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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

目次(11 章・いまは第 6 章)
  1. 壁の向こうの少年
  2. 第1章 壁の町
  3. 第2章 髪の長い少年
  4. 第3章 壁の声
  5. 第4章 声が出ない夜
  6. 第5章 旅立ち
  7. 第6章 壁の外
  8. 第7章 夢の村
  9. 第8章 英雄はいない
  10. 第9章 声の正体
  11. 第10章 僕の言葉
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第5章 旅立ち

町は、だんだん古くなっていく。壁のひび割れが増えて、石のかけらが時々落ちてくる。大人たちはそれを見て見ぬふりをする。壁はこわれない、ということになっているから。

髪の長い少年が、ある日言った。「いつかきみは、町を出る。きっとわかるよ」

「何がわかるの?」

「壁がなんなのか」

僕は信じなかった。でも、仲間たちが一人、またひとりと町を出ていった。ある朝起きると、隣の席がからっぽになっている。先生は何も言わない。みんなも、何も言わない。いなくなった子のことは、誰も話さない。

僕にも、旅立つ日が来た。

父さんと母さんが、門のところまで来てくれた。母さんは泣いていた。父さんは泣いていなかったけど、握手した手が震えていた。

髪の長い少年は、壁の上に立っていた。初めて会った夜と同じ場所だ。月の光のかわりに、朝日を後ろから浴びていた。

「どんな暗やみにも、必ず出口がある。あの丘で見た景色を、忘れるな」

「きみは、一緒に来ないの?」

「僕は、行けない。でも、待っているよ。ずっと」

なんで行けないのか聞かなかった。聞けなかったんじゃない。聞かなくていいと思った。理由はわからない。ただ、そう思った。この少年には、この少年の事情がある。僕が知る必要のない、何かが。

僕は歩き出した。誰も教えてくれなかった、壁の外の世界へ。

振り返ると、朝の光の中で、髪の長い少年が少しだけ口を動かしていた。あの歌だ。声は聞こえない。でも、わかった。

── 第6章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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