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重工のメカロニカ

連載中(書きかけ)

赤間世穹

69,848 字

ハードSF・異種族コンタクト

"元素の鼓動と科学の業が交差する、美しくも残酷な鉱石の星のクロニクル。"

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第6番:母なる大地

 じっと一人、金は広間のモニターを眺めていた。
 過去の異種はあまりにも傲慢だった。そして強欲だった。これこそが人間なのだろうと思わざるを得ないほどに。
 エリアMの枉磊おうらいの晶窟にいるロボットたちは今も尚採掘を続けているが、彼らは主の帰りを待っているように見える。
 しかし彼らに感情も意思もなく、プログラムされた命令をただ守っているだけに過ぎない。
 その証拠に氷と化した異種さえも採掘対象となっている。採掘された物は一部はウランに、他は金たちが貰い受け様々な研究に使用していた。
 その中の異種の氷はかなり興味深いものだった。氷のみを溶かして成分を調べ、構造も把握出来た。導師を治せたのもこれがあったからだが、とは言えこうなった異種の善悪を考えることは愚かにも思えた。
 今あるべきは導師のこと、彼ら過去の残骸をどうしていつまでも引き摺る必要があるのだ。だがそれを受け入れられないものがいるのは確か。
 どうしたものか、金はずっと黙考していた。
 「オーラム」
 背後から声が聞こえた。振り返るとセリウムがポケットに手を突っ込みながら仁王立ちしていた。
 「どうした?」
 「ああ。僕はねオーラム。彼があれらと同じ異種で、あれらと同じ学者で、それでいてあれらと違う正義、とはどうも考え難い。根本は同じだと思う、それこそが人間と言う生物だと、君も分かってると思うがね。つまるところ、異種は皆同じ。しかし個体差があるそれは僕らと同じ」
 金はただじっと聞いていた。
 「ドクター君は記憶が無い、それは事故の衝撃によるものと見て間違いない。だが何の為にここへ、もしくはの宇宙域へ来たのか。奴らの記録アーカイブはあまりにもデータが少なすぎる。故に未だ解明は出来ず仕舞いだ」
 「セリウムは導師をどう捉える?」
 「あれは善悪で切り捨てるものではない。我々元素体エレメンタムの集合体でありながら全く異なる種族で且つ、奴らとは異なるが故に異端であり道標とも成りうる綺羅星とも言える。奴の専門分野が知りたい、科学者はこの世の全てを掌握するが99.99%に足りない。分かるだろう? 分野から外れれば彼や我々すら無力だ。勿論今現在彼は無力だそれは変わらない。だが……まあ、カルシウムたちの言うことは分かるがね、水銀なんて試しただけだろう。アレに度胸は無い」
 「そうだな。彼は96時間前は惑星の話をしていた。セリウムは何か知っているか?」
 惑星と聞き、セリウムはかなり興奮した様子で早口でぶつぶつと言い始めた。
 「惑星! 記録にあったこの星は白い星らしい。その前の記録は青や赤や、サイズの違いからどこかの星からの距離までも書かれてあった。だが記録は途中で終わっていたりデータの復旧が困難なものもあった。君の話からすれば彼はもしかしたら宇宙の専門家かもしれない」
 「ふむ」
 セリウムの言葉を聞き、再び黙考した。
 宇宙の記録はこれ以上見つからないが、我々にとって外の世界の存在はあまりにも大きい。海生脊椎動物がどこから来るのかと言う時点で外の世界があることは分かっていた。しかしそれ以上を知る術は無かった。我々にとって他の空気や状態の違いはあまりにも致命的だ。しかし、異種の装備を調べたところではこの星とさほど変わらないようにも見える。もしかすると元素によっては外へ出て研究の幅を増やせるかもしれない。だがリスクがあまりにも大きい。もし、仮に本当に導師の専門が宇宙ならば、もしかしたら海生脊椎動物のことも分かるかもしれない。あれさえ排除出来れば、この地全てを調べ尽くすことが出来るのだ。
 「海生脊椎動物がまた増えた話はしたっけ?」
 セリウムは不意にそんなことを言った。
 「増えた?」
 「ん? ああ言っていなかったか。とは言ってもエリアCの岩壁辺りだ、まあ問題ないだろう」
 「しかし降りてきた場合、こちらが不利になる可能性が」
 「弱点は分かってる。問題無い」
 それじゃ、と言い、セリウムは広間を出て行った。
 金はただエリアMの方角の窓を見ていた。異種たちが恐れた人型にのみ反応する暴れる竜、早く滅殺しなければ。

  *

 「うわぁ!」
 導師は鉄に引っ張られ、宙に浮き、手を引かれるままに泳いでいた。
 どういう仕組みなのか、言わずもがな彼らは元素体だからか宙を泳ぐことは容易い。この星の空気は地球とは全く異なる上に彼ら元素体は自身の重ささえも調整できるというのか、いとも簡単に鉄は息を吐いただけで宙に浮いたのだ。鉛やベリリウムもまた同じ要領で浮き、鉛は賑やかな鉄の声を背に真っ直ぐとエリアPを目指していた。
 「良いだろ〜! ベリリウムも付いてきてるかー?」
 「勿論ー」
 「すごい! まるで魔法だ!」
 導師は話に聞いていた魔法のようだと歓喜していた。鉄は「なんじゃそりゃあ!」と笑い飛ばしているが、ベリリウムは首を傾げるだけだった。
 空中遊泳は直ぐに慣れたが、さすがに鉄の手を離すのはどうなるのか分からないためやめておいた。
 ふと、眼下に広がる景色を見た。白い地面に宙に浮かぶ岩石群、遠くの景色はぼやけていて見えないが何かが蠢くのを認識出来た。あれが、海生脊椎動物だろうか。そうであるならば向こう側はエリアMなのだろう、その反対側、向かう先がエリアP。MとPは巨大な鉱山で繋がっているのが視認出来た。山脈のようになっており、高さ的には地球で言うところのK2ほどだろうか。実際に見たことは無いので感覚的な例えでしかないが。それほどの高さの山脈はずっと奥まで続いているように見えた。
 「すごい……」
 「あれが枉磊おうらいの晶窟だよ」
 鉄に導かれながら山脈に見惚れていると、ベリリウムが答えた。
 「中すっげー広いぜ! あそこも行くから覚えとけよ!」
 「え? あの中に入るの?」
 「中が鉱脈で、クリスタルはあの中に沢山あって、一度採った後は96時間、つまり一日経てばまた生えてくる」
 96時間というのは先人が計った時間だろうか、まさか四日分の時間が経っていたとは驚きだ。
 言葉も出ない導師に鉄たちは他にも、と言って説明しようとしたが前方を行く鉛が「着いた」と言い、急降下し始めた。
 「よし、じゃあ降りるか!」
 そう言って鉄は導師を横抱きにし、そのまま速度を落としながら降りていった。
 降りると、眼前に巨大な岩石が鎮座しており、よく見るときらきらと黄金色の欠片が藍色や茶色などまるで地層のような色合いの層に混ざっており、形やサイズ感からしてこれは隕石だろうと推測出来た。黄金色の粒は金だろうか、ということはこれが金の母胎ということか。
 背後にはどす黒い海が広がっていた。黒い絵の具に白い絵の具を少しずつ混ぜていったような色合いで、近くには真っ白な岩が並んでいた。所々欠けているように見えるが、これも母胎なのだろう。
 そのまま右を向く、隕石の左側の奥に見えるのは真っ赤な洞窟だった。地球にある採掘場とはまるで違う。本能的にあの洞窟は近づいてはならないと悟った。あれがきっと、丹生にうの晶窟なのだろう。水銀の母胎だ。
 導師は内心恐怖心があった。しかしそれより遥かに好奇心が勝っていた。これより先、クリスタルが眠る晶窟の中を暴けるのか。
 「俺はまあ丹生の晶窟行けるっちゃ行けるけど、今日はあそことあそこな」
 そう言って指を差した先は海の方と枉磊の晶窟だった。
 「ちなみに、目の前にあるのは原初の母胎って言って、金先生と白金先生が産まれた場所だよ」
 ベリリウムがそう補足した。
 「原初……」
 「んじゃ、鉛は枉磊の晶窟行く?」
 鉄が鉛の方を振り返ると既に行く気満々だった鉛がすぐに頷き、歩き出した。
 「ベリリウムも鉛の方行けよ」
 「えー。鉄だけで大丈夫? 心配」
 じと、と怪訝そうな顔をするベリリウムに「へーきへーき!」と笑った。相変わらずの楽観視だが、一歩間違えば導師は簡単に過去の遺物となるだろう。
 「とりあえず、塩闃えんげきみぎわと、珊瑚の碞庭がんていと……沆核こうかくの谷底だな! 塩闃の汀ならドクターも採れるだろ!」
 そう言って真っ直ぐ岩々に向かって歩き出した。導師はそのすぐ後を追う。
 「ちょっと、気になったんだけど」
 「んー?」
 「名称は誰がつけたの? 金たちなのか、それとも先人の“異種”なのか」
 「あー、それはあれだ。異種の方だな」
 やはりそうなのか、と内心納得した。枉磊とはつまり「往来」を示す言葉遊びだろうし、塩闃の汀と言うのも岩塩群がある汀と言う意味だろう。丹生の晶窟も、丹生とは歴史的に意味のある言葉であり、珊瑚というのも地球にあるものだがここには存在していない。だが、それに似た何かがあると言うことだろうか。
 しかし分からないのは、原初の母胎。原初とはどういう事だろうか。この隕石だけは、金もしくは白金が付けたように感じる。
 「珊瑚、って見たことある?」
 鉄にそう聞いてみると、うーんと考えた後、「ちょっと待ってろ!」と言って海の中へ消えていった。
 かなり重たい音が響いた。それに水飛沫も重たいような、見慣れない不思議な感覚がした。やはり空気の影響だろうか。
 少しすると、鉄は何かを持って上がってきた。手には白くてごつごつとした質感の岩のように見えるが、太い枝分かれした形は珊瑚のようにも見える。
 「これ……か? 確か白金先生がこれを異種は珊瑚と呼んでいるーとか言ってた気がする! 多分!」
 白い珊瑚。それは地球にもあるが、珊瑚という生き物としてあるまじき姿だった。
 鉄からそれを受け取ってみる。かなり軽い。珊瑚のようだが生きてはいない、全く軽いが感触としてはざらざらとした石に近い。それに触るとさらさらと粉状の何かが宙を舞った。もしかするとカルシウムの母胎こそがこれなのかもしれない。
 「これ、カルシウムの母胎だよね」
 「お! さっすがドクター! そうだぜ、カルシウムの母胎のひとつだな。この中にいっぱいあんだぜ!」
 海の中にこの白い珊瑚がたくさんある、だから碞庭と言うのか。
 「このもっと下の方に沆核の谷底があるんだけど、見せれねえなあ」
 「大丈夫、ありがとう」
 「おう!」と満面の笑みで頷くと、バッグからツルハシを取り出し、「バッグはドクターに預けるな」と言ってバッグを抱えさせた。
 「これも一応入れとくか」手に持っていた珊瑚をバッグに入れると、ツルハシを構えて岩を掘り出した。
 力任せに砕いているが、大丈夫なのだろうか、と内心はらはらしたが、落ちた欠片をひとつ残らずバッグの中へ入れていった。
 「けっこー脆いなあやっぱぁ」
 「塩ならそんなもんじゃないかな」
 「そうなのかぁ?」
 導師としても専門では無い上に未知の土地の採掘に立ち会っているのだ。彼の疑問に答える術が無い。
 いくら掘ってもバッグの中は1%に満たないように感じる。よく出来てる収納袋だと感心してしまう。
 「おし、まあこんくらいかな!」
 カウント表示は65とあった。鉄はかなり力があるようなのでカウント数はあまり関係ないようにも思う。一回につきかなりの大きさの破片を落とすからだ。
 「よし、次は海の中だなー。ドクターは待っててくれよー」
 そう言いながら無意味だろう準備体操をしてまた海の中へ飛び込んで行った。
 自分もあの中に飛び込んでどんなものが沈んでいるのか見てみたい。否、沈むと言う表現はこの地では正しくない。何故なら海はのような高さだからだ。

── 第7章 了 ──

読んでくれてありがとう。良かったら作者にスキを送ろう。

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