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四感の檻

Makoto Yaoi

6,618 字

心理サスペンス・官能小説

"日常に潜む狂気、五感で綴る偏愛の心理サスペンス"

電車の中で、ある青年を見かけたことで男の妄想が始まります。車内という四角い空間の中で、男が自身の狂気じみた妄想に少しずつ囚われていくという物語です。

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エピローグ

つり革に手首をひっかけて、片手でスマホをいじる彼の隣で、私は自分の手をじっと見た。

手には最初から彼との繋がりなどなく、ただ皮膚のたるんだ男の手があるだけだったのだ。
彼に執着し、依存し、媚び、その瑞々しさを貪った小さな男は私自身なのだ。

何処か絵空事のように感じていた自分の行動が刃のように私を刺す。
恥辱の塊である小さな男が自分自身であるという現実を突きつけられて、
私は崩れ落ちそうになった。

これ以上はもう……。

私は自分の尊厳の欠片を拾い集めるかのように、これまでのすべての視線、すべての欲望に懺悔した。

電車のドアが開いたとき、雨上がりのむっとした重い空気ともに、
彼の汗とシャンプーのにおいが私の鼻腔を撫でた。
体の芯が熱を帯び始め、つり革を持つ手と、下腹部に力が入る。
熱い吐息が漏れる。

一連のそれはまるで獣のような条件反射であった。
拾い集めたはずの尊厳は、砂のように指の隙間からさらさらとすり抜け、
私の人間性は、車内の湿度の中に、音もなく霧散していった。
私は親指でつり革を撫で始めた。

そのつり革に彼が身を横たえていることを妄想しながら……。

電車が静かに、プラットホームに滑りこむ。

彼は網棚のリュックに手を伸ばし、肩にかけ、電車を降りていく。

だんだん小さくなる彼の背中を見送り、私は大きく深呼吸した。

つり革を持つ手から力が抜ける。

私も電車を降りる準備をする。

……今日も、いつものように毎日が始まる。

私は自分の中の狂気を静かに受け入れることにした。

── 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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