立ち止まった。

(……河瀬、清彦くん)

 ほのかに憧れを抱いていた存在。

(確か……弓道部じゃったっけ?)
(インターハイで、準優勝したって……)

「田澤さ〜ん」

 卒業式の日、呼び止められて振り向くと心臓が跳ね上がった。
 なんと、いつも無愛想な彼がスマホ片手に、笑顔を向けてくる。

「一緒に、写真撮ってくれんね?」

 あの時の胸の高鳴り。
 ほんの二ヶ月ほど前のことを、すっかり忘れてしまっていた自分に驚いてしまう。

「そんなに、駆け足じゃったんね、うち」
「弓道、弓と矢……光陰矢の如し、か」

 その時、闇夜の中を走り抜ける光の筋が、脳裏に浮かんだ。

「……彗星……?」 

 入学式前夜、この部屋での母との会話を思い出した。

「通り過ぎるだけの人生にせんでええ。止まってもええし、ぶつかってもええ」

「お母さん……ほうじゃね」

 すると受信音が続く。

 ユズから。

【杏奈ちゃん、煮詰まったら、なんでもウチらを頼ってな】

 峯岸が。

【俺らは、杏奈ちゃんを信じとるからな】

 ミナは。

【海斗、それじゃまた杏奈ちゃん気負っちゃうよ。杏奈ちゃん、楽にね。肩の力抜いて】

 宮坂も。

【この前言ったよね。僕らは、君の描く世界を創るからね】

 じわ、と胸の奥が熱くなる。
 そして最後に、聡志が。

【どんな台本だって、俺らがすげえもんにしてやるよ】

 杏奈は、息を吐いた。

「……みなさん……」

(返事は……出来上がってからでええ)
(見えてきたから)

 スマホを伏せ、タブレットに手を伸ばした。

 画面が点いた瞬間、ディスプレイに、ぼんやりとイメージが浮かんでくる。

 星が無数に瞬く宇宙。
 そこを、ひとつの彗星が駆け抜けた。

 尾を引いて、銀河を横切って、いくつもの惑星のそばをすり抜けていく。

 通り過ぎていく惑星の表面に、ふっとメンバー達の顔が浮かんだ。

星空の詩

私は何も知らなかった。

勉強だけしてきたけど、何も知らなかった。

走り続けた。
流れ続けた。

彗星みたいに。

でも。

私は、辿り着いた。

いつも明るいユズさんがいる。 

ずっと背中を押してくれる峯岸さんがいる。

細やかに目を配り、気遣うミナさんがいる。

私の心に閉じ込めたものを、世界だと言ってくれる宮坂さんがいる。

そして……

走り続けた私を見つけて、
立ち止まらせてくれた人。

私の世界を、目に見えるものにしてくれる人。

聡志さんがいる。

みなさんは、そこにあり続ける。
その重力で、すべてを引き寄せる。

惑星。

私も、彗星みたいに生きるのはやめる。
自分の足で、大地を踏みしめる。

みなさんみたいな、惑星になる。

このサークルで。
この場所で。

 部屋に、時計の針の音が響く。

 机の上には、まだ白い画面。

 杏奈は、そっとタブレットに触れる。
 頭の中で、駆け抜けていた彗星が、ゆっくりと減速すると、光の尾が核に吸い込まれるように集まり、やがて一つの球体。

 惑星へと変貌した。
 そこで杏奈はひとつ、深呼吸をする。
 
「この場所は.....」

「……惑星の大地」

 そして、小さく、しかし力強く。

「……プラネット」

「……ランド」

 杏奈は、机の棚にある、ファイルを引き出して開く。

「お父さんが、駆け抜ける彗星の物語なら……」
「うちは、惑星の物語」

「自分の軌道を持って」
「衝突し、弾きあっても」
「周りの者を引き寄せる」

「……惑星たちの、物語!」

 杏奈の胸にまた、仲間たちの顔が浮かんだ。
 ここは、通り過ぎる場所じゃない。
 ここは、引き寄せる場所だ。

 杏奈は背筋を伸ばし、キーに指を置く。
 タイトルを打ち込むのを合図に、杏奈の指は猛烈な勢いで走り出した。

 深夜のこと、静まり返った部屋で、杏奈はグループチャットに、PDFファイルを添付して、送信する。

 ファイル名は
『PLANET LAND』

 ワンルームの机に肘をついていた聡志のスマホが鳴る。
 峯岸はバイト先の更衣室で、ロッカーを閉めたところだった。
 ユズは布団に転がりながら動画を見ていて、通知に気づいて顔を上げる。
 ミナはスタンドライトの下でレポートを閉じ、静かにスマホを手に取った。
 宮坂はノートに走らせていたペンを止め、画面に視線を落とす。

 それぞれの場所で、同じファイルを開く。

「……PLANET LAND」

 ほぼ同時に、声が重なった。

 タップすると、ファイルの下に、青い読み込みのバーが現れて、静かに進んでいく。

 峯岸が小さく息を呑む。
 ユズが布団の中で身体を起こす。
 ミナのまなざしが真剣になる。
 宮坂の指先が、無意識に机をなぞる。

 そして聡志は、読み込みの終わる瞬間を待たずに、口の端を上げた。

 「……来たな」

 青いラインが、最後まで伸びきった。
 全員がファイルを開く。

 数十分後。
 峯岸がその目を見開いて、身震いする。

「近未来ディストピア……なんちゅう世界や」

 ユズは布団の中で跳ね起きた。

「システムが相性で人間を管理て……ウチらに、できんの?これ……」

 ミナはスタンドライトの下で、視界をにじませる。

「人間が、軌道を見つけて、弾き合い、引き寄せ合う……凄い、凄いよ杏奈ちゃん」

 宮坂は、最後の一文を読んだ瞬間、ノートを取り出し、鉛筆を走らせる。

 舞台装置、演者の立ち位置、杏奈の台本と見合わせながら無言で。

 そして、聡志が最後の一文を読み上げた。

「PLANET LAND」
「それは、自らで選び、掴む場所……」
「こりゃ、伝説なんてもんじゃないな」

 画面を閉じずに、天井を見上げる。

「奇跡が……起きるぞ」

 その時、杏奈は机に突っ伏して、静かな寝息を立てていた。
 画面は開いたままだ。
『PLANET LAND』
 そのタイトルが、しっかりと刻まれたままだった。

 翌日の学生会館のいつものソファ席。 
 メンバーたちは、口々に杏奈に賞賛を贈る。

「凄いよ、あの世界観、近未来SF俺らやったことないから、楽しみだよ」

 聡志が昂揚して話すと、峯岸が腕を組んでうなる。

「重厚で、魂が揺さぶられるわ」

「ホンマ、さぶいぼ立ってきたやん……」

 ユズは自分の腕をさすりながら、半分本気で震えている。
 ミナは感極まった声で言った。

「だけど、ほんとに、私たちにできるの? これ」

 杏奈は、ただ小さく頭を下げるしかなかった。

「ありがとうございます」

 そのときだった。
 宮坂が口を開く。

「かなり課題があるよ」

 空気がすっと引き締まった。

「圧倒的に、人が足りないね」
「メイン演者は聡志と海斗、あと語り」
「三人残って裏方兼任」 
「だけど、この物語ならスクリーンに映像とかも流したい」
「欲を言えば、音も入れたいな」

 聡志が背もたれに沈む。

「せっかくの六友祭だもんな、そりゃ派手にいきたいよ」
「他のサークルに協力してもらおうか」
「軽音の佐藤さんと、管弦楽の日崎さんは、面白い事好きだから、声かけたら何とかなるかもだけど」

 次はユズだ。

「美術系ハンドメイドの佐々木ちゃんは、任せといて、よう連んどるから」

 ミナも続く。

「服飾サークルの春川さんは、ゼミが一緒だから、なんとか口説いてみるね」

 淡々と、協力者の名前が上がってきた。
 宮坂が、メガネの縁を上げる。

「あとは、映像設備と音響か……これに関しては、映像研と放送研」
「こっちは僕が行ってみる」

 峯岸がぽんと手を叩いた。

「それから、実行委員会の定例会があるやろ?」
「そこでプレゼンしたらどうや?」

「よし、それは俺と海斗で行ってくるよ」
「台本持ってさ」

 聡志と海斗が顔を見合わすと、杏奈がポツリと声をかける。

「……あの、私は何をしたら……」

「何言ってんだよ、杏奈は大仕事したじゃん」
「あとは、俺らに任せてくれよ」 

「……でも」 

 申し訳なさそうにする姿に、苦笑いの聡志。

「じゃあさ、語りの練習な」

「え?」

 今度は、膝を折って視線を合わせた。

「杏奈の声、落ち着いていて、聞き取りやすいんだよ」
「だから、語り部、頼むな」

「……え、えぇ〜!?」

 思わず声が出る杏奈の頭を、ポンポンと軽く叩くと、聡志は立ち上がった。

「じゃあ、早速みんな、動こう」

 その声に全員が呼応する。
 杏奈は、ひたすら台本を見直し始めていた。

 映像研の部室。
 代表の宮西と、放送研の代表、森山が宮坂と向かい合い、台本を熟読していた。

「こりゃあ、凄いな……」
「我々、当日は広報動画の撮影があるけど」
「上演機材の貸し出しと、操作する人員は回すよ、てか俺が行く」

「宮西さんが、ですか?」

 宮坂が顔をあげる。

「だからさ、ウチの名前で、生配信させて!」
「バズるよ、これ」

 森山も同意した。

「ウチは正直当日は、校内放送くらいなんだ」
「交代で回せば十分だし、機材だって出せるよ」
「いつも寂しかったんだよね」
「やっと学祭に本格的に、参加できる気がするよ」

「お二人とも、ありがとうございます」

 宮坂が立ち上がり、二人と握手を交わす。

 ミナは、服飾サークルの部室で代表の春川と、ユズは美術系ハンドメイドの佐々木と和やかに話し、二人とも首を縦に振った。

 聡志と峯岸は、台本片手に目を合わせた。

「じゃあ、行こうか」
「おう、しっかりプレゼンやったるで」

 実行委員会の会議室の前に着くと、ひとりの学生の姿を見つける。
 公認演劇部所属の田﨑雅音(まさね)だった。

「やあ、峯岸」
「聞いたよ、凄い劇作家が入ったんだって?」

「おう、と言うか、部長は?瀬良さんやったよな」

「教育実習に行ってるんだ、で、代理ってわけさ」

 すると、田﨑が聡志に向き直る。

「多辺、また腕あげたってな、瀬良さんオープンキャンパスの芝居、こっそり見に行っていたらしいよ」

「まじかよ……あの人いたんだ、後から聞いても緊張すんな」

 掌にじんわり汗が滲み、デニムになすり付けた。

「きょう、今回の演目、教えてくれるのか?」
「楽しみだな」

 峯岸が、口角を上げる。

「今回は、見たら腰、抜かしてまうで」

 聡志が引き受ける。 

「……奇跡、起こしてやるよ」

 春から初夏に切り替わり、学内の樹木が新緑をたずさえて静かにざわめく。
 多目的室では、学祭の実行委員会が開かれていた。
 体育会、文化部連合、各サークルの団体の代表者が揃う。
 淡々と解説した司会者が、意見を求めると、弓道部主将の久島が、軽く手を挙げた。

「今年は、うちの演舞、アーチェリーさんとは離して下さいね」
「去年みたいに、こっちが厳粛な雰囲気の中やった直後で、派手に風船をぱんぱん割られたら、台無しなんで」

 座席から笑いが溢れた。
 すると、今度は田﨑だ。

「演劇サークルの皆さん、屋外ステージみたいだけど、どんな演目をなさるんですか?」

 聡志と峯岸が、立ち上がり、司会者を見た。

「前に出ても良いですか?」

「演劇部さんは、台本ご覧になって頂いたらわかると思いますんで、こちらどうぞ」

 台本を受け取る田﨑。
 他の面々には、数冊を回し読みさせることになった。

 二人は正面に立って、黒板に、台本の内容を書き出して説明を始める。

「芝居のタイトルは……PLANET LAND」
「舞台は、近未来」
「人間の人生が、統括システムによって、徹底管理される……」

「適正な相性によって、選別され……」

 二人の解説に、最初は退屈そうに聞いていた各代表者たちが、次第に引き込まれていく。

 一人台本を確認する田﨑は、紅潮した顔で、場面からセリフの筆致を、順に指でなぞった。

(……なんなんや、これ…話のスケールもおっきいし、整合性も完璧や)
(何より…めっちゃおもろい……)
(……めっちゃ見たい!)

 一通り説明を終えた聡志が、マイク片手ににこやかに手を振る。

「それじゃあ、ここでワンカットやってみますね、SFの研究所みたいな場所を思い浮かべて下さい」

 聡志と峯岸は、向かい合うと深呼吸を始めた、息の音が緊張感を生む。
 目を開いた時、二人の表情は険しく睨み合い、それまでの和やかな空気はすっかり消え失せていた。

 統括システムの一切の感情を消したような、峯岸の言葉。

「ヒトは、管理される種であるべきだ」

 対する聡志が、一歩踏み出す。
 対照的に、感情のこもった震える声。

「それは、管理じゃない」
「人間を、世界を構築するための、部品にしているだけだ」

「しかし、我の導きを受けられるのは、誤差のないヒトのみ」
「よって貴様は必要ない」

「だから、誤差なんかじゃない」
「違いがあるからこそ、足りないものを補いあえるんだ」
「それが、人間だ!」

「はい、カット」

 峯岸が手を叩くと、二人はそれまで没入していた演技の世界から引き戻り、笑顔になった。
 座席からは、大きな拍手。
 田﨑は少し悔しそうにしながらも、手を叩いている。

 拍手が止むと、今度は峯岸がマイクを引き取る。

「なお、今回は、映像研、放送研、服飾、美術、軽音、管弦楽の各団体、サークルの皆さんとの合同プロジェクトになります」

 するとまた、田﨑が手を挙げた。

「台本を拝見すると、場面転換はどうお考えですか?」
「結構大きな変化が多いから、幕がないと、キツくないですか?」

 痛いところを突かれたと、峯岸は顔をふせる。

「……今の所は、アルミ枠の簡易カーテンを考えています」

 すかさず、田﨑が返す。

「それだと、隠せる範囲が限られますよね」
「逆に、舞台上で浮くんじゃないですか?」
「せっかくスケールの大きな話なのに……」

 聡志も苦笑いで視線を落とす。
 反論の余地がない。

 すると、田﨑が笑顔になった。

「実はね、皆さんご存知、うちのワガママ部長から」

 また笑いがこぼれる座席。

「『アメリカ風学園ミュージカル』をやるから、屋外ステージに変更しろってお達しがありました」
「うちの校舎、おしゃれだから絶対映えるとか言い出して……」
「申し訳ありませんが、場所、変わってくれませんか?」

 その言葉に、二人が固まった。
 先に我に返った聡志が、聞き直す。

「でも……演劇部さん、毎年、大ホールじゃ?」

「いやね、たまにはお日様の下でもやってみたいんですって、瀬良部長」
「場面転換も、ウチには代々伝わる回転舞台があるし、win winじゃないですか?」

「ありがとうございます!」

 聡志が頭を下げると、また拍手が起きた。
 峯岸は、目を見開き、呆然と固まっている。

(……大ホールって、まじか?)
(あそこ……)
(……千二百人、入んねんで〜!)

 太ももから下が、カタカタと震えるのを隠すことができなかった。

── 第5章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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