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とある大正新婚夫婦の異世界転移サバイバル!日記

93,514 字

異世界転移、夫婦愛、家族の再生、コミカルサバイバル

"大正ロマンと異世界サバイバルが織りなす、笑いと涙の家族物語。"

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第十一話 旦那様、あまりにご無体な仕打ちです 俺は嫉妬深い夫じゃない!

タマを抱えたまま、川より手前で千草に追いつく。
さすがに走る速さは、祥吾が勝っていた。

(走りで遅れをとっては、軍人としての面目が立たん)

ほっとして、後ろから千草の手をつかもうとするが、
千草の隣を併走していた疾風が、祥吾の手を鼻ではじく。

(こいつ、主になんて態度だ!)
長年の相棒のあまりな仕打ちに腹を立てる祥吾
「疾風、もういいのです
 旦那様、勝手をいたしまして申し訳ございません」
殊勝に謝る千草だが、その様子を、祥吾は何故か素直に受け取れない

不審げに見る祥吾に、うろたえる千草。

「そ、そうでした、昼餉を用意しなければなりません」

そう言って、そそくさと屋敷に戻りはじめた。

その後を、疾風とともに付いていきながら、
小声で、疾風に聞く

「なあ、このままで終わると思うか?」

当たり前のことを聞くなというように、疾風はブルルと鼻を鳴らした。

昼餉は、祥吾が恐れるような食材はなく、
朝餉の時の炎の龍も、いなくなって
心穏やかに済ますことができた

心穏やかでなかったのは、その後だった。

片付けも早々に、川の発見でできなかった牛の搾乳をやると言い出した。

「そうか、では、一緒に——」
「いえ、私一人で大丈夫ですわ」
「しかし——」
「結界内ですし」

千草の言うのももっともだが、ここは引いてはいけない気がした

「いや、結界内といえど、どんなことが起きるか分からん」
「けれど、旦那様もお忙しいでしょうから」
「この状況で、俺に忙しいことなど何もないのだから、遠慮はいらん」
自分に悲しく突き刺さる台詞まで言って譲らない

こんな事が何度も続く

「畑に行ってくる」
「庭の掃除に」
「蔵の様子を見に」
「離れの掃除を」
などなど

すべてに祥吾は付いていく。
(千草は、必ず外へ行こうとするからな)

「旦那様、あまりにご無体な仕打ちです」

千草が恨めしげ言う

その様子に、いつか読んだ小説内の情景が重なった

(今の俺は、あの小説の嫉妬深い夫と同じなのか?いや、ちがうよな)

第十二話 地震の日、旦那様の許可を—— すいません……もうそれ以上は言わないで下さい……

無意味な戦いを繰り広げたせいで、無駄に疲れた二人は、
やっと妥協点を見いだした。

結界の外へ行くことを許す代わりに、自分と疾風を必ず連れて行くこと

「旦那様は分かりますが、なぜ、疾風を?」

「何かあったときに、千草を乗せて結果以内へ逃がすためだ」

「旦那様は?」

「お前を逃がすための時間を稼ぐ」

「いけません! それでは、本末転倒です! 私が、旦那様が逃れるため時間を稼ぎます!」

「この前も言ったが、俺がお前をまもりたいのだ」

祥吾は、慎重に言葉を選んで言った。
この間の表情が消えた千草を思い出す。
千草は、とまどいながらも頬染める

「しかし——」

「それでは、外へ行くのはあきらめるか?」

「いえ、それは——」

どちらかを選ぶ葛藤に千草は言葉が続かない
だが、やがて意を決したように言った
「……分かりました。危険な場合は、疾風と共に逃げます。
 けれど、旦那様も、決して無理をなさらないで下さい」

その目は真剣な耀きを帯びていたのだが——

祥吾と疾風は目と目で会話した

(本当に逃げると思うか?)

疾風は、自信たっぷりに首を横に振った

とりあえず、形の上では、約束させたが、
すぐにでも、外へ行こうとする千草を、
祥吾は、留めた。

「その前に、やるべきことがある

千草は不満げに問うてくる

「なんでございましょう」
「この屋敷と敷地の状況を確認することだ
 『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という言葉がある
 まず、この屋敷の状況を正確に把握して——」

「それなら、もう終わっております」

さえぎるように千草が言った。
その意外な答えに、
「はあ?」
と間の抜けた声が出る。

「な、なに、どういうことだ?」

「こちらにおいで下さい」

千草は、そう言うと、祥吾を彼の書斎に連れていき、
積まれたいたていた、資料の一番上にあったものを
机に広げた。
「これをご覧下さい」

それは、この屋敷の配置図だった。

「千草、これはどうしたのだ」

驚いた祥吾が問うと、

「ここに置いてありました」
「ここに? どうして千草は、この図を知っていたのだ」
「それは——」
千草が、急に言いにくそうに口ごもる。

「勝手に俺の部屋の入って資料を見たのか? それなら気にしなくても良い」
祥吾は度量の大きさを示そうと鷹揚に言った。

「はい、申し訳ありません。地震があった翌日、
 旦那様の言われる『孫子』の言葉を、私も思い出しまして
 この屋敷と敷地を調べる資料がないかを、ここに探しに参ったのです。
 旦那様の許可をいただかねばと思ったのですが、
 何分、そのぉ……」

再び、言いにくそうに口ごもる千草

「すいません……。わかりました。もうそれ以上は言わないで下さい……」

涙目になりそうな祥吾を、窓の外で疾風がヒヒーンと笑った
 

閑話 祥吾の異世界日常日記1

千草は、毎朝家畜たちの厩舎を回り、家畜たちの様子を祥吾に報告している

この日は、牛たちの報告をしていた。

「それでですね、牛のポチが——」

「ちょっと待て、鶏のタマは聞いたが、牛は聞いていないぞ」

「そうでした、ご報告するのを失念しておりました
 実は、今朝搾乳の際、牛さんと読んだのですが
 返事をしてくれなくて」

「そ、そうか」

「ポチと呼んだらモォーと元気よく返事してくれましたので」

「もういい それでこちらも2頭ともポチなのか」

「はい、どちらもポチの名を譲りませんでしたので、
 ポォチとポチィというように呼ぶことにいたしました」

「まさかと、思うが、タマもおなじか!?」

「その通りでございます。こちらは、3羽おりますので、
 タマ、タァマ、タマァとなっております」
「そうか、実に役に立つ報告だ」

「はい!」

投げやりに言った言葉に、うれしそうに返事され、
ひどく後ろめたさを感じる祥吾だった。

閑話 祥吾の異世界日常日記2

千草が、祥吾にお願いがあるという
料理の指南書のようなものがないかということだった

「千草は料理は上手じゃないか」
「とんでもありません 私などまだまだ未熟者でございます」

「謙遜しなくてもいい 俺は千草の料理はうまいと思っているぞ」

祥吾の言葉に、頬を染めて嬉しそうに笑う千草。
しかし、すぐに

「旦那様にご満足いただけているとは、
 こんな嬉しいことはございません」
 けれど、これに満足することなく
 精進しなければ」

ぐっと拳を握り、真剣な顔をする。
その勢いに気圧され気味の祥吾

「ま、まあ、あまり無理をせずにな」
「ありがとうございます
 時に旦那様」
「なんだ」
「西洋菓子はお好きでしょうか?」

「そうだな、俺は下戸ではないが、
 どちらかといえば、甘いものの方が好きだな
「それはようございました
 実は、西洋菓子を作ってみようかと思いまして」
「それは楽しみだ」

千草も楽しそうに言う

「はい、私も初めていただきますので楽しみです」

その物言いが、少し気になった祥吾は、何気なしに聞いた

「お菓子など子どもの頃に、よく食べていたのではないのか?」

「いえ、私は食べたことはございませんでした
 子どもの頃の甘いもと言えば、花の蜜や森の果実でしょうか
 あれは、なによりのごちそうでしたわ
 けれど、あまり量がありませんので——」

なおも、子どもの頃の美味しかったものを、懐かしそうに語る千草

その顔を見ながら、いろんなお菓子を作ってもらおうと決心する祥吾だった。

閑話 祥吾の異世界日常日記3

朝餉の膳の前で、祥吾は唸っていた

「旦那様、いかがされたのですか?」

不審そうに聞く千草に、至極まじめに祥吾は答えた

「うむ、この卵かけご飯に、しょうゆを入れるべきかを思案しているのだ」

千草が、祥吾のお膳を見ると、お茶碗のご飯が、七色になっている。

「あら、きれい」

思わず千草が、歓声をあげる

「そうなのだ、あまりに見事な色合いなのでな
 ここに、醤油をたらして、色が汚されるのがしのびなくてな」

「それでは、醤油をたらさずにお召しあがられてはいかがでしょう」

「何を言う! 卵かけご飯に醤油を垂らさないなど、仏作って魂入れずだ!」

「旦那様が、醤油を入れるのが忍びないのなら、私が——」

そう言って醤油を入れようとする千草の前から、自分の茶碗を隠す

「ま、まて、もう少し鑑賞してからだな——」

だが、醤油差しをもって、お茶碗に入れようとする千草

「し、醤油はいらん」

叫びながら、卵かけご飯を口にかき込む祥吾

その瞬間、クワッと目を見開き、驚いたように卵かけご飯を見る。
そして、一気に残りをかきこむ。

「なぜだ——」
一口食べて、手が止まる。

「醤油もないのに、美味いぞ」
気がつくと茶碗が空になっていた。

「そうなのです?」
「ああ、今まで一番美味しいぞ」

その時、千草が笑っているのに気付く。

「千草、知っていたな」

「いえ、卵かけご飯は、知りませんでしたが、その卵は、どんな料理にしても
 調味料なしで美味しくできあがりますの
 ですから、きっと卵かけご飯もと思ったのですわ」

そう言って千草はころころ笑う。

その姿を見て、まあいいかと祥吾も笑うのだった。

 

── 第7章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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