第三章
分界
ゲーセンの入口に隣の県立山田水林工業の井上達がたむろしている。井上は本来は強くない。翔太は知っていた。柔道崩れ。でも一緒にいるチンピラがヤバい。キレたら何をするかわからない。飯島、自称ムショ帰り。
ひっそりと通り抜けようとする。しかし「一緒に遊ばない」。「ごめんなさい」そう言った美波の手をつかんだ飯島。下卑た笑い。「逃げんな」。
翔太は少し遅刻した。当番が長引いた。黒板を拭いて、窓を閉めて、それだけのことだ。
駅前のゲーセンに着いたときの違和感。美波の声がした。いつもの気の強い声じゃなかった。
井上、加藤、大森たちだった。グレーな連中。その上に地元では有名なチンピラ、噂では人を一人殺した飯島。
僕は鞄を置いた。止めてください。そう言った。自分でも驚くくらい静かな声だった。
井上が振り返った。一瞬、止まった。知っていたのだ。相田翔太。
地区チャンピオン。その名前を。
三年生のプライド。新入生代表、おこちゃま、引っ込んでろ。しかし負ける気はしなかった。井上が胸元をつかんだ。身体が勝手に動いた。きれいな一本背負い。井上はまるでショウリョウバッタのような格好で伸びていた。
テメー。飯島が前に出る。手下の前だった。退けなかった。それが全てだった。強さへの恐怖より、仲間への面子が勝った。僕は、その躊躇を見た。見てしまった。止まれるのに、止まらない人間の目を。強さではない。 なりふり構わない自我。負けるわけがない。
あの目が、全てを決めた。飯島がナイフを出した。美波の悲鳴。まるで映画の悪役のような大振り。一回交わし脛に蹴りを叩き込む。鈍い音。折れたようだ。
その後のことは、あまり覚えていない。
美波が、震えていた。翔太くん、と言った。
僕は鞄を拾った。行こう、と言った。
手を繋いで走った
ちょっと美波と仲よくなれた。そう思った。
あの瞬間、僕は何も怖くなかった。
それが、間違いだった。
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