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壁の向こうの少年

abejunichi

6,785 字

内面の成長を描く寓話的ファンタジー

"その扉は、君の内側からしか開かない。"

KID Aを改稿した児童文学版

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第5章 旅立ち

町は、だんだん古くなっていく。壁のひび割れが増えて、石のかけらが時々落ちてくる。大人たちはそれを見て見ぬふりをする。壁はこわれない、ということになっているから。

髪の長い少年が、ある日言った。「いつかきみは、町を出る。きっとわかるよ」

「何がわかるの?」

「壁がなんなのか」

僕は信じなかった。でも、仲間たちが一人、またひとりと町を出ていった。ある朝起きると、隣の席がからっぽになっている。先生は何も言わない。みんなも、何も言わない。いなくなった子のことは、誰も話さない。

僕にも、旅立つ日が来た。

父さんと母さんが、門のところまで来てくれた。母さんは泣いていた。父さんは泣いていなかったけど、握手した手が震えていた。

髪の長い少年は、壁の上に立っていた。初めて会った夜と同じ場所だ。月の光のかわりに、朝日を後ろから浴びていた。

「どんな暗やみにも、必ず出口がある。あの丘で見た景色を、忘れるな」

「きみは、一緒に来ないの?」

「僕は、行けない。でも、待っているよ。ずっと」

なんで行けないのか聞かなかった。聞けなかったんじゃない。聞かなくていいと思った。理由はわからない。ただ、そう思った。この少年には、この少年の事情がある。僕が知る必要のない、何かが。

僕は歩き出した。誰も教えてくれなかった、壁の外の世界へ。

振り返ると、朝の光の中で、髪の長い少年が少しだけ口を動かしていた。あの歌だ。声は聞こえない。でも、わかった。

── 第6章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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