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Momoー罪と贖罪の桃太郎譚ー

ryo.m

18,028 字

ダークファンタジー、ブラックコメディ、寓話

"暴力の因果を断ち切り、システムを超越する、魂の贖罪と家族の物語。"

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第三章

「即座に地獄へ異動処分――強制送還とする!」
光の床が裂け、底なしの闇へと引きずられていく憐仁郎。
その絶叫を、桃太郎の声が遮った。
「待ってください。最後に、父さんと母さんに話をさせてあげてください」
治安維持隊の動きが止まる。
桃太郎はおじいさんの背中を優しく押し、
「行って、父さん」
と促した。
おじいさんは震える足で歩みを進め、拘束された憐仁郎の前に、ゆっくりと膝をついた。
そして、床に額をこすりつけた。
天国の住人が、地獄へ落ちる罪人に深く頭を下げている。
しかし、憐仁郎の濁った目には、激しい侮蔑の色が浮かんでいた。
彼は血を吐くように笑った。
「……ハッ、ハハハ! 白々しいんだよ、クソジジイ!
今さら被害者面して、聖人ぶって謝れば許されると思ってんのか!?
俺の人生を、十年間をめちゃくちゃにしたのはお前らだ!」
罵倒の嵐の中、おじいさんは顔を上げなかった。
その目からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ち、床を濡らしていた。
おじいさんは嗚咽を漏らしながら、崩れ落ちるように呟いた。
「……憐仁郎。
俺はなぁ、地獄で何百年反省しても、自分の罪を全うに悔い改めたつもりでいたんだ。
……だが、違った。
今、こうして君の怒りに燃える顔を目の前にして、初めて分かった……。
俺は、自分の犯した罪の本当の深さを、何一つ分かっちゃいなかった……!」
おじいさんは、自らの胸をかきむしるように叫んだ。
「俺たちが現世で面白半分に振るった暴力が、君という一人の人間の魂を、これほどの憎悪と苦しみの化け物に変えてしまった!
君の清らかなはずだった人生を、俺たちのクソみたいな手で、根こそぎ奪い去ってしまったんだ……!
許してくれなんて言えねぇ。
俺は、本当に、取り返しのつかないことをした……!」
隣で、おばあさんも声を上げて泣き崩れ、静かに頭を下げ続けた。
「ふざけるな……!
泣けば済むと思うな!
俺は、俺はなぁ……っ!」
憐仁郎はさらに罵ろうと口を開いた。
だが、その言葉は続かなかった。
老夫婦の流す涙には、自己保身も、偽善もなかった。
そこにあるのは、自分たちの過去の悪業が「目の前の若者の魂を破壊した」という、あまりにも遅すぎた真実への、身がよじれるほどの絶望と悔恨だけだった。
沈黙が、重く、長く、その場を支配した。
長年、誰も認めてくれなかった自分の「被害」。
ただ理不尽に奪われ、誰にも理解されず、だからこそ復讐の鬼になるしかなかった孤独な魂。
それを、加害者本人が、今この瞬間に、すべて受け止めている。
憐仁郎の瞳から、狂気の光が少しずつ消えていった。
代わりに、十数年もの間、憎しみの裏側に隠され、凍りついていた「傷ついた少年のような脆さ」が顔を出す。
「……ずるい、だろ……そんな顔、するなよ……。
俺は、お前らを……」
憐仁郎の目から、堰を切ったように本物の涙が溢れ出した。
復讐のために神さえ騙した男の硬い殻が、本物の謝罪と痛みの共有によって、ついに砕け散った瞬間だった。
彼は声にならない慟哭を上げながら闇へと落ちていった。
だが、その顔に、もうあの醜い狂気は残っていなかった。
――こうして危機は去り、天国に再び静寂が戻った。
しかし、おじいさんとおばあさんの胸には、すっきりしない重い塊が残っていた。
「直接しばかなければ、それで『聖人』になれたつもりだったのかねぇ、婆さん。
俺たちは結局、システム――国家権力を使って、あいつを地獄へ叩き落としただけだ。
合法的な手段にすり替えただけで、誰かを排除することでしか平穏を守れないバカなままなのかもしれないわねぇ……」
己の「正義」に潜む欺瞞と傲慢さに気づき、項垂れる両親。
その肩に、桃太郎がそっと温かな手を置いた。
どこか哀しげで、それでいて果てしなく優しい眼差しで両親を見つめ、静かに言葉を紡いだ。
「だけど……正しいことと、悲しくないことは違うよ」
おじいさんは溢れる涙を拭うこともできず、ただ小さく、何度も頷いた。
おばあさんも、その手を強く握りしめる。
山太郎と川太郎は、何も言わず、ただ静かに両親の側に寄り添った。
地獄へと続く闇の穴をも、天国の夕日はどこか温かく照らし返しているのだった。めでたしめでたし

『MomoーBeyond Justiceー』

── 第7章 了 ──

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