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神の帰還

いらいじゃ

98,495 字

壮大なファンタジー、成長と愛の物語

"神と悪魔が交錯する世界で、少年は愛の力で運命を切り拓く。"

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第六章

1

 宿場町の夜から十数日が経過した。一行は、背の国最大の港町・マナに到着していた。ここから海路を使って、根の国に行くことになる。
 3人は当初予定していた大きな街道からマナに向かうのをやめ、国境地帯を縫うように細い街道を使い、道を進んだ。
 宿場町で目をつけられていたことの警戒のためだが、人の少ないところを進もうというのは、アルミスの強い希望だった。
 宿場町で町の人々を巻き添えにしたクレイの戦いを、アルミスは強く責めた。クレイもまた、それに反論はしなかった。
 クレイ自身、あの戦いに関しては、自分の意志と、胸の中の者の意志、そのどちらが働いたのか、確信が持てないと、つぶやくように言った。この十日間、アルミスとクレイの関係はずっとぎくしゃくしていた。特にクレイは自分の考えに沈み込むことも多かった。
 夜、アルミスは時々、クレイが小さな笑みを浮かべているのを見た。手をゆっくりと握り、眼はどこでもない虚空に注がれている。それでいながら、時に眼に不安を宿らせてアルミスを見るのだ。
「どうしたの? 何を考えているの?」
 アルミスは何度その声を出そうとして止めただろう。クレイは何も話してくれない。自分もまた、きつく問いかけられない。自分が本音をぶつけてしまったら、クレイの心が、二人の関係が壊れてしまいそうだ。こんな苦しいことは初めてだった。
 クレイの胸に潜む、あの存在は一体何なのだろう。クレイは断片的にしかそのことを話してくれない。あの存在は、「恐怖」を糧としてその力を増すという。人間が放つ恐怖は“オレンジ色の光”としてクレイの目に見える。その光が増すほど、より大きな力がなだれ込んでくるという。
 クレイ自身が、恐怖を求めるその存在に恐れを抱いていることは明らかだ。しかし、強く魅了されてもいる。変身したときの体験を話す時の、クレイの熱に浮かされたような目の光。そして誇らしげな声。
 バーノルは「男なら誰でも自分の力が大きくなれば少しくらいおかしくなる」とはいってくれる。しかし、バーノルの目の中にも懸念の光があるのをアルミスは知っている。アルミスにも、クレイ自身にもわからない、はっきりと邪悪さを感じさせる魔法の力、どうすればいいのだろう。

 バーノルにはそれとは別にもう一つ大きな懸念があるとアルミスとクレイに教えてくれた。それは、“噂”だ。黒い、巨大な怪物が東の宿場町を燃やしたと、その噂が信じられないスピードで広がっている。森の中での凶猟鶏との戦い、三人の他、誰も見たことのない戦いまでその噂には加わっていた。酒場での人々の話題、昼間の井戸端会議でも、駅馬車の中でも声高に怪物の噂が話されていた。
 この時代、こんな速さ、正確さでは噂は伝播しないと、バーノルは語った。
 しかも、不思議なことに、魔法使いの子供達や(巡礼者の格好はしているが)、大きな体の戦士はその噂には登場しないのだ。誰かが意図的に、黒い怪物への恐怖、それだけを巧妙にあおっているのだという。
 これは、どういう事なのだろう。
 あの宿場町での神官と民兵。地方の神官があんな強力なアースジャイアントなど用意できるわけがない。あれは“中央”ですらそう多くはいない、大魔法使いの一人だとバーノルはアルミスとクレイに説明してくれた。「神殿」の人間達は特別な魔法でお互いに連絡を取り、さらに特別な魔法の移動手段を持っているという。“魔法”の力がなければ、クレイとアルミスの位置がわかっているような手を打てないだろう。
 「今回の噂の伝播にも、不自然な、“魔法”の匂いがある」バーノルは呟くようにアルミスに語った。しかし、そうなると、今までのような直接的な手段ではなく、噂を使って人々をあおるような事をしているのは何故なのか。
 わからない。
 アルミスはそのバーノルの心配事を考えすぎだとは言い切れなかった。アルミスはもう一つ大きな不安を抱えていた。クレイは、自分の噂にどのような感想を持っているか、わからないところがあるのだ。クレイの怪物は恐怖を食べて大きくなる。多くの人が黒い怪物に恐れを抱くこの状況を、ひょっとしてクレイは喜んでいるのではないか、そう考えるとアルミスの胸は不安にうずいた。
 バーノルの心配が確信に変わったのは、マナに到着してからだ。根の国に行くためには、この街から海路を使うしかない。その港が、封鎖されていた。根の国からフォゴルの神官戦士の一団を乗せた「羽ばたく船」が三日前にやってきたのだという。
 マナは大混乱に陥った。街の噂によればマナを守る背の国の軍は不満を持ちながらも、静観の構えを取っている。羽ばたく船は現在、港の真ん中で町全体を威嚇するように停泊している。
 このような暴挙は、背の国が精霊信仰から、フォゴルを国教とするに至った十年前の戦争以来だ。町には押し殺したフォゴルへの恐怖と不満が充満していた。
 バーノルが特に注目しているのが、今回の神官戦士の一行は「大神官アグン」に率いられていると言う噂だ。根の国の最重要人物といえる人間が、例え実質的な支配の形にあるという国とはいえ、少人数でやってくるなどという事態はあり得ない。しかも下町の船宿のうわさ話にすらそれが広まっている。明らかに非常識だ。
 アルミスはアグンがやってきたこと、クレイの力が無関係でないことを感じていた。宿場町で彼らを捕らえようとしたのはフォゴルの神官だった。そして、アルミスの父であり、クレイの師であるボドルフは根の国の魔法の中枢にいた人物だ。何か、大きな陰謀が動いている。アルミスの考えにバーノルは同意してくれた。
 マナに到着してから2日、足止めをされたことで、どうしても色々なことを考えてしまう。アルミスは自分たちを取り囲むような罠と、クレイへの不安で心が沈んでいくのを抑えきれなかった。

2

 宿屋のバーノルの部屋に深夜、小さなノックの音がする。
 バーノルは目を開ける。
「何だ?」
 声に警戒は混ぜない。多分、ノックの主は……。
「……私です」
 消え入りそうな、アルミスの声。バーノルはゆっくりとドアを開ける。
 アルミスが真っ赤な目でバーノルを見上げる。ずいぶん迷ったのだろう。まだ物腰にためらいがある。
 バーノルはアルミスを部屋に招き入れ、自分はベッドに腰掛け、アルミスに椅子をすすめる。
「どうした?」
 アルミスは椅子に目を向けてから窓に移動する。木戸を開けると、夜の冷たい風が部屋に入ってくる。潮の匂いが濃い。
「どうしたんだよ、アルミス?」
 わざと声に軽い調子を混ぜて、もう一度聞く。
 アルミスは窓の外を見つめる。バーノルの方を見てから窓の方に向き直り、独り言のように、
「バーノルさん、私達があの山奥に帰りたいと言ったら、一緒に来て……くれますか?」
「……」
 アルミスが振り返る。唇を引き結び、じっとバーノルを見つめる。
「クレイと話し合ったのか?」
 小さく首を振るアルミス。そのまま下を向いてしまう。
「アルミス?」
 うつむいたアルミスの顔から、ぽたり、ぽたりと涙が落ちる。
「お、おい?」
 腰を浮かせたバーノルの胸にアルミスが飛び込んでくる。アルミスの肩が震え、押し殺した泣き声が漏れてくる。バーノルはぎこちなくアルミスの肩を抱く。
「助けて、バーノルさん、助けてください! 私はどうすればいいんですか」
 アルミスはバーノルの腕の中で、バーノルを見上げる。涙をこぼし、顔をくしゃくしゃにしているアルミスは、いつもよりずっと幼く見える。
「クレイがどうなっているのか、何を望んでいるのか、私にはわからない。このまま旅を続けていたら、きっともっと良くないことが起こる。そんな気持ちだけが大きくなっていくんです」
「アルミス……」
「お父様のことだってそう。私、村から出てすぐお父様が助けてくれるものだと信じていた。とにかく、何とか連絡は取れる、消息はつかめると。それなのにもう20日近くもたつのに手がかりもつかめない。このまま根の国に行って、どうなるの? お父様はどうなったの?」
 いつものアルミスとは思えない取り乱しぶりだった。アルミスはバーノルの服を両手でぎゅっとつかみ、揺さぶる。
「クレイと私、これからどうなるんですか? どうすればいいんですか?」
 今や声を抑えることをせず、アルミスはバーノルの胸に頬を当て、泣きじゃくる。バーノルはただ、アルミスの震える肩を優しい力で抱いた。
 ほんの少しだけ、時間が過ぎた。
「落ち着いたか、アルミス?」
 ささやくような、バーノルの声。アルミスは自分がバーノルに力一杯抱きついていることを急に自覚したようだった。顔を赤くしてあわてて身を離そうとするのを、バーノルは強い力で引き留めた。息がつまるような強い、しかし優しい力でアルミスは抱きしめられる。アルミスはバーノルを見上げる。
「バーノルさん?」
 アルミスの声が呟くように自分の名前を呼ぶ。バーノルは自分の胸が高鳴るのを感じた。自分でもびっくりするほどの優しい声で、ささやく。その声に、急に自分の中でアルミスの存在が大きくなった。自分の心を止めることはもうできなかった。
「これからどうなるか、何が起こるか、俺にもわからない。」
 そういってから、アルミスの肩を手でつかみ、わずかに身体を離してアルミスの眼を正面から見つめる。
「だが、約束する。俺が守ってやる」
 アルミスの涙に濡れた目が大きく開かれる。
「え……」
「俺が、必ず、守ってやる」
 アルミスの身体の力が抜ける。涙が再び溢れる。膝の力が抜け、座り込みそうになるのを背に回されたバーノルの手が、優しく、しっかりとアルミスを支えた。アルミスがおずおずと手を伸ばし、バーノルの身体に回すのを感じた。自分の胸に柔らかなアルミスのほほが押しつけられた。自分の鼓動が聞かれているだろうか、とバーノルは思う。

3

 アルミスは、今までにない心の安らぎを感じていた。もう一人で悩まなくていいのだ。バーノルの強い力を感じながら、想う。
 バーノルが見つめている。優しい眼だ。アルミスはバーノルの眼を正面から見つめ返してから、ゆっくりと目を閉じる。一瞬だけバーノルがためらう気配がする。そして、アルミスの唇に、乾いたバーノルの唇が重ねられた。
 バーノルの、匂い。アルミスは自分の込められる限りの力で、バーノルを抱きしめる。

 ガタン。
 物音に、二人は目を開く。
 開け放たれた戸口に、クレイが立っていた。
「クレイ……」
 アルミスがバーノルの腕の中で振り返る。クレイは目を大きく見開いて、立ったままだ。
 バーノルがアルミスの身体から手を離す。アルミスがクレイの方へ足を踏み出すと、クレイははっきりと身をひいた。身体がかすかに震えている。
 クレイは後ろを向くと、走り出す。次の瞬間、戸口で大きな音がする。クレイが廊下に倒れ込んでしまったのだ。
「クレイ!」
 アルミスは扉に駆け寄る。戸口のすぐそばに、うずくまっているクレイが見える。アルミスは、ゆっくりとクレイに近付く。
 クレイが振り返る。その顔が黒い光に照らされているのをアルミスは見る。クレイの胸の宝石が、黒い光を放っている。
「うわぁぁぁっっ!」
 胸をかきむしるクレイ。
 ゴウッ。
 クレイの胸から吹き出した黒い竜巻がクレイを覆う。その竜巻が一瞬割れて、クレイの顔が見えた。クレイは必死の表情でアルミスに向かって叫んだ。
「アル、バーノルさん、逃げてっ!」
 クレイの顔は、叫びは、再び黒い竜巻に包まれていく。
 アルミスは呆然と立ちすくむ。不意に強い力で抱きかかえられた。バーノルがアルミスを抱え上げ、走る。アルミスは、宿屋の壁を、屋根を壊しながら黒い竜巻が大きくなっていくのを見る。
 バーノルは、アルミスを抱いたまま窓から身を躍らせる。宿の一階のひさしをつかみ、落下の速度を殺して着地する。二人とも部屋着のままだ。
「グオォォッッ!」
 屋根を突き破り、クレイの怪物が出現する。天空に向かって腕を差し上げ、大きな雄叫びを上げる。辺りが騒然となる。
「なんだあれは!」
「ば、化け物だ!」
 悲鳴と、叫び声。
 怪物はゆっくり周りを見回す。そして……アルミスとバーノルを見つけた。
「ガアァァッッ!」
 怪物が宿屋の2階から飛び降りる。バーノルは再びアルミスを抱えて、走る。宿屋周辺の路地は狭い。建物を破壊しながらクレイの怪物は二人を追う。
 バーノルは建物の影にアルミスを放り投げると振り返り、怪物と対峙する。両手を大きく広げ、足に力を込める。
 つかみかかってくる怪物の手をかわし、バーノルは渾身の力を込めて迫ってきた怪物の顔に拳をぶつけた。
 ガツン。
 怪物が大きく姿勢を崩す。さらにバーノルは足を振り回し、怪物の頭を蹴る。そのすさまじい衝撃に怪物が地面に叩きつけられる。
 肩で息をするバーノル。
 仰向けになった怪物がバネ仕掛けのように跳ね上がる。そのスピードのまま再びバーノルに手を突き出す。かわすことのできないバーノルは手を胸の前で十字にしてブロックする。
 ものすごい衝撃、バーノルは高く吹っ飛ばされ、建物の屋根に叩きつけられる。
 怪物は翼を広げ、空に飛び上がる。怪物は屋根の上で頭を振り、うめき声を上げるバーノルを見下ろす。眼があった瞬間、怪物はバーノルめがけて突進してきた。
 バーノルはすんでの所で身をかわす。怪物はそのまま建物を壊しながら、落下する。大きく開いた穴にバーノルも落ちかけるが、裂け目にしがみつき、身体を振って屋根の上に戻る。そのまま、隣の屋根に飛び移り、走る。再び翼を振るい、空を飛ぶ怪物がバーノルを追う。
 グオウッ!
 怪物から放たれた炎がバーノルに迫る。バーノルは次々と屋根に飛び移りながら炎をかわす。再び怪物が身体ごとバーノルに向かう。バーノルはとんぼを切って地面に着地する。建物の破片をまき散らしながら落下した怪物はバーノルを追おうと、破片の中でもがく。
 バーノルは崩れた建物から柱を抜き取る。両手の筋肉がぐうっと盛り上がる。
「うおおおっ!」
 渾身の力で怪物に向かって振り下ろす。
 グワン。
 柱が粉々になる。姿勢を崩した怪物の身体を駆け上り、バーノルは怪物の顔面に拳をたたき込んだ。怪物の顔が大きく歪む。
「クレイっ! 正気を取り戻せ、元に戻れよっ!」
 1回、2回と拳を振るう。
 怪物の目が輝く。その巨大な手の平にバーノルを挟み込み、押しつぶそうとする。
「がぁぁぁっっ!」
 叫び声を上げ、四肢に力を込めてバーノルは怪物の力に対抗する。

4

「クレイ、クレイっ!」
 アルミスは逃げまどう人の流れに逆らい、もみくちゃにされながらバーノルとクレイを追いかける。涙で目の前がかすむ。何度も涙をぬぐいながらアルミスは二人の姿を探す。
 バーノルの叫び声。
 アルミスは、クレイの怪物がその巨大な手でバーノルをつぶそうとしているのを見る。
「やめて、お願い、やめてクレイ!」
 叫んで駆け寄ろうとする。
 その時。上空から降り注ぐ何本もの光の矢がクレイの怪物の身体を貫いた。
「ガアアアッ!」
 怪物は苦悶の声を上げる。バーノルへの圧搾がゆるむ。バーノルが怪物の腕から逃れた瞬間、再び光の矢の雨が降り注ぐ。穴だらけになるクレイの身体。
 クレイの怪物はゆっくりと上空を振り仰ぐ。怪物の身体の穴はシュウシュウと音を立て、ふさがっていく。
 アルミスは空を見上げる。下界の炎に照らされて、何体もの金属の鳥が飛んでいるのが見える。大きい。子馬ほどの胴体に、何倍もの巨大な羽がついている。胴体には鞍がついていて、真っ赤に輝く穂先を持つ槍を構えた男達がまたがっている。男達の鎧には鋭いとげが生えていて、兜は威嚇する悪鬼の顔の形をしている。
「神官戦士の“黄金鳥”だ」
 町の誰かが叫ぶ。根の国の、フォゴルの神殿が使役している混沌の生物、「黄金鳥」。実物は金色と言うよりはくすんだ銅に近い色なのだが、フォゴル神殿がその名を広めた。金属にしか見えない翼がしなやかに羽ばたくその異様な姿は、自然界の獣では決してない、異世界から呼び出された混沌生物だ。
 騎手は火の精霊を封じた宝石から灼熱の熱線を出す“火炎槍”を持つ神官戦士だ。彼らは上位神官のように精霊を操る能力を持たず、厳密には魔法使いではないが、見る者に恐怖を与える魔法をかけられた鎧と、火炎槍を持ち、黄金鳥の扱いに長ける。彼らの姿は無知な人々に“魔法”の実在と、恐ろしさを植え付ける。彼らはフォゴルの、根の国の力の象徴なのだった。
 今、神官戦士を乗せた黄金鳥はクレイの周りを囲むように旋回していた。自分たちの火炎槍の威力をじっと観察している。
 バッ。
 怪物は翼を広げる。3つの眼が、溢れんばかりの憎悪をたたえて黄金鳥たちをにらんでいる。空に向かって炎をはき、黄金鳥の陣形が乱れたところを一気に舞い上がる。神官戦士達は黄金鳥を操り、向かってくる怪物をかわし、背後の戦士が怪物を射抜く。威嚇の叫び声を上げる怪物。黄金鳥たちは巧妙にクレイをある方向に誘導していく。
「バーノルさん!」
 アルミスはクレイから逃れ道に横たわるバーノルに駆け寄る。バーノルは体を震わせながらゆっくりと立ち上がった。クレイの押しつぶす力に対抗し、四肢に力を込めすぎてまだガクガクとしている。
 そのバーノルの前にアルミスが立つ。アルミスは胸に手を当て、涙を流し、叫ぶ。
「私、クレイを傷つけてしまった。こんなことが起きたのは私のせい!」
 なおも叫ぼうとするアルミスの頬を、バーノルが叩いた。頬に手を当て、アルミスは大きく目を見開く。
 バーノルは眼に強い光をたたえて、アルミスに顔を近づける。
「クレイを信じないでどうする? あいつはあの時、『逃げて』と俺たちに言った。今のあの怪物が暴れているのは、あいつが望んでの事じゃない。アルミス、お前はあのクレイの叫びを信じろ!」
「バーノルさん……」
「まずはクレイを助けよう。いろいろ考えるのはそれからだ」
 アルミスは涙を拭いて、ゆっくりと頷く。バーノルはアルミスの肩に手を置く。アルミスはそっとバーノルの手に自分の手を重ねた。
「とりあえず、崩れてしまった宿屋から俺たちの持ち物を探し出す。それからすぐにクレイを追うぞ」
「はい!」
 アルミスとバーノルは走り出す。

── 第7章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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