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literalconnotation ─ なみだの魔法円から現れたのはあたしでした。

連載中(書きかけ)

有城 砂卯

33,329 字

異世界ファンタジー、自己再生の物語

"涙の魔法円から現れたのは、新しい『あたし』だった。これは、傷つき、そして再生する魂の物語。"

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・5/destino≠Fügung:目的地は因果ではない

「旦那殴ってきました」

 あたし的には一世一代の受け狙いだったんだけど、やっぱ、傍らで倒れてる人がいる時に受けは狙っちゃいかんよね。
 スルーされちゃった。
 
 誰の反応もないし、体は床に下半身を縫い付けられたみたいに動かないし。
 腕にも、お腹にも力が入らない。
 でろーんって伸びて、蛸みたい、あたし、
 このまま、床に埋もれたいね。

 猛省。
 転がった位置から、ヴィザーゴさんの顔は見えない。
 あたしの目に入るのは、あたしを抱えてくれていた、真っ白な手。
 
 フォルティオさんが、厨房を出ていった。
 お医者さんでも呼びに行ったのかな?
 お医者……ヴィザーゴさんを診てくれるのか?
 
 肩に置かれたヴェーロさんの手を通して、ため息が聞こえる。

『今、何か言ったのだろう?俺たちにはメルの言っている言葉がわからない。現状は理解している。多くは語らなくて構わない。ルーモ』
 
 ルーモさんは、小さな器を手の中で光らせていた。
 ヴェーロさんは、いつの間にかあたしから離れて、石臼を持ってきてた。
 ……ヴェーロさんが触ってる時は、普通サイズに見えていたのに、現物はアタシの顔くらいありそうでした。
 ヴェーロさんは、あたしを背後から支え抱き起こしてくれた。

 そうして、起き上がったあたしはヴィザーゴさんの顔を、見ることができた。
 真っ白だ。
 
 ルーモさんが石臼の中のものを摘まんで器に振りかけてから、それをあたしに渡してくれるのだけど、腕が上がらない。
 痛くはないんだよなー。
 力だけが入らない。
 重い……かどうかもわからない。
 存在だけを感じ得る、動かない

 ルーモさんは、ちらとあたしの顔を見ると、深い溜め息を吐いた。
 溜め息を吐くと、幸せになれませんよ?
 
 ルーモさんは、器をあたしの手の中に納めると、一緒に持ってくれてる。
 でも、次に聞こえたのは、
『飲め』
 の一言。
 
 器の中には……スープなのかな?青緑の液状のものが入っている。
 青緑……って、口に入れても良いもんなの?!
 
『『飲め』』
 二重奏です。

 あたしは器の中身を、ちびちびと舐めていた。
 ルーモさんが支えてくれている器の位置が絶妙で、少しずつ飲めるようにしてくれている。
 ありがたい。
 後でその尻尾をブラッシングしてしんぜよう。
 生きる希望が湧いてきた。

 ヴィザーゴさんに対して、あんなにいやな顔をしていたフォルティオさんだけど、どこからか戻ってくると手当てを始めている。
 
 何を言ってるかはわからないけれど、時折ヴィザーゴさんを慮る単語が耳に入る。
 多分。

 ぱたぱたと厨房に、カヴァリーロさんとフィリーノさんが来て、フォルティオさんと話している。
 ん、わからん。
 マンションに行くまで、なんの疑いも持たずに理解できていた言葉が、まるでわからない。

 フィリーノさんが跪いて、あたしに目線を合わせる。
「お父さんは平気よ。あなたは、大丈夫?」
 あ、わかる。
 わかるけど。
 
 お父さん?
 ……もしやヴィザーゴさんのことか。
 作った、とか言ってまわるからだよ?ヴィザーゴさん。

「大丈夫です。ご心配お掛けしてすみません」
 と、言うけれど、フィリーノさんには通じてないみたい。
 きょとんとされてるお顔も、可愛らしいです。

 そうだよね。
 考えてみたら、翻訳機はあたしにしか着いてないのだから、そうですよね。
 それを思うと、ヴィザーゴさんはずっとフォローしていてくれたのかしら?
 親切……とは違う気もするけど、親切と受け取っておこう。

 ちびちびと舐めていたスープは、色はなんですけど、結構……かなり旨い。
 器の半分を平らげたところで、体がぽかぽかしてきた。
 ヴィザーゴさんから流れてきたのに似てる。
 ラノベなら、魔力的なにかなのかしら?
 なんてね。
 
 旦那を殴って、体内が反動でぼろぼろになったのは感じてたけど、一切の痛みはなかった。
し、ない。
 でも、感覚がないわけではない。
 一体どういう作りをした体なんだ?
 ヴィザーゴさんが元気になったら、問い詰めても良いよね?

 ……てか!
 ぽかぽか通り越して、暑いんですけど?
 てか!熱いっ!
 これ、なんなんっ!

 あたしの状態に気が付いたのか、肩に乗ったヴェーロさんとルーモさんの手から、ひんやりとした風みたいのが流れ込んでくる。
 お、熱く火照った体に……気持ちいいぜ。
 体の中の何かが、忙しなく蠢いている。
 血流より大きい。
 痺れた時と似てるけど、痛くない。
 力が漲ってきている。

「うぉー!立てる!立てたよ!ありがとう!ヴェーロさん!ルーモさん!」
 感極まって語りかけたけど、通じないんだった。
 でも、感謝は伝えなきゃだよね。
 お二人はきょとんとしてて、なんとも愛らしい。
 あたしはきょとん製造機か?

「くっ、ぷっ……くくくっ」
 聞き慣れた笑い声。
 ヴィザーゴさんが、体を起こす。
「大丈夫なの?」
 ヴィザーゴさんに寄ると、あたしが手にしていた器を取り上げて、飲みほされてしまいました。
「ルーモヴェーロ……これ、今のアキラにはキツいんじゃない?」
 何がだろう。

 そうしたら、あたしの肩からお二人の手が離れて、ぱちん、と指が鳴った。
 ぱちん。
「……ああ、ああ、わかったよ。……助かった」
 不思議な絆があるのだなぁと、思います。

 ————
 

「梯子」
「ふぉお!」
「……ふじ……」
「おやま!」
「ん、そう……で、日の出」
「うおぅ!うごいた!」

 ヴィザーゴさんが厨房で倒れて、あたしはなぜか今、居間であや取りを披露してる。
 フィリーノさんとカヴァリーロさんの愛娘、チャルマさん五歳と遊んでいるのだ。
 あたしの姿を見たフィリーノさんは、娘を隠せと言っていたけど、あたしはヴィザーゴさんの膝にいて、チャルマさんと対面している。

 フィリーノさんたちはいい人なんだと思う。
 ヴィザーゴさんの顔を見るなり、げって対応だったのに、倒れたら面倒を見るし、お子さんにも会わせている。

 チャルマさんは、村に年の近い遊び相手がいないとのことで、あたしに会うとテンションが上がっていた。
 一緒に表に行きたがったのだけど、「もう陽が落ちるからだめ」とフィリーノさんたちに止められてしまったのだ。
 なので、お部屋遊び。

 あや取りに使うには、立派な組み紐を渡されて、手頃な長さに切ってくれたのが勿体無い。
 余り毛糸でいいと言ったのだけど、「……毛糸?」な反応で、金糸の紐を切ってくれようとしたので、さすがに遠慮した。
 で、一人あや取り。

「もっとみせて!」
 と、目を輝かせるチャルマさんは、愛らしい。
「そろそろご飯ですよ」
 フィリーノさんたちが食卓に並べたのは、兎ではない。
「兎は間に合わなかったねぇ。明日のお楽しみだ」

 うーん……兎ねぇ。
 気は進まないけどね。
 で、あたしはいつまでヴィザーゴさんの膝にいれば良いんですかね?
「だって離れたら、アキラの言ってることが誰にも通じないよ?」
 やっぱりそうなんですね。

 あれ?ヴェーロさんは、メル呼びだったのに、ヴィザーゴさんは、アキラ呼びなんだ。
「ヴェーロたちは、言葉にしないからね」
 ふうん。
 色々と事情が異なるんですね。
「そういうところ、いいよね」
 どういうところでしょう?

 ヴィザーゴさんは、あたしを抱っこしたまま食卓に着こうとして、フィリーノさんに止められた。
 曰く、チャルマさんが真似したがると。
 まあね、分かりますよ。
 あたしだって、食事は一人でしたい。

 お夕飯は、野菜中心で美味しゅうございました。
 てか、食べられるのね。
 味も分かる。
 あたしの内臓、どうなっているんでしょう?

 ————

「あしたはわたしのたからものみせてあげる!」
 と言うチャルマさんと別れて、寝室に案内された。
 ヴィザーゴさんに抱っこされてるあたしと、ルーモさんと、ヴェーロさん。
 あたしはヴィザーゴさんに抱っこされるのがデフォになってる。
 いいんだろうか?
 
 みんなで同じ部屋です。
 ヴィザーゴさんとあたしは、親子認定なんだろうな。
 カヴァリーロさんが、出てくるなよと釘を刺しました。
 ほんと、なにやったんだよ、ヴィザーゴさん。
「ちょっと興が過ぎただけなんだけどねぇ」
 
 ……ルーモさん、ヴェーロさんの目も冷たいですよ?
 ほぅら、ヴィザーゴさんの目の前で、ぱちんって指を鳴らすじゃないですか。
 するんと、着ていたものはベッドに投げ出して、狐と山羊の姿になったルーモさんと、ヴェーロさんは床に丸くなってしまわれた。

「何故、ルーモさんたちが指を鳴らすと不機嫌になられる?」
「嫌がらせだからだよ。僕が出来ないからって、わざとやるんだ」
「出来ない?これが?」
 ぱちんと指を鳴らす。
「アキラまで……」
「ごめんごめん。うんと、怒ったときに取っておくよ」
 一瞬、訝しげな顔をしたヴィザーゴさんだけど、「それも面白いね」と吹き出した。
 全く、笑い上戸ですね。

 ヴィザーゴさんに聞きたいことは、山のようにあるのだけれど、どう聞けばちゃんと答えてくれるのだろう。
 どう聞いても、煙に巻かれそうだけれども。
「何でも聞いてくれていいよ。答えたかったら答えてあげる」
 必ずしも答えをくれるわけでは無いのですね。
 予想はつくけど。

「くくっ。そうだ、お散歩しよう」
「部屋を出るなって言われたじゃないですか。また、倒れますよ」
「あれはいつもよりちょっとだけ遊び過ぎただけだよ。食事もしたし大丈夫」
 大丈夫がちゃんと使われている。
 学習機能がある翻訳機なのかな?と何気なく耳たぶのピアスに手をかけてみた。
 なにが分かるわけでもないけど。

 ヴィザーゴさんが、指をくるっと回すと窓が開いた。
 冷たい夜気が部屋に混ざり、ルーモさんが、きゅっと尻尾を体に巻き付けてる。
 可愛い。
 て、窓を開けたってことは、そこから出る気ですか?
「そうだよ。扉はフォルティオが見張ってそうだ」
 だから、なにしたんですか!

「気になる?」
 と、流れてきた“映像”。
 え?あ、うわっ!
 清純なフィリーノさんの、えらく艶っぽい顔。
 カヴァリーロさん……ルーモさんになにをされているのか。
 ああっ!フォルティオさんっ!
 
 …………
 こりゃ警戒もされるわ。
 なにが行われてるかは容易に想像がつく。
「見てたの?」
「見てたねぇ」
 はあ……アクマだ。

 んで、あたしは抱っこされたまま、ピーターパンよろしくお空の散歩な訳ですよ。
 なんかね。
 いちいち驚きはしないけど、やる前に一言欲しいわけですわ。
 足が地面に無いというのは、なかなか居心地が悪いんだぞ?
 ……あ、ずっと抱っこされてるから地面には無いか。
「くくっ……!空を飛ぼう」
 遅い!

 足元に広がるメティイースト。
 薄い光が窓から漏れてる程度で、周りは闇だ。
 樹海は思った以上に暗く、墨で塗りつぶしてるみたいだ。
 空も真っ黒で、天の川が視界いっぱいに広がってる。
 天の川がミルキーウェイなのが分かる気がする。
 真っ黒な夜空の皿に、ミルクを流している。
 そんなミルクに、三角が貼り付けられている所がある。
 んー。あれって……
「それは日が昇ってからのお楽しみに取っておこう」

 いや、想像に難くないぞ?

「ねえねえ?ヴィザーゴさん。また燃費切れで落ちたりしない?」
「落ちるくらいなんともないよ」
 そうですか。
 そういうことではなかったんだけど、それでいいや。
 
「……我が錨を其の儘に、嵩なりの在りかを移行せよ」
 呪文かな?
 マンションの行き帰りのふざけた呪文に比べたら、呪文っぽいけど、ヴィザーゴさんらしくない。
 聞かせたいのかな?
 錨……動かないようにして、移行?
 なんのこっちゃ。

 ふわっと空気に包まれて、段階を経て、足元の明かりが強くなる。
 月は同じ。
 メティイーストの辺りは闇のまま変わることはないけど、森の周りが明るくなる。
 四……、五……、六……。
 空が濃紺になり、星が減る。
 ぶちまけられていたミルクが、川になる。
 七……、八……。
 数が追えてる自信はないけど、十を数えたとき見知った明かりになる。
 LEDの人工的な光。

 層……。
「ここは、地球なの?」
「君たちはよく、そう言ってるね」

 ヴィザーゴさんの白い整った顔に、銀色の髪が揺らぎ、月明かりのエフェクトを背負っている。
 頭のなかで月下のセレナーデが響き、戦闘準備が整い始める。
「……ぷっ」
 と、台無しな顔で笑い出すヴィザーゴさんは、ワルいヒトなのか、イイヒトなのか。
「どうだろう?善くはないかもねぇ」
「なら、イイ人なんじゃない?」

 一瞬だけ真顔になったヴィザーゴさんは、あたしを抱えたまま腰を折って笑い始めた。
 声をあげて。
「……ったく、君たちときたら。善良の思考は僕には到底、及びもつかないよ」
 
 褒められてる気がしないんですけど?
 
 
 
 

── 第7章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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