第5章 旅立ち
町は、だんだん古くなっていく。壁のひび割れが増えて、石のかけらが時々落ちてくる。大人たちはそれを見て見ぬふりをする。壁はこわれない、ということになっているから。
髪の長い少年が、ある日言った。「いつかきみは、町を出る。きっとわかるよ」
「何がわかるの?」
「壁がなんなのか」
僕は信じなかった。でも、仲間たちが一人、またひとりと町を出ていった。ある朝起きると、隣の席がからっぽになっている。先生は何も言わない。みんなも、何も言わない。いなくなった子のことは、誰も話さない。
僕にも、旅立つ日が来た。
父さんと母さんが、門のところまで来てくれた。母さんは泣いていた。父さんは泣いていなかったけど、握手した手が震えていた。
髪の長い少年は、壁の上に立っていた。初めて会った夜と同じ場所だ。月の光のかわりに、朝日を後ろから浴びていた。
「どんな暗やみにも、必ず出口がある。あの丘で見た景色を、忘れるな」
「きみは、一緒に来ないの?」
「僕は、行けない。でも、待っているよ。ずっと」
なんで行けないのか聞かなかった。聞けなかったんじゃない。聞かなくていいと思った。理由はわからない。ただ、そう思った。この少年には、この少年の事情がある。僕が知る必要のない、何かが。
僕は歩き出した。誰も教えてくれなかった、壁の外の世界へ。
振り返ると、朝の光の中で、髪の長い少年が少しだけ口を動かしていた。あの歌だ。声は聞こえない。でも、わかった。
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